テスト②
そのままテスト期間に入り、テスト本番を迎えた。その間、久留島類と会話らしき会話はしていない。久留島類が話しかける前に、取り巻きが遮るからだ。放課後も部活がなく、暦と一緒にすぐ帰るので図書室には寄っていない。
歌詞もテスト勉強の息抜きとして書いている。初めての作詞だから表現の壁や言葉の言い回しに詰まることがあるが、歌詞を考えること自体は苦ではなく、むしろ楽しかった。すとんと落ちる表現が出てきたときの感覚が、とても気持ちよかった。
油断しているとそちらに集中してしまいそうだったので、途中から自重した。
テスト最終日。張り詰めた空気が教室を支配する中、待ちに待ったチャイムの音が鳴り響いた。
「テスト回収ー」
担当の梅田が声を掛けた瞬間、張り詰めていた空気がぷつんっと切れて、肩の力を抜いている音があちこちから聞こえ始める。
一番後ろの席の人にテストを渡し、咲夜も肩の力を抜いた。全てのテストにおいて手応えがあったので、赤点はないだろう。それも相俟って安堵感が心を満たしていた。
「おつかれさん。今日はこのまま放課後だ。部活ある奴は今日から再開なところもあるが、まあ適当に休んどけ。ということで、解散」
号令をした直後、教室があっという間に喧噪に包まれた。あちこちから、テストどうだった、だの、赤点取っているかも、と安堵と絶望の声が耳に届く。
咲夜も開放感に包まれ、背伸びをした。
今日は暦も部活がない。すぐに帰ろう。
と、席から立ち上がった瞬間。
「丹羽ー!」
聞き覚えのある声が、咲夜を呼ぶ。
振り向くと廊下側の窓から、錦が顔を覗かせていた。
リュックを背負って、錦の許へ行く。
「なんだ?」
「なあ、これから部室に行かないか?」
「軽音部は今日から部活再開か?」
「おう! 夢野がものすごいスピードで部室に走って行ったから、追いかけようぜ」
夢野、とはベースのことである。テスト本番中はベースを弾くのを自重するとは聞いていたが、テストが終わったので思いっきりベースを弾きたくて仕方ないのだろうか。
「でもオレ、これから暦と」
「あ、それは問題ないぞ。四組に途中寄って、丹羽借りていいかって訊いたら、許可が下りたから。あと伝言。瓜谷さんと佐藤さんとカフェ寄って、帰りは佐藤さんに送ってもらうから心配しないで、だって」
「……」
用意周到というか、ちゃっかりしているというか。
咲夜は溜め息をつく。
「お前、何気に暦と仲良くなっていないか……?」
「仲良くというか。どちらかというと、娘をよろしくお願いしますと母親に頼まれたような感じというか。そういえば、初めて会ったときもそんな感じだったなぁ」
「おい。娘ってなんだよ」
聞き捨てならないたとえに思わず、軽く睨めつける。
「いや、でも、本当にそんな感じだった。いつの日かお菓子折りっていうの? あんなの贈られそうな勢いだった」
「さすがにそこまでじゃないんじゃ」
「本当だって! なんか友達がいない子供に初めて友達が出来て、友達になってくれてありがとう、これからもこの子のことをお願いねっていう母親の顔だった!」
「ぐ、具体的だな」
娘というものだから、てっきりそちら方面かと思っていたがそういうことではなかったらしい。それなら息子でもよかったのではないか。
「あー、うん。じゃあ、行くか」
暦がそう言うのなら断る理由はない。軽音部の雰囲気は騒がしいが嫌いではないから。
「よし! じゃあ、行こうぜ!」
そのとき、ぶるり、と錦が震えた。疑問符を浮かべながら、両腕を擦る錦を見る。
「どうしたんだ?」
「なんか急に寒気が」
「風邪か?」
梅雨だから、今も雨が降っている。湿気が多くて蒸すので、寒くはない。寒くないのに寒気がしたということは、風邪の可能性がある。
「風邪……違うかな? 鼻水も出ていないし喉も痛くない」
本人もよく分からないのか、返事がたどたどしい。
「初期症状かもしれないな。帰りに葛根湯買うか?」
「うーん。多分風邪じゃないから、大丈夫」
「風邪だったらどうするんだよ」
「その時はその時で!」
「分かった。風邪だったら無理するなよ」
「ああ! 心配してくれてサンキュー」
錦がニッと笑った。
「よし、行こうぜ!」
「ああ。廊下走るなよ」
「反省しているから走らないぞ!」
ドヤッと親指を立てる錦に苦笑して、咲夜は教室から出た。
一瞬、背中に突き刺さるような視線を感じたが、振り返らず無視した。




