会話
「───で、本当に真樹なの?」
部屋に入ってまず最初に小鳥はそれを口にした。
まぁ、自分より身長が高かった幼馴染みが自分より低くなっているんだし、顔立ちが完全に別人になってるんだし、無理もないよな。
ふと小鳥の胸を見てみたが、あの巨乳は風船で中の空気が抜けてしまったのか?と思えるぐらい萎んでいる。
エレベストが十勝平野になったみたいな…。
「で、真樹なの?」
小鳥の言葉が俺の思考を遮り、質問を投げかけられていたことを思い出した。
「あ、ああ、うん。真樹だよ」
慌てて返答したが、まだ疑っているのかジト目でこちらを見てくる。
いやいや、マジだって。という言葉を目で送ったのが通じたのか、納得、という顔をして小さく息を吐いていた。
「まぁ、外見は違えど雰囲気が真樹っぽいし、真樹でいいか…」
「本人がそうだって言っているのに雰囲気で決めるなよ!?」
緋香里と同じく小鳥も雰囲気で俺だと決めるなんて……。
そんなに俺だよ!!的な雰囲気醸し出しているのかな。
「それで、なんでこうなったの?」
「分かってりゃ既に何かしらの行動起こしてるって!」
「だよねぇ……」
と、小鳥は胡座で頬杖をついて言った。
………あれ?小鳥こんな座り方したっけな…?
いつもはだいたい体操座りぽいやつやお姉さん座りぽいやつだった気がするんだが。
「小鳥……そんな座り方してたっけ?」
「ん……え、ありゃ?なんで?」
質問を投げかけられて気づいたかのように今の自分の座り方に動揺していた。
…無意識のうちでやってたのか。
なんだが男っぽくなっているかのような、なっていないような。
「んんー、筋力があがっているといい…この座り方といい……ほんと何があったんだろうね……私たちの身体」
え、筋力?
その細い腕の中のどこにそんな力が…。今の俺とさほど変わらないくらいなのに。
「…ちょい待て…筋力ってどゆことだ?」
「え、あー、うんなんだが朝起きたら胸がなくなっていたのに気がついて、慌てて真樹に相談しようと思って部屋を出たんだけど、お腹がすいちゃってて。テーブルの上に置いてあった果物の中からリンゴを取り出したんだよ」
…なんで朝起きて直ぐに相談しようとしたのが俺だったのだろうか…。
「それで、この前テレビで握力でリンゴを潰すってやつが有ったのを思い出してね、試しに無理なのを承知で握ってみたら…」
因みに小鳥の握力は平均以下である。
確か…18〜20,21kg辺りだったかな。
無理を承知なのは無理もない。
「グシャリ☆っと」
「……は?」
「いやぁ…驚いたよ、まさかリンゴが目の前で潰れるなんて思いもしなかったからね。その時胸がなくなってた時に出なかった声の分叫んじゃって……えへへ」
「えへへ…じゃないだろ!?そもそもリンゴを潰すのにどれだけの握力が必要だと思ってるんだよ!大体70〜80kgだぞ!?嘘だろ……卵すら潰せないお前が……」
「いやいや、卵は握力強いか握り方が悪くないと割れないでしょ」
小鳥の冷静なツッコミで思い出したが、卵を握り潰そうとしてもなかなか割れないらしい。
試したことがないので真偽はわからないが、ネットで見た限りではそうなのだろう。
はっと出た例えが間違っていたから何と言い直そうか…。
「まぁ、例えるなら…なんだろうね。取り敢えず昔ミカンを試しに潰そうとして無理だった記憶があるよ」
……先に言われた…か。
「んー、で、今後どうするんだ?」
唐突だが、小鳥に今後の事を問いかけてみた。
このままじゃ雑談で終わってしまいそうだったし、話を進めないといけなかったし。
「え?唐突だね。んー、胸が小さくなったから下着を新しく買いに行こうかな。ね、付いてきてよ!」
またですか…。
え、昨日も…行ったよね?ブラジャー買いに……。
そういや、まだパジャマのままだったな。
服を着替えないとな…。………服?…あ。
そういえばそうだった…身長が変わったのだ。新しい服を買わないといけない。
「それじゃぁ俺の体が戻るまでの新しい服を買うのにも付き合ってもらおうか。交換条件だ、コレならいいぜ」
「よしっ!決まり!それじゃー行こう!」
こうして再びショッピングセンターに向かうことになった。