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第9話 Youは何しに辺境へ?

 おババとジュニアが薬草談義で盛り上がるのをよそに殿様は外に出て行く。


 ジュニアは腰を浮かせるのをおババが止める。


 「ただの散歩ですだ。行かせておあげなせえ。すぐ戻って来ますだよ」


 「出来れば今夜だけは早く寝かせて下さい。続きは明日も明後日もありますから」


 殿様はそれだけ言って出て行った。


 「毎晩お散歩に行くのは知ってるの。でもちゃんとしたお家に泊まるのは初めて見たの」


 ジュニアは、おババに聞いた。


 「明日からボクはここに預けられるの?分かってるの。あの人はきっとボクが来てからいろんな事を全部後回しにしてるんでしょ」


 「それも好きでやってる事ですだ。殿様は貴方さまを大層気にかけておって片時も傍から離さん、誰も寄せ付けんと、そこら中で評判ですだ。その割には随分と酷い扱いじゃ、いつもの暮らしはちっとも変えん、あれではお可哀想だとハラハラして居りましただ」


 赦してくだせぇ、と、おババは言った。


 「性分と言いましただが、歩きまわるのはそれだけではねぇですだ。殿様がそこにおるだけで何をするわけでもないのに、魔物はコソコソ逃げ出しますだ。だからあのお人は一か所に居ねぇですだ。一か所に留まると魔物はあのお人がおらん所に動いてしまって、行った先に居ついてしまいますでな」


◇◇◇


 月のない闇の中、殿様は民家の屋根の上を歩いていた。


 足音はしない。


 空気の匂いを嗅ぎ、目を見開く。


 屋根の上から鏡のように光る大きな目で少し離れた木立を見つめる。


 そして笑った。


 めくれた唇から鋭い牙がのぞいたが闇夜では見えない。


 だが木立の中で何かがうごめく気配がして、やがて消えた。


◇◇◇


 「まるで宿なしみたいな暮らしに見えますだが、逆だと思いますだ。あのお人にはこの土地の全部が自分の家ですだ。どこで寝ても全部自分の家の内な事に変わりねぇんですだよ」


 おババはジュニアの手を握った。


 「貴方さまが何のためにはるばるおいでになったのか、ババには分かりますだ。オラたちの領主さまの今の姿を見に来なさっただ」


 ジュニアは息を飲んだ。


 「殿様はこのたび、貴方さまに隠す事ないありのまんまをお見せしとりますだよ」


 「おババさま、ボクは、その……」 


 「ですが暫くは殿様もここに居りますだよ。この近所に近々死ぬ病人が居りましてな。殿様はその方を看取るまでここに留まるでしょう」



この回のサブタイは「ホームレス?いえ、むしろ自宅警備員」にしようかと思いましたが、ネタバレになるからやめました

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