キホテ国葬
「我々は敗北を喫した、完全な敗北だ……。正面攻撃の結果とは言え被害は大きい」
帝国の主要幹部が集まった会議は戦争開始後では最も空気の重いものであった。
スペイン戦線の人食いパエリアン将軍の戦死は核による地球の汚染阻止のためのものであったので純粋な敗北による戦死という認識は薄かった。
だが、今回のキホテ第4騎士団長は東京強襲作戦を実行して正面から戦い騎士団ごと敗北して戦死した。撤退が許される状況でそれを拒否して継戦したことは各戦線の勝利に寄与したものの歴戦の勇士が堂々と戦い戦死したことの衝撃は尋常ではなかった。
なにせこの地球侵略戦争の経験で地球側が核攻撃以外で将官、団長級の人間を殺せるとは全く思っていなかったからである。汚染除去装置を各地に設置してからは脅威度としては下がっており慢心していた面もあるが。
「あの5人部隊のようなものがうじゃうじゃいたらまずいな、帝国軍としては各線線から波状攻撃をしてあの部隊を拘束している間に制圧をしたい。もしもどの戦線にも現れるようなら防衛するか全力か判断をしたい」
ナポレーンの提案は至極真っ当であり、他にあるかも知れない似たような特殊部隊を把握し、徐々に潰していこうという話であった。
日本方面の特殊部隊、ピュアハーツは国内から出られない公算が高いからこその提案である。
「騎士団としては弔い合戦をしたい、全力で攻めかかりたいが……第4騎士団は事実上消失した。2大隊は別の地球防衛軍部隊を撃退したのでおそらく他にはいない、転移装置を使えないだけの可能性があるが……第4騎士団を再編するか別の騎士団を後ろから持ってきて第4騎士団にするかどうするか」
アッサーの騎士団としての提案も本人ですら飲まれないと思っている弔い合戦を前に出して騎士団をどうするかの助言を乞う方に注力した。
「キホテが聞き出していた、ブラフかもしれんが日本国内のみ、多分エデソンがどれだけ技術に助言をしたとしても素材的に量産は出来ないだろう。そうだなシュタイン」
「はい。改良が精一杯、おそらく日本中に転移ができるのは現状あの部隊のみでしょう」
「よかろう……作戦遂行中に国外にあのような部隊が出た場合は……余が出よう」
「陛下が!」
皇帝の宣言に幹部陣は驚きを隠さずにいた。
「アッサー、騎士団のナンバー問題は好きにせよ、戦後の再編でも戦中の再編でも」
「本当に……陛下自らですか!?」
「キホテ第4騎士団長が敗北した事実は大きい、皇帝自ら穴埋めをしていると連中に思われても帝国軍の健在さと士気向上を行う。もし他国の別戦線にでた場合は帝国軍に動揺が走るからこそ余が出る。余が負けるようなら皆勝てまい、余を悪人にしてでも講和をせよ。現状占領領土は帝国領土にするように交渉する必要がある。断られた場合は……」
「その場合は弔い合戦ですよ、ねぇ?」
シタッパーは何気なく言うが内心は完全に憔悴している。
彼の読みでは確実ではないまでも三軍の実力者を揃えた戦闘であり、せめて負けはしないと思っていた。シタッパーの考えは間違っておらず、もし最初から命の風車を使っていれば彼の命を持って圧勝していただろう。
皇帝以外彼の戦死は見届けておらず残ったのは命の風車を使ってまで多少相手を負傷させたとの情報だった。
長年の付き合いのあるキホテ戦死はシタッパーに今後の方針をどうするべきかと彼の手に余る問題を突きつけていた。
もっとも上司のアッサーがキホテの最後を見届けたとしても戦闘の疲労によるものか技の反動なのか見抜けなかったので同じ結論だったであろう。
結果として帝国幹部は第4騎士団に圧勝し、キホテを軽傷程度で撃破したこの部隊に恐れを抱いていた。
実際は短期の入院と精密検査、エデソンの治癒マシンを使っても一ヶ月は戦闘に耐えうる状態ではなかったのだが。
