決意 2
「マスター。大丈夫だから」
撫でながらそっと声をかけるルーチェ。ルーチェよりも大きいはずのマスターが今はまるで子供のようになっていた。グスッグスッという声が聞こえてきた。背中に床の冷たさが伝わってきたが、それ以上にお腹側の方が温かかった。
「マスター……ルーチェさんが一番大ケガなんですよ。そろそろ離れてあげてはどうですか?」
「グスッ……わかったわよぉん」
ポラーレに言われ、洟をすすりながら身体を起こしたマスター。顔を背け、ルーチェに見えないようにしながら、膝で動いて離れていった。入れ替わるようにして、ポラーレが左手を差し出してきた。ルーチェはその手を取る。
力強く引かれ、その力に合わせて起き上がるルーチェ。ふらつきそうになったのをバランスを取って立ち続ける。ポラーレは左手を持ったまま近づき、ルーチェの身体を支えた。
「おっと。大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう。ポラーレ」
「ここにいるということは、黒い獣とは接触しなかった、ということですか?」
近くの柱までルーチェの歩みに合わせて歩いたポラーレ。促されるままに柱まで行き、身体を預けるルーチェ。左手を柱につけるが、身体を支え続けることができず、ズリズリと下がっていった。ポラーレはルーチェの身体を支え、ゆっくりと座らせた。
「いえ、接触はした。でも、ピディーグ博士を狙っていたみたいだったから」
「ピディーグ博士を?」
「ええ」
ルーチェが短く言って首肯した。それから小さく息を吸い込んで吐き出す。
「それよりも……ペルデが爪を伸ばす真っ白な男に殺されました」
「えっ?」
「ペルデちゃんがぁ?」
「ええ。それと、真っ白な男も……」
そのままルーチェは語った。ペルデの死、ルーチェのアルテファットの右腕の傷、そして、真っ白な男もまたリナシッタに似た女性によって殺されたことを。
「ちょっ、ちょっと待って下さいルーチェさん!? リナシッタさんに似た女性って、あのアルヴィネンサのデータにあった、あの黒い髪の?」
ポラーレがうわずった声でルーチェに食って掛かった。見開かれたポラーレの目をルーチェは一度だけ見つめ返し、静かに頷いた。それをみたポラーレがルーチェの前にへたり込んだ。
「そう……ですか……。やっと、見つけたと思ったんですが……」
「ええ。ただ、姉さんに似た女性も姉さんを捜しているみたい……」
「どういうこ――」
「ちょっとまってぇん」
ポラーレとルーチェの間に、マスターが割り込んできた。さっきまで泣いていたせいか、目の周りが赤くなっていた。




