6
「おはよう。」
「「おはよう!」」
「今日もいろいろ持ってきたね。」
「わたしは裁縫道具と買ったけど使っていなかった各種布地とハギレだよ。」
「私は例の販促グッズのノートとシャーペンとボールペンに贈呈品のウイスキーを5箱ぐらい追加かな。」
「販促品結構多いね。それ段ボールひと箱分入っているん?」
「ふふふ。全部そうよ。昔のわたしは勿体ないって持って帰ったのはいいけど、ぜんぜん使ってなかったんだよね。本当勿体なかった。」
「今日持っていけて良かったね。わたしは絵本が数冊とカルタに異世界定番のリバーシ、向こうの人と日本語で話ししているけど、絵本の日本語読めるのかな?まぁ絵本なら絵だけでも楽しそうでいいと思うんだけど。カルタも絵を楽しめればいいかなと。」
「読めたらいいね。もし、日本語が読めるなら、読み終わった本が家にあるわ。推理小説系が多いけど。」
「そうだね。読めたらいいね。娯楽が増えるから、冬の夜長の楽しみが増えていい感じかも。」
「じゃいろいろ持って行こうか。」
「うん、行こう。」
とりあえず集会場へ行き、豚汁の準備をする。集会場にいた人に頼んで昨日の雪合戦の優勝者を呼んでもらう。わたしたちが来たことを声掛けしてくれたのか、集落の手の空いた人たちが集まってくれた。最近は畑の世話に人手がかかると嬉しい悲鳴を聞いている。手がかかるほど作物が育っているのは良いことだ。後は鶏の世話もあるが、鶏は基本、朝に掃除して水を替えて、餌をあげればいいそうだ。まだ大人になりきっていないので、卵は産まれていない。後少しだそうだ。
優勝者が全員揃ったので、優勝者へのノートと鉛筆と消しゴムと携帯の鉛筆削りを渡していく。こんなので優勝賞品良かったのかなとちょっとどきどきしたが、思ったより喜んでくれている。紙も筆記道具もまだお高いので、庶民は気軽に使えないそうだ。
「大事にします。」
「家宝にします。」
「いや、消耗品だから使ってね。」
「「「優勝おめでとう!」」」
昨日の興奮が少し戻ってきたような優勝者を称える人が増える。みんな笑顔だ。そこで、集まった人に、凛子が販促グッズを配っていく。優勝者にも渡している。これはみんなへの贈り物だものね。シャーペンとボールペンとノートだ。全部社名が入っているが、それはあまり気にならないらしい。良かった。良かった。まとめ役のバードさんにシャーペンの芯を代表で渡しておく。ひと箱もあれば結構もつだろう。シャーペンの芯は100均のだけど十分使えるしね。
「こんなに綺麗な紙をいただいていいんでしょうか。」
「この変ったものは文字を書くものでしょうか?」
「いいのよ。これも頂きものだから、使ってくれる人がいれば嬉しいです。」
「使います。文字を書く練習をしたいです。」
「文字といえば、この絵本とかカルタって読むことできる?」
「少し貸して下さい。えっと読めます。何ですか。これ。とても可愛らしい。動物ですか?」
「これはねずみの兄弟のお話ですね。」
「ねずみが服を着て立って歩くんですか?」
「ええっと、これは本当のねずみじゃなくて、お話の中のねずみっていうのか。」
「ああ、神話みたいなものなんですね。」
「え?神話って神様のお話ですか?」
「ええ、神様に仕える12種類の動物がいろいろお手伝いをするお話があります。服を着たりはしませんが、花を摘んだり、道を掃除したりします。本当の動物はそんなことをしませんが、神話の中では働きものなのです。この“えほん”のねずみも働きものなんですね。」
「そんな神話あるんだ。まぁお話だから同じでいいのか。」
「集落で文字の読めるものはそう多くはありません。神話は母から教えてもらうものですが、そう多くはないので、聞いたことがない物語を読めるのは楽しみです。この“えほん”のお話をみんなに読んであげても良いですか?」
「もう、好きに使っちゃっていいから。とても良いお話です。ああ、次はお話に出てくるカステラパンケーキを焼きましょう。」
「冬の長い夜は、本を読むのも楽しみのひとつですよね。日本の文字が読めるのであれば、もう少し絵本持ってくるね。」
「ありがとうございます。」
絵本は子どもたちも広げて見ている。まだ文字は読めないみたいだけど、意味が頭の中に浮かんでくるそうだ。美味しそうなカステラパンケーキは絵だけでその美味しそうなイメージが伝わってくるだろう。
「文字が書けるようにこの“のうと”と“えんぴつ”で頑張ります!」
「わたしも!」
「おれも!」
文字の読めない子どもたちも日本語の絵本は読めるそうだ。頭の中に意味が浮かぶという。こっちの世界は面白いね。ところどころに魔法というのか不思議があって。絵本を読めるようになれば、長い夜も楽しめるだろう。冬は寒いだけの陰湿なものではなく、春が来る前の準備期間でもあるよね。カルタも少し見本を見せてみたら、面白そうだと子どもたちが楽しみ始めた。こういうのが冬の遊びだよね。
そうこうしているうちに豚汁が出来たようだ。洋子が味見をしている。みんないつもどおり並んでいる。豚汁は日本の味だけど受け入れられるだろうか。
みんなが食べだすのをじっと見ていると、わたしたちが提供するものは全部美味しいと思われているのか、今はもう躊躇う人はいない。熱々を召し上がれ!
