母と朝ご飯①
テストの最終日は金曜日だったので、土日は休日だ。休日の間、勉強と家事をしつつ歌詞を書き上げた。
ある程度出来ていたので、後は全体的にしっくりくるように調整するだけだ。
「あれ」
日曜日の朝。一階に下りると、母がリビングで寛いでいた。服装も仕事着ではない。
母の仕事は曜日など関係ないので、日曜日が休みではないことが多い。今日は休みだと聞いていなかったので、驚いた。
咲夜の声に反応して、母が振り返った。
「咲夜、おはよう」
「お、おはよう。今日仕事じゃなかったっけ?」
父は今出張でいないから、それは分かる。カレンダーを横目で見るが、今日が休みだと書いていない。
「急遽休みになったの。いい加減に休めって、ブラック寸前まで働かせているのは、どこのどいつよっていう話よね~」
「うん。でも、最近は働き詰めだったから、ちょうど良かったんじゃないか?」
「その点は良いんだけど、どうせなら咲夜のテスト中に休ませてほしかった。テスト中くらい、家事をやってあげたかったのに」
唇を尖らせて愚痴を零す母に、咲夜は一笑した。
「いいよ、別に。母さんだって仕事で疲れているんだから」
「母さんが良くないの! たまには咲夜のお世話をしたい!」
「オレのお世話って、母さんにはいつも世話になっているんだから気にしなくても」
「そういうお世話じゃないほう!」
ぷぅ、と頬を膨らませている母を見て思う。いい歳のはずなのに、何故その表情に違和感がないのか。童顔だからだろうか。
「それはそうと母さん。朝ご飯は食べた? 食べていないんなら作るけど」
「いいわよ。美味しいって噂のパンを買ってきたの。咲夜の分もあるから、一緒に食べましょう」
「じゃあ、お湯を沸かそうか?」
「お願い。母さんはパンを焼いておく」
母が立ち上がり、台所に向かう。咲夜も机の上にあったヤカンを手に取り、中の水を出して軽くゆすいでから、水を入れる。
「母さん、飲み物は何がいい?」
「コーヒーで」
「ミルクは?」
「いるー!」
「分かった」
電気コンロにヤカンを乗せて、スイッチを入れる。その間にインスタントコーヒーとミルクと自分用のカフェオレのスティックを取り出した。
マグカップを取り出して、母の好みの薄さになるくらいの豆を入れて、自分の分のカフェオレも入れる。
家の電気コンロは火力は弱いが、水の量は少なめに入れたのでわりとすぐに沸騰した。
「コーヒー、淹れたよ」
「ありがとう。こっちはもうすぐ……」
と、母が呟いたところでトースターがチンッと音を鳴らした。母があらかじめ用意していた皿にパンを移す。パンは食パンではなく、クロワッサンのようだ。
母の席にミルク入りのコーヒーを置いて、自分の席に座る。母がクロワッサンを載せた皿を机の上に置いた。香ばしいパンとバターの匂いが織り混ざって、嗅ぐだけでも食欲が湧いてくる。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
熱いクロワッサンを摘まんで、自分の皿に載せる。一口分を千切って口の中に入れた。
「これ、もちもちしている」
「米粉のクロワッサンだって。しかもクリームチーズ入り」
「あ、本当だ」
さらに千切ると、クリームチーズが練り込まれていた。その部分を食べてみる。
「美味しい?」
「うん」
「よかった。咲夜、絶対にこれ好きって思った」
母が嬉しそうに笑う。
「そういえば、テストはどうだった?」
「赤点はないと思う」
「上々じゃない。さすが咲夜」
「別に……」
「謙遜しなくてもいいのに」
母が肩を軽くすくめて、コーヒーを飲む。咲夜もカフェオレを飲んだ。
「そういえば、部活に入るかもだって?」
「母さん、いつの間に暦と……」
咲夜が学校でどう過ごしているかどうかの情報源は、主に暦だ。最近は暦も母と会う時間はなかったはずだ。
すると、母がきょとんと首を傾げた。
「言ってなかった? 母さん、暦ちゃんとラインで繋がっているの」
「初耳なんだけど」
「あらまぁ。まあ、そういうことだからよろしくね」
「なにがよろしくだよ」
母と暦が仲が良いとは知っていたが、ラインを交換する程の仲とは知らなかった。
前向きに考えよう。自分のスマホの電池が切れたとしても、暦に頼めば母に連絡してくれると。




