依頼に向けて 9
アナリズの言葉をさえぎり、オリチェがそう告げた。それからゆっくりと頭をあげた。
ルーチェからはオリチェの後ろ姿しか見えない。しかし、その背中はしっかりと伸びていた。
その時、パァンと手を合わせた音がした。音の方を見るとマスターが両手を合わせてアナリズとオリチェを交互に見ていた。
「さぁてとぉ。そうしたらぁ、これでこの話は終わりねぇん。アナリズちゃんの部屋はオリチェちゃぁんの近くにしておくわねぇん」
「わかりました。お願いします、マスター」
「はい」
アナリズとオリチェそれぞれが返事をした。それを聞いたマスターが満面の笑顔を見せながら、大きく頷いた。
「これでぇ、とりあえずはいいわねぇん」
言いながらマスターは通信端末を操作したあと片付けた。グラスを回しながら、オリチェの方へと顔を向けた。
「ところでオリチェちゃぁん。二人にどこに行くのか説明しなくてもいいのぉ?」
マスターのその問いかけにオリチェは一度、小さく身体を震わせた。それからゆっくりと顔だけマスターへと向けた。ルーチェから見えるその横顔は妙に輝いていた。
「い、いいんですか? お話ししちゃっても? オリチェ止まりませんよ?」
「んー、適度なところで止めてくれるとぉいいんだけどねぇん。何事も適度よぉん」
「わかりました! では、ルーチェさん、アナリズ。お話ししますから座ってください!」
ルーチェとアナリズそれぞれの方を向いて、座るように促したオリチェ。
ルーチェはカウンターに腰を下ろしていたので動かない。アナリズは先ほどまでポラーレが座っていた席まで移動し、腰を下ろした。
それを見届けてから、オリチェはカウンターを回って正面まで移動した。笑顔は変わらず、足取りも軽やかだった。
「それでは、四日後にプリーフケートで何があるかといいますと、オリチェが愛してやまないイルジオ様のライブがあります! ハイ拍手ー!」
言いながら拍手を始めたオリチェ。ルーチェとアナリズも顔を見合わせてから、軽く拍手をする。
「お二人は、イルジオをご存知ですよね?」
「ぼ、僕は名前だけ、ですが……」
「知らない」
「なっ!?」
ルーチェとアナリズの返答を聞き、オリチェが頭を抱えた。
「こ……これ、は……ふ、布教しないと……」
ぶつぶつと何かを言っているのが耳に届くルーチェ。オリチェを見ると、徐々に頭を上げながら、二人を見てきた。
「イルジオっていうのは!」
「ルーチェさん! アナリズさん! これを見てください」
オリチェの言葉をさえぎる声が飛び込んできた。