「そうだね、陛下が倒されたところで我らを同時に相手取ることができるかは別だ。全戦線を捨てて幹部全員で立ち向かうのもいいな。それに戦闘相性の問題かもしれないし」
「その場合は宣撫の必要もないですしね」
「最悪の場合はこの星を主砲で吹き飛ばせばいい、私は戦争経緯もあってこの星の人間を評価していない」
「まぁ、余が勝つがな!もうバッとやってドーンで終わりよ」
いつもの雰囲気に戻してくれたシタッパーに皆が感謝しつつ会議は進む。
「では、報告を」
「海兵隊は沖縄を制圧。九州の重要拠点を騎士団から借りた空挺部隊で占拠、九州平定を進めています。一部敵軍は降伏しましたが、継戦する防衛軍も多少はいます。関門海峡は封鎖しました」
「帝国軍、北海道戦は掃討中。主要都市は同じく騎士団空挺部隊が占拠、函館は海兵隊が強襲上陸して占拠。今は面の制圧中です」
「騎士団、第4騎士団団長、及び直属騎士消失、2大隊は再編のため大井、羽田より撤退。拠点として維持する価値がないことが理由です。ただ空港施設は破壊しておきました。地球防衛軍側の装備で破壊したので多少の国民の不信感は稼げるかもしれませんが威力が弱かったので完全破壊には至りませんでした」
「さて……本州を全力で攻めるか、アメリカ側を攻撃するか、アラスカからロシアを攻めるか、朝鮮半島を抑えてロシア中国と対決するか。主導権はこちらにあるぞ、どこがいい?」
「流石に敵の5人部隊……何でしたっけ?の情報を集めたほうがいいと思いますが」
「一理あるな、ピュアハート?ハーツ?だったかな?」
「ハーツ」
「了解」
「では、情報収集を優先として日本攻略作戦は中断、以後堅守防衛とする。アフリカの植民に回す兵を抽出するか?」
「いえ、そちらは最優先で……月面基地の開発も続行でお願いします。兵数では勝っていますし単純に押し合いなら一般兵で死ぬやつはいますが勝てます。むしろ奇策を使いすぎると人類側の継戦意欲が上る可能性もありますし……卑怯な攻撃で負けた正面からなら勝ってたとか。矛先をそらすのは為政者の得意技ですからね」
「……余を責めてるか?」
「いいえ?」
基地完成と植民の地ならし、宣撫が終われば数十億の兵が浮くことになる。誰もが植民用の大地を適応化させる任務に回りたがり、そして3軍はそれを優先したがった。もしこの時点で日本攻撃計画を続行していれば数人の将官は死んだかもしれないが1月以内に日本は制圧され、後はあっさり終わっていただろう。
だがシタッパーの前世の知識が邪魔をした。どうせ1週間で治るような軽傷であると、ニチアサでは一般怪人に当たる中隊長よりも2つ上である団長を出したが負けたのだ。もうアッサーを出すしかないような戦況だと誤認させた。もし彼が誰でもいいから海兵団長を出していれば騎士団と規範が違うためこの時点ではあっさり追い詰めることが出来たのであるが。
「では、地球防衛軍を始末するか?」
「指揮系統を破壊するべきだろう、南アメリカでも日本でもアメリカ人が指揮をしていた。やはり地球防衛軍自体はアメリカが指揮をとっている可能性が高い。国連軍の看板を変えてアメリカがこねくり回したものだ、使われる国は哀れだな」
「アフリカでは欧州系の将官が多かったがアメリカ人もいた。区分の問題かもしれないがアメリカが人事権を持っていることは確かだろう。ここでアメリカを陥落させ地球防衛軍総司令部を壊滅させ国連本部を破壊するぞ!日本を孤立化させる!」
「今回の帝国の敗北で奴らは勢いづいたようだ、地球防衛軍の緊急会議をするとアメリカに招集しているらしい、最も欧州は飛行機を落とされるから拒否している国が多いがな、スペインが言うには武装を解いて乗れば落とされないからそれで行くらしい。そもそも味方のスペインの飛行機は落とさんがな、飛行機を遅延させるよう伝えておいた」
「カナダにも遅れるように伝えておいたので問題はありません」
