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Chaptar03 白の国(1)

「白」の王国、北方領、3番空港――

 空港内には多くの「白」き騎士たちが縦列に整列し、待機していた。その姿は空港に到着したばかりの船の機内からでもはっきりとわかった。どうやら、あまり喜ばしくない迎えが待っているらしい。

「すっごいなぁ……前回以上に来ているぜ?なぁ、アスウェル……やっぱりお前は本物なんだな」

 思わず苦笑いをした。「白」き英雄としての地位と権力はここにいる一階級の兵士達にとっては、空にある星のように遠く、そして巨大なものに感じただろう。「白」き英雄とはそこまでの影響力を持っているが、実際はどうなのだろうか。少なくともこの場にいる兵士たちが頭の中で考えているほど良いものではない。「白」の国を守るために、自らの「命」を捧げて戦場で戦うのだ。その時代、その時だけもてはやされて、そして用が済んだら切り捨てられてしまう、そんな「もの」なのだ。人権など存在しない。あるのは「システム」の一部である「もの」としての認識だけだ。今回の出迎えはきっと「白」の王によるものだろう。そうでもなければこんなに多くの騎士が動くことは絶対ありえないことだ。

 周りの兵士達がザワザワしている中、離れ離れにならないようにヨルダの手を握り締める。

「シロエ。私は大丈夫だよ。それより、シロエの方が……」

 小声で喋る。「シロエ」という名が聞かれてはまずいと、さっとしゃがんでヨルダに耳をかす。

「ごめん……まだ、みんなの前じゃアスウェル(・・・・・)だったね」

 顔を赤くしたヨルダは羽織っていた黒いフードをかぶった。

「いいんだよ、ヨルダ。ヨルダまでアスウェル(・・・・・)と呼ばなくていいんだ。その名は死んでいた頃の俺の名前だ。俺はアスウェルなんかじゃない。『シロエ』という本当の真名があるから。せめて、ヨルダだけでも『シロエ』と呼んでくれよ」

 黒い布の間からヨルダの白い瞳がのぞかせた。口元はふっと柔らかく微笑んでいた。

「じゃぁね、じゃぁね!シロエって呼ぶね!」

 嬉しそうな表情で両手をブンブンと縦に振って喜ぶヨルダの姿を見て、少しばかりか緊張していたものが解れた。

「ありがとな!ヨルダ」

 お礼としてはおかしいかもしれないが、ヨルダの頭をフード腰に優しく撫でた。

「えへへっ……」

 照れ隠しな表情でヨルダは笑った。ヨルダだけが今の俺の味方だ。「アスウェル」という偽名の呪縛から開放してくれたヨルダこそ、俺にとっての真の女神なのかもしれない。

「アスウェルーーそろそろ降りないかい?」

「あ――……そうするか」

「決定権はやっぱりこの小隊のエースでもあり、我が国も英雄様に委ねようじゃないか」

「おいおい……そこまで持ち上げることはないだろ。照れるじゃないか」

 口ではそう言いつつも、実は内心で焦っていた。ヨルダの存在を隠すためにはどうすればいいか。あの騎士達の大群の中、ヨルダだけを逃がすのも忍びない。せめて、あの騎士達さえいなければ、スムーズにヨルダを保護できるのだが……

「シロエ。行こうよ!行かないとすべてが始まらないよ」

 まっすぐな目線でヨルダは見つめてきた。そして左脇腹近くにそっと寄ってきた。

「あぁ。ヨルダの言う通りだな」

 くよくよしていても仕方がないよな。恐れていても、何もしなければ何も起きない。それがどんなに良いことでも、悪いことでも……

 たとえ悪いことが今から起きたとしても、俺はそれに向き合わないといけない。

 脈打つ心臓の鼓動を身体全体で感じつつも、目の前に整列している騎士達をきりっとした表情で見た。ぎゅっと左手をヨルダが握り締める。緊張感が握り締めたヨルダの手から伝わってきた。しかし、それと同時に勇気も伝わってきた。どんな運命が待っていたとしても二人なら立ち向かって行くことができる。そんなに気がしてならなかった。

 見下ろすとヨルダが優しく微笑んでいた。

 「わたしもシロエと今同じこと感じていたよ」と言わんばかりの顔だ。

 【時女神】ローデルも俺達二人の運命がわかっていてこうしてヨルダの命を俺に託して逝ったんだろう。自分が死ぬことさえ分かっていても、前に進んでいった彼女(ローデル)のように俺も前に進んでいく。どんな手を使っても……ヨルダの笑顔だけは守りたい……いや、守るんだ。