「美味しいです!」
「とても温まります。」
「お肉がたくさん入っていて、贅沢なスープです。」
「いつもありがとうございます。ほんと毎日具沢山の温かいスープをいただけるなんて有難いことです。」
「備蓄の小麦も後わずか、皆毎日パン1個お湯のようなスープだけだったので、本当に助かっています。もうすぐ鶏も卵を産むでしょう。みんな楽しみにしているんです。」
「みんなが喜んでもらえるのであればわたしたちも嬉しいです。」
「ほんと定年して仕事ロスになるんじゃないかと思っていたのがこんなにわくわくした日々を過ごせるようになるとは思ってもいなかったです。こちらこそ受け取ってくださってありがとうございます。」
通勤時間5分で、喜ぶ顔を見ることができる。自分たちが役にたっていることを感じられる。ほんとこっちに来るのは楽しみでしかない。感謝。
そんな風に、豚汁を食べながらまったり話をしていると、
「トーコ様、隣の集落の代表が到着されました。」
「何人来られました?」
「3名様です。」
「じゃ、豚汁足りそうだから、まずは食べていただきましょう。寒い中3時間も歩いてこられたんですよね。こたつに入ってもらってもいいかも。」
「そうですね。こたつはいいですね。ご案内します。」
バードさんに案内されて、ゴランさんみたいにマッチョなハリウッドスターのようなイケオジが3人入ってきて、凛子の目力が凄い。何も言うなと目で訴えてきたので、黙っておく。
「ダニエル、こちらがトーコ様、リンコ様、ヨーコ様だ。お三方が我々に温かい冬の服とたくさんのひよこに、美味しいものを授けてくださった。素晴らしい方々です。」
バードさん、恥ずかしい。その紹介!先日の鍋に日本酒に昨日のウイスキーで陥落してしまったのよね。この方。美味しいものは正義だと思われているんだよねー。でも確かに今の状況じゃ美味しいは正義かもしれない。だから、徒歩で3時間のところをこの寒い中を歩いて来られたんだよね。
隣の集落の方々にまでこっちの集落と同じだけ支援するのは難しいと思うけど、こっちの集落の方々が自分たちだけ幸せを享受するのが心苦しく罪悪感を抱くのであれば幸せのお裾分けに出来る範囲で協力しよう。
「初めまして、隣の集落から着ました代表していますダニエルです。こっちはエディとデニスです。ゴランの妹から、こちらで余っている服と鶏を譲っていただけると聞いてやってきました。うちもぎりぎりだったので、申し出は大変有難いです。」
「まぁ寒い中お疲れ様。こたつに入って、豚汁食べて下さい。」
「“こたつ”ですか?この床に置いてある低いテーブルですか?」
「最初は忌避感あるかもしれないけど、そんな薄着でいると体冷えますよ。どうぞ入って下さい。三人は入れますから。」
恐る恐るダニエルさんたちがこたつに入る。こっちの人たち直接床に座るって経験ないから抵抗ありそうだけど、こっちの集落の人は割とすんなり馴染んだわね。
三人が入って、ほう。という声がもれた。
「温かいです。これは一体何の魔法でしょうか。」
「魔法じゃなくて、豆炭という炭を丸めたものが入っているんです。まま、豚汁もぜひ食べて下さい。」
「ああ、こんなに具沢山のスープが。久しぶりです。肉まで入っているなんて。」
「温かい。美味しいです。」
「なんて優しい味なんだ。」
バードさんも一緒にこたつに入って豚汁を食べている。ほっこりするよね。
すると、集会場の外からあわただしい音が聞こえる。
「バードさん、た、大変です。王宮から人が!」
「は?王宮からどうしてこんな田舎の小さな集落に?はっ!伝説の三魔女殿の噂でも?!」
「邪魔をします。わたしは王宮から王太子殿下の命を受けて先日の冬の良さ発見をされた場所を探しています。ここで出会った人々が見慣れない防寒具を着ており、畑も息を吹き返している。奇跡はこの集落なのではないか。」
