変化2
暫しの沈黙。
恐る恐る喉に手を当ててみるが喉仏のようなものは見当たらない。
それに触ってみる限り多少首が細くなっているような気もする。
「……で、お兄ちゃんその姿どうしたの?」
と、再び緋香里から質問を投げ掛けられたが、はて?と緋香里の方を向いて首を傾げる。
「……つまり、わからないということね。てか喋れよ」
と言って緋香里は俺の部屋から出ていったが、その後すぐ
「お母さーん!おにーちゃんが、妹になったー!」
と、大きな声が俺の耳に聞こえてきた。
その言葉に俺は困惑した。
え、イモウト?
でも、下は生えてるからオトウトだよな?
そもそも若返ったというわけでもないと思うから、お姉ちゃん?じゃないお兄ちゃんのままでいいかと思うんだけど。
と、寝起きの思考回路でそのようなことを考えていると、
「なんですってぇーー!」
と何故か歓喜が混ざっているように聞こえた母の声が聞こえたと思うと瞬く間に緋香里を連れて俺の元にやってきた。
「きゃああ!かわいいっ!私あんな背の高い息子より、こんな可愛らしい娘が欲しかったのよねー!」
「本人の前でそんな言葉失礼だろ!」
「ごめん……可愛くない娘で…………」
と、母の言葉に俺と緋香里は同時に突っ込んだがテンションがまるっきり違っていた。
そりゃあまぁ、あの言い方だと緋香里は可愛くないということになるしな。
でも、『あんな』って言われるのもなかなか心を深く抉られる気がする。いや、確実に抉られた。
「え?え?名前は!?どこの星からやってきたの!何年生?」
「真樹で地球生まれで高校二年生でって………異星人と思われてかのか!?俺!そもそも自分の子の名前ぐらい覚えとけよ!」
「やだぁ…もぉ、華恋ちゃんねー!可愛らしい名前ねー」
全く別の名前が帰ってきたがまさか記憶の改竄!?
「真樹だ!」
「え?真咲?」
「漢字が違う!!」
お母さんこんな感じの人だよなぁとは思ってはいたが、まさかここまでとは…。
予想外の展開に頭が痛くなり手で押さえる。
「あらあらどうしたの〜?頭痛?」
「いや、まぁ、うん。9割10割方お母さんのせいと思うんだけどね」
なんかもう…突っ込む気力すら無くなった。
布団に潜ってもう一度寝たい気分。
寝て起きたら元に戻ってた!やったー!なんて展開があれば幸いなのだが。
「まぁ、そんなことはさておき。真樹、あんた一回自分の顔見てきてらっしゃい」
と、言われたので顔を洗うついでに見ることになったのだが、ベットから出てまず気が付いたのが目線がかなり下がっていることだった。
だいたい……緋香里の胸の辺りかな?二つの膨らみが目の前に……。
ベットの中でも薄々感じてはいたがやはり身長が下がっている。
懐かしいなぁ、この目線。
と、頭の隅で感じながら歩幅の変わった歩みで洗面所に向かった。
時々、昨日までの歩幅になってバランスを崩したり、大きくなったズボンを踏んでしまい転けそうになったのは秘密。
洗面所で鏡を見て言った最初の言葉がこれ。
「なんっっっじゃっっこりゃぁぁぁああああああああああ!!!!」
よくよくアニメでこんな大声で庭の木に留まっていた雀が数匹驚いて逃げていきそうな描写が一瞬頭を通り過ぎたが、そんなの思い返す暇などなかった。
「うそ………だろ……。コレが…………俺?」
恐る恐る鏡に手を触れる。鏡の中の人も同じく手に触れる。
もう少ししっかり見ようと鏡に顔を近づける。
鏡の中の女の子………じゃない、俺も顔を近づける。
外見だけで男女を問われたらほぼ全ての人が女性と答えるだろう。
だいたい…小学生高学年か、中学1年生辺りだろうか?身長的に緋香里の胸の辺りぐらいだったし…。
その時だった。
「来ましたよ!奥さん!お決まりの台詞!『これが……俺?』いやぁまさか生で聞けるとは思いもしませんでしたよ!」
……いや、奥さんって、どこの奥さんやねん…お母さん。
「お兄ちゃんそんなお決まりの台詞はいいから他に感想は?」
緋香里の方は案外落ち着いている。
もう慣れたのだろうか?
「感想は?って……まぁ、外見は女の子だなぁって」
「外見はーってことは下も女の子なのねー」
と、母が滑らかな足取りで俺に近づき、滑らかに言葉を吐きながら、しなやかに腰を下ろして、瞬く間に俺のダボダボとなったズボンとパンツを下ろした。
「なあっ!?」
母はまじまじと俺の股の部分を見てくる。
男には朝立ちと言うものがあって……と思い下を見てみるとそんなものは知らないと言わんばかりに萎えていた。
羞恥を浴びると大きくなるとも聞いた気がするが、ただ単に俺が恥ずかしいだけで、下の方はびくともしなかった。
「うわぁあああああああああああああああああああああああ!!
」
俺の悲鳴が洗面所を駆け巡る。
「生えてるわね……キノコ」
「生えてるんだ……キノコ」
母と緋香里からは冷静な言葉が飛んでくるが緋香里は目をそらしている辺り見たくないんだろうな。まぁ、別に見なくてもいいのだが。
それに比べて……母は懐かしむように見ている気がする。まぁ、見るのは久々だろうしな………。
と思ってたら、はっと我に帰り下ろされたズボンを慌てて引き上げた。
「見るなよ!」
顔を真っ赤にして怒る。
「やだぁ、怒られたァ♡」
逆に喜ばれている気がする。多分語尾には♡とか付いていそう。
その時だった。
ピンポーン ピンポピンポピンポーン
俺たちの会話を遮断するかのように玄関のチャイムが複数回鳴った。