 目の前の扉が開き、地上に繋がる階段が降ろされる。いよいよあの忌々しき「白」の大地と踏むのだ。マントをばっと広げて、全身をくるんだ。

「ヨルダ……いいかい。絶対俺のマントから出ちゃダメだぞ」

「うん……」

 小声で返事した後、ヨルダはバサバサと波打つマントの中に隠れた。

 今考えつく方法はこれしかない。俺のマントは地面を引きずるくらい長く、全身を包み込むほど大きい。今は、ヨルダと一緒になってこの状況を切り抜けることが一番先決だと考えがいきついた。あとは怪しまれないように歩いてまずはこの機体から出ることだ。


 コツン。コツン。


 不自然に見えないように、ゆっくりそして堂々とした態度で一段一段階段を降りていく。久しぶりに肌で感じた祖国の風は生暖かく、そして鋭く尖っていた。

 一段足を踏み入れる度に、機体の周りで整列している騎士達の歓声が聞こえてくる。

「おいっ!出てきたぞ!」

「すっげぇ……やっぱ気迫が違うなぁ……」

「あれが……我らの英雄殿か……」

 ザワザワと様々なことが四方八方から聞こえてくるが、全く気にもならない。器が大きいからか?それともいつも以上にゆったりと落ち着いているからか?どれも違う答えだ。今、これまでにないほどのレベルの緊張をしていた。だから周りが何を言っても、騒いでも気になんてならない。頬を一筋の冷や汗がつたう。ヨルダと手をつないでいる手も、もう片方の手も汗を大量に握り締めている。今にもヨルダの存在が明るみにさらされるのではないかとドキドキしていた。俺の心臓の音も、ヨルダの心臓の音もはっきりと感じる。二人を緊張という名の静寂した白き世界が包み込む。そこにあるのはただ「ドクッ、ドクッ」と早いテンポで脈打つ心臓の音だけだった。

 最後の階段に差し掛かった時には既に息も荒々しくなっていた。階段を降りる前はあんなに落ち着いていたのに、今は扉を開ける前の二倍……いや三倍以上の呼吸をしているのかもしれない。歩くリズムもだんだん早くなっていった。これではヨルダがついてこれない。と頭でわかっていたとしても、この時の自分の足を動かすペースはどうしても遅くすることはできなかった。あまりにも緊張していて周りが見えていなかった。

『ちょっと……シロエ……早いよぉ』

 シロエの数倍の歩数で歩いていたヨルダは息を切らした状態で、必死にシロエにしがみついていた。

『でも……音を絶対たてちゃいけない……』

 顔を赤くし、息を切らせながらもヨルダは必死にシロエのペースに合わせていた。ヨルダがそんな状態とは知らずにシロエはサッサと歩いて行く。

『くそ……バレるなよ。絶対バレるなよ……』

『もうだめ……』

 その瞬間ヨルダに限界が訪れ、シロエから離れた。

「!」

 ヨルダの手が離れていく一瞬をシロエは見逃すことはなかった。

「痛ったっ……」

 思わず『痛い』ことを主張してその場に丸くなるように跪いた。もちろんヨルダの全身が外から見えないように、ふわっとマントで優しく包み込んだ。

「アスウェル?!大丈夫か?!」

 後方から同乗していた兵士達が駆け寄ってきた。

「なんとか……な」

 兵士達に大事無いことを苦笑いとともに伝える。危なかった。考え込みすぎていたせいでヨルダの歩くペースのことなどすっかり忘れていた。状況は少し悪くなったが、まだまだ立て直しが効くと思う。今は、この状況をなんとかごまかして再び進むことだけを考えよう。

「……ふわあぁ」

 マント越しにヨルダの乱れきった息が聞こえる。左腕でそっとヨルダの背中をさすって落ち着かせる。

「ごめんな」

小声でヨルダに囁いた。するとヨルダから「大丈夫だよ」と言ったような感じが伝わってきた。ヨルダの無事を感じてほっとした瞬間、整列していた騎士団からつぶやきが聞こえてきた。

