第10話 ある家出、再び
子供の頃、友達と2人で家出したことがある。
昼間は足の続く限り遠くまで歩き、川の水で喉を潤し、木の実草の実を摘み小動物を狩って空腹を満たし、夜は星空の天幕の下で眠り、岩陰で雨宿りをし、魔物や獣と戦い、取り敢えず海を目指した。
海に出れば別の大陸に行く希望が持てる。
世界の果てまで自由に旅をしよう。
誰も見た事のないものを見、誰も手にした事のないものを掴み、誰も知らなかった事を知ろう。
だが旅はたった7日で終わった。
追っ手がかからない、と思った訳ではない。
2人とも自分には追っ手はかからず、友達にはかかると考えていた。
1人は自分が旅に出て強くなる事を両親は反対しないと考えていた。
もう1人は母の異なる兄や姉が顔も覚えきれないほどいたので、自分ひとりくらいいなくなっても誰も気にしないと考えていた。
しかし現れた追っ手は2人を連れ戻す事を目的としていなかった。
(殺そうとしている)
最初は旅人を無差別に襲う野盗の類と思ったが、やがて明らかに片方の子供の命を狙っているのが分かった。
狙われていたのは、自分が居なくなっても誰も気にしないと言っていた方だった。
狙われていなかった方は、もし友達を家に連れ戻そうとする追っ手が来たなら、おとなしく連れ戻されようと思っていた、と言った。
自分は歳も上だし重い罰を課されるだろうが、甘受しようと思っていたと。
でもこれは思っていたのと違う。
だからやっつけよう、これが冒険の最初だから。
そして殺し屋を差し向けるような所にはもう戻らない。戻さない。
子供というのは無茶をする、と今では思う。
本職の暗殺者集団を子供がたった2人だけで返り討ちにしようなど、大人の分別があればやらない。
撃退出来たのは、それだけ純粋だったからか、単なる幸運か。
しかし新たな追っ手が現れた。
次の追っ手は1人だけだったのに、全く敵わなかった。
◇◇◇
8年前
当時の第二十八皇子がお忍びで帝都郊外を散策中、行方不明になった事がある。
犯人は今でも明らかにされていない。
唯一随行した御学友、辺境獰猛候・通称『闇夜の爪』と宮中女官長・通称『暁の癒し』の惣領息子は、瀕死の重傷で発見され帝都の館に運ばれたが、意識も戻らず息を引き取ったと言われる。
辺境獰猛候は亡くなった長男に代わり、跡取りを病気がちで人前に出る事の少ない次男に変えたいと願い出て許された。
本当の大事件はその頃起きた。
皇帝が第六皇子の手によって暗殺されたのだ。
その後5年に及んだ帝都攻防戦の始まりだった。
次は第11話「タンポポの綿毛と尻尾と」です