「よし、3日後の会議の日に地球防衛軍総司令部攻撃を開始する、場所はロッキー山脈。山脈はどうせ均してしまっても構わん、地球のプレートを傷つけない程度にありったけの火力をぶつけろ!山脈を畑にしてやるぞ!」
「前日に東西海岸の海兵隊強襲作戦を実行します」
「よし、地球防衛軍総司令部壊滅作戦を発動する!副目標はアメリカ攻略!国連本部破壊!諸君らの健闘を祈る!」
帝国議会にて、一人の男の戦死追悼が中継されていた。
「敵は我らのキホテ第4騎士団長を討ち取った、これは真実だ。だが我らは負けたのだろうか?」
「「「「「「否!」」」」」」
放送映えするように元老院議員たちは声を揃え、腕を振り上げる。
帝国議員たちも声はあげるが腕までは振り上げない。先導役と同じ動きはせずに声だけをで応じている。
「そうだ、北海道は落ち、沖縄九州も落ちている、四国さえもだ!なのに彼らは勝利を叫んでいる!当該地域の日本人の皆様、あなた方は地球防衛軍から、日本政府から見捨てられました。勝利ための生贄で、第4騎士団長の命のほうが価値があるからどうでも良い存在だと言われたのです!我々帝国は武力行使、及び帝国に損害を与えるテロ行為ハラスメント攻撃行為をしない限りは同じバルサク宇宙帝国臣民として扱います。帝国選挙参加も立候補もご自由にどうぞ!帝国には人種も加入歴も無意味!罪を犯さなければ自由に生きればよいだけです!」
「「「「「「新たなる同胞万歳!」」」」」」
「そして帝国議会は数々の功績を打ち立てた愛国者であり、最後のその時まで奮戦し、各戦線を支えるため撤退をせずにピュアハーツを足止めしたキホテ第4騎士団長に議会黄金勲章を授与したい!」
「「「「「「賛成!」」」」」」
「ここにキホテ氏に議会黄金勲章を授与する!」
元老院議員、帝国議員の盛大な拍手に迎えられ、キホテ団長の遺族に勲章が手渡される。
「「「「「「英雄万歳!キホテ第4騎士団長万歳!」」」」」」
「彼への黙祷を、黙祷!」
「「「「「「…………」」」」」」
地球防衛軍はこの世界放送を利用し、バルサク宇宙帝国の高名な悪の帝国の騎士団長をひとり討ち取ったと喧伝した。
地球防衛軍の素晴らしさと強さ、5人で欠けなく一つの騎士団を倒せたことを喧伝し続けたが、それは当該地域の日本人なぞどうでも良いし犠牲には入らないと世界的に声明を出したことと同じことであった。
各戦線でも多少の戦闘はありアメリカのメキシコ国境沿いの街や中東の最前線、東南アジアの戦線などの地域の地球防衛軍も声明を出した地球防衛軍に同じ怒りを抱くのであった。
演説が終わったシーザは報告のため皇帝に謁見をしていた。
「シーザはこういうのがうまいな、演出家だ。余より皇帝に向いてるのではないか?座るか?」
「お戯れを……」
「国葬が終わり次第だがキホテに帝国英雄の称号を授けよう。勲章は何が妥当だろうな?」
「局地戦に過ぎませんし、撤退も許される状況であった……その上で敗北でもあるので……いかほどか。歴戦の勇士であり各軍との協力経験がある彼が生きて戻ってくればどれだけ今後助かったか……無念です……。前例から考えて4位勲章あたりで妥当かと」
「そういうわけにもいくまい?議会の最上位勲章の叙勲だしな」
議会と比べて彼を軽んじてるとも割れることは避けたい。
長い付き合いとは言えどもえこひいきをするわけにはいかないのだが。
「軍の功績はあくまで別であるべきです」
「ワープ範囲が事実であればこれを聞き出したことも功績であろう?アメリカで連中がでてこなければ真実として……3位勲章か?」
「そうですね、真実ならそれでいいでしょう……ありがとうございます」
「シーザが礼を言うことではあるまい。さて、それでは……国葬の準備をするか、弔砲はロッキー山脈に響かせようではないか……シュタイン、始めよ!」
「出来ております、後は当日をお楽しみに」
「流石、早いな」
こうしてアメリカ合衆国の最後が始まる。