「……なんだ?この感じは」

「ただの違和感じゃないのか……」

「でもな……明らかに違う気配が……」

 ザワザワとざわめく騎士達。もしかしてヨルダの気配を感じ取ったのか?ヨルダの気配が周囲に感じ取られないようにずっとカモフラージュで力を働かせていたが……もしかして、今さっきほんの一瞬気を緩ませたのが気配を周りに漏らしてしまったのだろうか……このままだとまずい気が――


ザッザッ


 真正面から一人の騎士がゆっくり歩んでくる。周りの騎士達とは違って少し違った装飾を身にまとっている。全身に覆ったシルバーの甲冑の胸元当たりに、赤と金と白で刺繍された階級証がついていた。赤い生地に金の丸が三つ……彼はきっとこの騎士団の隊長クラスの人物に違いない。

『とうとうおいでなすったか……』

 彼は目の前で立ち止まり、腰に右手を当てながら少し笑みを浮かべた。

「英雄アスウェル殿!どうかなされましたかな?」

 いかにもって感じの台詞が彼の口から出てきた。今さっきの不自然な笑みもきっと何か訳がありそうだ。

「申し遅れました。私、この部隊の隊長をしていますタニスと申します」

 こりゃご丁寧な挨拶をどうもってね。

「英雄と周りから言われているアスウェル(・・・・・)です」

 こちらも彼と同様にニヤリと微笑んだ。彼からは何も笑みに関する回答が返ってくることもなく、次の言葉が彼の口から出てきた。

「横腹を押さえて……怪我でも負われたのですか?アスウェル殿」

 きっと彼の質問は俺達の腹の内を探るためのモノに違いない。「白」の王がよこした騎士団の隊長となれば、きっと「白」の王の意向の一つや二つは聞いているに違いない。ここで返答にミスはしてはいけない。気をつけなければ――

「これは……ちょっと、戦で傷ついたところが再び開いてしまってですね――思わずこんな姿勢に……アハハハッ失礼した」

「左用でございますか~」

 彼の不気味な笑みがその答え方と合わさって更に不自然さを醸し出す。

「それは、それはー難儀でございましたな。どれ?私に見せてもらえますかな?その(・・)()

 弧を描いたような細い目元からほんの少し見せる青い瞳孔が、まるで嘘を言っているのが読まれているように感じさせた。冷たく鋭い目線だった。

「えっ……まさかねぇ」

「大した傷ではないですよ!ハハハッ」

 今さっき以上に汗が顔全体を伝って甲冑の中にドンドン入り込んでいく。

「いぇ!いくら英雄とは言えど負傷は負傷。直ぐに治療をしましょう!」

 彼のその言葉を聞いて駆けつけたかのように、複数の衛生兵が自分を中心に円を描いてじりじりと近づいてきた。はめられた。彼らはこうやって俺を身動きがとれないような状況にして逃げられないようにするのが目的だったんだ。こんなに近くまで囲まれたら逃げ出すこともできない。もし逃げられたとしても、周りの騎士達が黙ってはないないだろう。そして、ヨルダの存在を隠しながら逃げるのは非常に難しいことだろう。そんなことを一瞬考えているうちに、彼らはまた一歩、また一歩近づいてきた。

『……まずいことになったぞ……どうこの状況を切り抜けるか……このままでは拉致があかずにマントがはぐられたら、一発で即アウトだ』

『何事もなかったように立ってこの場を立ち去るか?』

『いや……ダメだ。ただじゃこの場を逃がしてはくれないだろう』

『思い切ってヨルダの存在を知らせるか?』

『それもダメだ。このことは第一に秘密にしないといけない』

 考えれば考えるほどにこの状況がとても切り抜けづらいことが明らかになってしまう。まさに八方塞がり……ってところか。どうする……時間はあまりない……

 丁度彼らが俺を中心に半径三メートルというところまで近づいてきた時だった。後方から彼の名前を呼ぶ声がした。その声を誰が発したのかはこの時は全くわからなかったが、俺やヨルダからしたらこの声に救われたといっても間違いないだろう。

「タニスさんよぉー!ちょっとええかいのぅ?」

 ガラガラで猛々しい声だった。振り向けば声の主の姿があった。周囲にいる騎士達とは違い、薄汚れたヨレヨレの甲冑に土煙で汚れた頬。所々に戦の傷。怪我ももちろんしていた。階級は彼らとは雲泥の差だったが、それでも声を張って主張した彼は彼らに勝る何かを感じさせていた。

