プロローグ
達也は夕暮れの公園にいた。目の前では、同じ小学校の子供たちが、サッカーに夢中になっていた。
「よし、しょうちゃん、ゴール!」
ボールを追いかけていた誰かが言った。ボールを蹴る音が響きわたった。ボールが転がった先は、空き缶を立てて即席で作ったサッカーゴールだった。
「よっしゃ。」
途端に、喜びの声が上がった。
達也は、一人、すべり台の上に座っていた。眼下ではしゃぐ子供たちを眺めていて、転がるボールを追いかけて、一体何が面白いのかと思った。
どこからか、『夕焼け小焼け』の音楽が流れた。その音楽が流れたら、家に帰るようにと、先生からうるさく言われていた。サッカーを楽しんでいた子供たちは、誰からともなく「また明日な。」と言うと、端に停めてあった自転車にまたがって、家路に就いていった。
さっきまでの賑やかさが嘘のように、あたりは静まり返った。むしろ、達也にとっては、この方が落ち着いた。誰に気を遣うことなく、公園で遊ぶことができた。
達也は、すべり台の上からそろりと滑り降りると、隣のブランコに乗った。達也が遠慮がちに漕ぐと、ブランコのちょうつがいがギィギィときしんだ。
犬を散歩させる女の人が、公園に入ってきた。茶色い柴犬は、いつもの場所で用を足すと、草むらの中の匂いを嗅ぎ始めた。女性は公園の奥にある時計に目を遣ると、急かすようにリードを引っ張った。犬はリードの引きに一瞬抵抗しながらも、すぐに観念したのか、不甲斐ない顔を見せながら、出口に向かう女性の後に続いた。
再び、公園には達也だけが残された。風が出てきたかと思うと、西日があたりの木々や遊具をオレンジ色に染めた。
「たっちゃん」
どこからか、声がした。
達也はブランコを漕ぐ力を弱めると、あたりをきょろきょろと見まわした。誰もいなかった。風切り音を聞き間違えたのだろうか。
「たっちゃん」
やはり聞こえた。達也はブランコを降りると、今度は用心深くあたりを見まわした。公園の入り口から、誰かが近づいてきた。夕日に照らされたその顔は、自分と同年代の男の子だとすぐにわかった。その子供は、達也のそばまで近づくと、にっこり笑って言った。
「たっちゃん、一緒に遊ぼ。」
達也は、その顔に見覚えがなかった。だから返事に困った。すぐに言い返せずに立ち尽くした。
男の子は、困惑した達也をよそに、達也がさっきまで乗っていたブランコに腰かけた。そして、達也に向かって言った。
「たっちゃん、僕と一緒に遊ぼうよ。」
男の子は、勢いよくブランコを漕ぎ始めた。男の子が漕ぐブランコは、みるみるうちに高く上がった。達也は、その様子を、呆然と見つめていた。




