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決意 5

 隣にいるアナリズが声をかけてきた。アナリズの表情は固く、唇を引き結んでいるように見える。マスターも同様にアナリズの顔をじっと見ていた。その表情は真剣そのものに見える。マスターは立ち上がって、服の埃を払った。


「ま、マスター?」


 マスターの動きを目で追いながら、ルーチェは声をかける。


「わたしはぁ、先に行くわぁ。時間がもらえるようにぃ、言っておくからぁん」


 そう言い残して、マスターがポラーレを追って歩いていった。ルーチェはその姿を目で追う。ポラーレの横まで行き、近くにいたキャンビアに話しかけていた。キャンビアが頷いた。


「アナリズ……何?」


 ルーチェがアナリズに問いかける。アナリズは固い表情のまま口を開いた。


「これから……どうするんですか?」


 瞬きひとつせず、ただじっと視線を向けてきたアナリズ。ルーチェは目を閉じる。しばらく目を閉じたままでいてから、ゆっくりと開く。その視線はアナリズの左目へと注がれた。


「……姉さんを……追う」


 ルーチェは声をかすかに詰まらせながら話す。


「それは、さっきの黒い髪の? あの人……ルーチェさんのお姉さんじゃないかもしれませんよ……」


 アナリズの言葉にルーチェは首を横に振る。それから、続ける。


「わかってる……。違うかもしれない、ってこと。……でも、どんな形であっても、あの人が姉さんじゃなくても追う。追わないといけない……。あの人を追った先に姉さんがいるかもしれない。そんな気がする、から……」


「…………」


 アナリズの瞳が揺れていた。


「……そう、です、か……」


 アナリズの言葉が小さく漏れていた。視線が伏せられ、ルーチェから逸らされた。アナリズの右手が握りこまれ、小さく震えていた。


「る、ルーチェさん!」


 勢いよく顔を上げたアナリズ。揺れていたはずの瞳は、ルーチェにしっかりと焦点が合わされていた。


「な、何?」


「きっと見つかります! お姉さん」


「そう、よね……アナリズ……ありがとう」


 ルーチェは左手を床について、身体を起こそうとする。しかし、バランスを崩してしまい、立ち上がれない。


「る、ルーチェさん!? 今誰か来ると思うので待っててください!」


 アナリズがルーチェから離れようとした。そこに―—。


「待って」


 ルーチェが声をかける。アナリズが足を止めた。


「聞かせて……アナリズの探している人は……いったい誰?」


「…………」


 アナリズの表情が再び引き結ばれた。唇が固く閉ざされた。ルーチェはそれでもじっとアナリズを見ている。ゆっくりと口を開く。


「教え……られない?」


 ルーチェの言葉がゆっくりと紡がれていく。アナリズはルーチェを見ながら、小さく首を横に振った。


「……く、……す」


 小さく、かすれた声が耳に届くがなんといったのか、ルーチェにはわからない。アナリズが近づいてきて、ルーチェに目線を合わせてきた。


「……家族、です」


 今度ははっきりと聞こえる。ルーチェの口元がほどける。


「だったら、同じか……アナリズ……その家族さん、一緒に……捜さないか?」


「…………」


 ルーチェの言葉にアナリズは視線を合わせず、彷徨わせた。その動きをじっと見つめるルーチェ。そして、ゆっくりと続ける。


「私にも……打算は、ある。リナシッタの捜索を手伝ってほしい」


 アナリズが今度こそ左目を向けてきた。ルーチェと目が合う。


「僕が途中でいなくなったらどうするんですか?」


「……困るけど、突然だったら……どうすることもできない。目的がある以上……仕方がない……でも、探すけどね」


「…………」


 再び閉口したアナリズ。しかし、その唇は強くかまれていた。


「……わかりました」


 その言葉は決して大きな声ではなかったが、ルーチェの耳にはっきりと届いた。


 アナリズの右手がゆっくりと持ち上がり、ルーチェへと手を差し伸べられた。


 ルーチェは右手を動かそうとしたが、痛みに表情を歪め、すぐに左手へと切り替える。その動きを見て、アナリズもまた自然に左手を差し出し返した。 ルーチェは手を伸ばしかけるが止める。目を閉じ、ゆっくりと息を吸い込み、そっと吐き出す。


 そして、アナリズの手をつかむ。


「よろしく……アナリズ」


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