「君は?一体誰なのだね?身分をわきまえたらどうなのかな?」

 ずんと構える彼……そういえば、船内でヨルダのことについて他の兵士達に問い詰められた時になんとなく助けてくれたような、助けてくれなかったような……とりあえず彼の顔は忘れない。あの時の人だ。

「これはこれは、騎士様。申し遅れました。あっしのはズゥと申します。アスウェルさんとは共に戦場で戦った仲間です」

「自己紹介はいい。その……なんだ、ズゥくん。君はそもそも私達騎士に対して発言してい良い権利なんてないのだよ。今さっきの発言は許してやろう。だが、今後は気をつけたまえ」

 鼻でズゥのことを笑った。きっと彼ら騎士達からすれば、一人の兵士の発言などそこまで影響力はないと思っているのだろう。それに、ズゥとタニスは身分が違いすぎる。庶民から出てきたズゥに対して、タニスはきっとなの通った家から出たに違いない。どんなに庶民から出た兵士が頑張ってもタニスのような地位には一生なれないだろう。これも「白」の王の作り出したシステムの一つだ。

「タニスさんよぉ。身分が違って発言権など俺にはないかもしれないがな、これだけは言わせてもらうぜ」

「だから君に発言権など――」

「アスウェルさんは俺たちみたいな並の兵士でも治療できないってことだよ」

「そ、それは貴様達の技量が足りないのだからだろう」

 ズゥは首を横に振る。

「ましてや、タニスさん達みたいな上等兵でもな」

「な……なにをっ!言わせておけば図に乗りおって!」

 タニスは額に血管を浮かび上がらせ、ピクピクさせながら右手の拳を強く握り締めていた。

「今のアスウェルさんに必要なのは、俺達の治療なんかじゃねぇ。休息だ」

「休息だぁ?」

「アスウェルさんならこのくらいの傷は半日休めば治りますよ!ねぇ?アスウェルさん」

 ドヤ顔でズゥは見つめてきた。もちろん彼の言うとおりだ。君達の治療などは必要ないことだ。俺は昔から少しの傷は休めば自己修復できていた。これもきっと『英雄』だからだろう。というより、そもそも怪我なんてしてないのだけどね。

「治る。半日、我が家で休めば……な」

 もちろんと言わんばかりの顔で微笑み、片手の親指をビシッと立てた。

ズゥ……なんて良いタイミングでこの事を……いや、なんてナイスなタイミングでフォローしてくれたんだ!

「ふっふふぅん。アスウェル殿がそう言い、さぞかし花が高かろう。だがな……アスウェル殿のその行動は認められないのだよ……」

「なにぃ?」

『なんだって……まさか』

 ズゥはその回答が返ってくるとは思っていないと言わんばかりの表情で、その発言をした。

「何せこの後アスウェル殿には、王の間にて報告の義務があるからな。そのような命令が「白」の王から申し付けられていたはずだがな……ですよね?アスウェル(・・・・・)殿」

 予想通り来たか……王はやはり何か感づいたか?

「王が呼んでいるなら、しかたがないなぁ……ねぇ、アスウェルさん」

 ズゥはしぶしぶその場を後退りしようとしていた。絶好のこの場から離れるタイミングを失ってしまった。それと同時に、ヨルダを逃がすという選択肢がなくなった。

「同行願えますか?アスウェル(・・・・・)殿?」

 考えていた中で、最も悪い状況になろうとしていた。いや、なっていた。ヨルダの息は落ち着いていたが、この場から逃がすことはできなくなってしまった。このままヨルダをズゥ達に託したいが、その後無事にヨルダに会えるかわからない。そもそもズゥ達は完全に「白」の王に服従しているため、「白」の王の命令ならばヨルダを差し出すかもしれない。このまま強引に逃げようとすれば必ず追っ手がやってくるだろう。俺一人ならどうにか切り抜けることはできるかもしれないが、ヨルダがいる分安全にこの場を切り抜けたい。ここは思い切ってヨルダの存在を公開して切り抜けたほうがいいかもしれない……

