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この道の果てに、何が待っているのだろう――

4/1掲載

挿絵(By みてみん)


紫色の空が、すべてを優しく包んでいた。

夕暮れの残光が、ピンクと紫に混ざり合って幻想的なグラデーションを描く。

雲がゆっくり流れ、まるで夢の中のような光景だった。

その下に広がるのは、古代の廃墟。

高くそびえる塔や、崩れかけた城壁が霧の中に浮かび上がる。

かつての栄華を物語る石の遺跡が、蔦に絡まれ、静かに眠っていた。

谷間を埋め尽くす巨大な建造物。

今はただの石の墓場だ。

そんな世界に、一筋の光る道があった。

地面に刻まれた、淡いピンクの光の線。

魔法の川のように、足元を優しく照らしている。

その道を、二人の影が歩いていた。

先頭をいくのは、小さな少女。

白い服を着て、銀色の髪を霧になびかせている。

後ろから続くのは、背の高い男。

黒いマントを羽織り、腰に古い剣を下げていた。

男の名前はシオン。

三十歳を少し過ぎた、孤独な旅人。

「リリア、急ぐな。霧が濃いぞ」

シオンの声は低く、落ち着いていた。

少女が振り返る。

十歳くらいの幼い顔に、笑みが浮かぶ。

「大丈夫だよ、シオンお兄ちゃん。この光が、道を示してるもん」

リリアと呼ばれた少女は、シオンの守るべき存在だった。

家族ではない。

だが、五年前からずっと一緒にいる。

世界が変わったあの日から。

五年前。

『大崩壊』が起きた。

空から降ってきた紫の光の雨。

それがすべてを飲み込んだ。

都市は崩れ、魔法が暴走した。

人々は怪物に変わり、生き残りはわずか。

シオンは当時、王都の騎士だった。

仲間と共に防衛線を張った。

しかし、無力だった。

紫の光に触れた者は、次々と倒れた。

シオンは運良く生き延び、廃墟を逃げ回った。

そして、崩れた神殿の奥でリリアを見つけた。

彼女は光に包まれ、怪物が近寄れなかった。

シオンは直感で彼女を抱き上げ、逃げた。

それ以来、二人は旅を続けている。

小さな集落を渡り歩き、食料を分け合いながら。

リリアには特別な力があった。

彼女の周りだけ、光が集まる。

そして、時には道を示す。

今歩くこの光る道も、リリアが導いたものだ。

足元の光が、温かい。

冷たい霧とは正反対に、心地よい。

シオンは時折、周囲を警戒した。

廃墟には危険が満ちている。

影獣と呼ばれる怪物。

大崩壊の残滓が生み出した、黒い影のような存在。

遠くから、低い唸り声が聞こえる気がした。

「聞こえた?」

リリアが小さな声で言う。

シオンは剣の柄に手を置く。

「うん。でもまだ遠い。急ごう」

二人は足を速めた。

光る道は曲がりくねり、廃墟の奥へ続いている。

左側には巨大な石壁がそびえる。

かつての城塞だろう。

右側は深い谷。

霧が底知れず広がる。

背景の尖った山々が、紫の空に溶け込んでいる。

すべてが、夢のような景色。

だが、これは現実だ。

シオンは過去を思い出す。

家族の顔。

妻と息子。

大崩壊で失った。

守れなかった後悔が、今も胸を締めつける。

だから、リリアを守る。

彼女がシオンの唯一の光だった。

「シオンお兄ちゃん、疲れてない?」

リリアが心配そうに聞いた。

シオンは笑みを浮かべる。

「平気だ。お前が元気ならな」

本当は足が重い。

五年の旅で、体は限界に近かった。

でも弱音は吐かない。

それが守護者としての役目だ。

道が少し広くなる。

光が強くなり、周囲を明るく照らす。

崩れた柱や壊れた像が、はっきり見える。

かつての英雄の像か。

今は頭部が欠け、苔むしている。

シオンはため息をついた。

「昔は、こんな世界じゃなかった」

リリアが静かに言う。

「うん。私も聞いたよ。空が青くて、花がたくさん咲いてたって」

二人は、失われた平和を想像した。

取り戻したい世界。

突然、霧が渦を巻いた。

前方から黒い影が飛び出してきた。

影獣だ!

四足で牙をむき、赤い目が光る。

「リリア、下がれ!」

シオンが叫び、剣を抜く。

刃が空気を切る音が響く。

獣が飛びかかる。

シオンは素早く身を翻し、剣を振り上げる。

一撃。

獣の肩を斬る。

黒い霧のような血が飛び散った。

獣は痛みで吠える。

だが引かない。

再び突進してくる。

シオンは剣を構え直す。

「この道は、俺たちのものだ!」

力強い一撃。

今度は首を斬り落とした。

獣は崩れ落ち、霧となって消える。

シオンは息を切らした。

リリアが駆け寄る。

「大丈夫? 怪我ない?」

「問題ない。軽い傷だ」

マントに血がにじむ。

だがシオンは笑った。

リリアの目が涙ぐむ。

「ごめんね、私のせいで……」

「違う。お前の力で道が開けるんだ。俺は守るだけさ」

二人は寄り添う。

光る道が、二人の体を優しく包んだ。

まるで励ますように。

傷が、少しずつ癒えていく気がした。

この道の魔法か。

シオンは立ち上がる。

「行こう。聖塔が待ってる」

リリアが頷く。

「うん。一緒に」

二人は再び歩き出した。

紫の空の下。

霧の谷間を。

光る道が、未来を照らす。

廃墟の塔が、遠くに近づいてくる。

その先には、何があるのか。

希望か、絶望か。

それとも、新たな始まりか。

シオンの心に、決意が宿る。

この旅は、ただの逃避じゃない。

世界を変えるための第一歩だ。

リリアの小さな手が、シオンの手を握る。

温かい。

二人の影が、光の中に溶けていく。

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