「タニス部隊長殿――実は」

 ほぼ全身を包んでいたマントを少し開いた。

「な……アスウェル殿!この娘は一体……」

 あっけを取られたような顔でタニスはまじまじとマントの中を見た。

「あまり大きな声を出さないでくれ」

 人差し指を立てて小声で言う。ヨルダもじっと黙ってタニスの顔を見る。

「アスウェル殿!一体どういうことなのですか、説明を求めます!」

 それでもタニスは大きな声を出して問い詰めてきた。

「この娘は俺の知り合いの子供なのです」

「知り合いの?」

「今回の作戦で秘密でこの娘の保護もあったのですが、どうにもこの状況ではこの娘の存在を明らかにすることはできなくて……なにせ、極秘任務でしたから」

 ヨルダとアイコンタクトをした。こちらの考えを理解したように、ヨルダはうんうんと何度も頷いた。

「一体どういった……アスウェル殿!その子供は」

 タニスの目はいかにも蔑むような眼差しだった。なにせ、ヨルダは忌み嫌われている「白」と「夜」のハーフなのだから。

「タニス部隊長もひと目で分かりますよね。この娘はあなたの考えているように、ハーフなのです。それも、私達「白」と前まで仇敵だった「夜」の」

「えぇ。これは周りに見せないほうがよいですな。だから、極秘作戦だったのですかな?」

 すべてを理解したとタニスは小声で会話を続けた。

「そうです。しかも、この娘は我が国でも有数な富豪の娘さんで……だからこの娘を依頼主に届けたいのだけど……」

「それなら、私達が……いぇ、これはやはりあなたがそのまま隠して届けるべきですね」

「タニス部隊長……わかってくれましたか」

「えぇ。私とて二児の父親ですので、親御さんの気持ちは十分わかります」

 タニスとぎゅっと握手をした。この嘘がバレてしまったら全て水の泡になってしまうが、この表情だとタニスは俺の嘘にまんまと引っかかってくれたらしい。

「すまないが、直ぐに王の間に戻る。だが、少しの間ばかり俺に時間をくれ……」

「わかりました。あなたの言葉を信じます。なんとかこちらでもあなたが遅れる事をカモフラージュしておきましょう」

 サッとマントで再びヨルダの姿を隠した。それと同時にタニスは振り向き、衛生兵達の包囲の解除を命令した。

「タニス部隊長。あなたの心意気に感謝する」

「いえいえ。アスウェル殿もその極秘任務をしっかり完遂してください――」

 小声でそう言葉を交わしたあと、タニスはその場から離れていった。

 なんとか危機は去った。とりあえず、ヨルダを連れてこの場から離れることはできそうだ。

「アスウェルー!なんとかなったみたいだな」

 ズゥが嬉しそうに話しかけてくる。

「あぁ、なんとかな。悪いが皆には体調が悪くなって先に帰ったと伝えてくれないか?」

「どうしたんだよ」

 タニスと同様にマントを少し開いて、ヨルダの姿を見せる。

「あーそうだったな。アスウェルの隠し子がいたんだった~」

「隠し子じゃないって!」

 ふっと緊張が解けて笑った。

「アスウェル。その娘を連れて帰るんだろ?」

「あぁ」

「そして、それが他のやつにバレたくないってところだろ?」

「わかっているじゃないか」

「いいよ。行ってこいよ。この俺にアスウェルをこの場に引き止める理由なんてもうないさ」

 ズゥの満足気な表情を見ると、本当にいい仲間を持ってよかったと思った。もはや腐りきったと思っていたこの国にこんなに良い奴が残っていたなんて……まだ捨てたものじゃないな、この国も。

「さっ、行けよ!俺はこのまま隊列に戻るぜ」

「すまないな」

「何謝ってんだよ。いっつも助けられているのはこっちだぜ?感謝したいのはむしろ俺の方なのだが……まぁ、気をつけて行けよ。また今さっきのように捕まるかも知れないからな。その時はもう流石にフォローできないぜ」

「そうだな。それじゃぁ、行ってくるぜ」

「気をつけろよ!」

 軽くズゥに手を振ったあと、ゆっくり立ち上がった。

『ヨルダ……いくよ』

『うんっ』

 ゆっくり、ゆっくり確実に一歩ずつ歩いてその場をそっと離れていった。次は船から降りる時みたいなことにならないように、ヨルダの歩くペースにあわせていった。一つの問題は無事解決することはできた……しかし、まだ根本的な問題は解決できていない。ヨルダを無事なところに避難させたら、次は俺の番だ。あの忌々しき「白」き王にあわなければならい……だけど今は少し喜ぼう。こうしてヨルダと一緒にあの場から切り抜けれたことを。目の前のこの街を抜けたら俺の隠れ家だ。それまでは気を抜かずにいないとな。

分割投稿です。近いうちにまた投稿します。

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