「この集落が奇跡のもとかどうかはわかりませんが、トーコ様、リンコ様、ヨーコ様が訪れられてから、毎日幸せで楽しく過ごさせていただいています。それが奇跡だといえば、奇跡かもしれません。」
「何!伝説の三魔女殿がこちらに?!」
「ご本人方は魔女ではないと否定されてはいますが、温かい防寒具に素敵な服の数々。美味しいスープに、たくさんの布団、温かいこたつに火鉢、甘いお菓子に極上のお酒。そして雪合戦にたくさんのひよこ。畑の数々の野菜の種も全部ご提供していただきました。もう明日は無いかもしれないと絶望していた時に、確かに奇跡だったのかもしれません。毎日がワクワク楽しいのです。」
「ああ、ここが冬でも楽しい場所か!!見つけました。王太子殿下!」
王宮の人は叫んだ後にまた後日調査隊を派遣すると言うと、慌ただしく帰られた。よくわからない。
隣の集落の方はこたつで温まり、豚汁を飲んだ後、古着の残りをゴミ袋に入れてあげて5袋ぐらいあったので一人2枚は渡せそうだと喜んでおられた、あと、凛子が買ってきていた有精卵50個と、20キロの餌一袋と、種芋用に買ってきたジャガイモとカボチャとウイスキー1本と寒い夜のために湯たんぽを1個見本で渡したのを持って帰られた。3人で3時間もその荷物大丈夫?と声掛けしたが、これぐらい軽い軽いとマッチョなイケオジは笑っておられた。凛子がきゅんきゅんしていた。還暦でも心はいつでも乙女だ。
残った集落の人と、洋子は裁縫を凛子は絵本の読み聞かせをわたしは家にあったリバーシも持ってきたので、周りの人に教えたら、すぐに覚えていい勝負しだした。リバーシはわかりやすくて奥が深くて凄いわ。これを最初に思いついた人天才だよね。
子ども達はカルタの続きをしたり、絵本を読んだり楽しんでいる。
火鉢を真似したものがいくつか作られたのか、集会場もかなり温かい。集落の陶工さんが頑張って作っていっているらしい。こっちの集落にも湯たんぽは見本で1個渡してみた。湯たんぽは祖父母が使っていた金物の昔風のものだ。こっちの世界、凄い錬金術師とかいるらしい、魔法もあるし、見本があればある程度どうにかなると聞いた。湯たんぽには熱湯を入れるから絶対カバーすること!と念をおしておいた。頑張ります!と若い職人さんが笑顔だ。こたつも量産したいと話し合っているようだ。好きに量産していいよと言っておいた。
火鉢、こたつ、湯たんぽ、五徳に、火起こし、豆炭と集落で作るものが増えていた。みんなやる気満々で、楽しそうだ。暖房器具は各家庭に最低1個ずつが目標らしい。
ポットも増えた。紅茶とお砂糖は適当だけど、その方が気兼ねなく飲めるのでちゃんとした紅茶じゃなくていいと言われている。ポットの中に直接Tパックだもんね。気軽だ。そしてこれぐらい気軽じゃないとみんなは気後れして飲めないんだから仕方がない。
洋子がハギレを使ってパッチワークを教えている。シミのついた古いシーツ(ただしちゃんと洗濯している)の綺麗な部分と手作りで余ったハギレを利用して可愛い湯たんぽカバーを作っている。キルト芯は家にあったのを持ってきたそうだ。“最近手作りしていなかったから、ハギレもキルト芯も消化できて良い”と言っていた。手持ちの布は使ってしまわないと新しい布買いづらいもんね。”赤毛のアンの世界にいるみたいー“とかはしゃいでいる。そうだよね。集会場でご近所のみんなでパッチワークをするって手作りしている人の一種の夢だよね。日本ではできない。広い場所がないし、共同で作品作ったりしないしね。
洋子凄く楽しそうだ。可愛いは正義!とか叫んでいる。時々声が聞こえる。
湯たんぽは性能を説明して熱湯を入れてカバーをかけたものを抱っこしてもらったら、みな、いいねと言う。
この長い冬が続き、寒さで凍えている人がいるならば他の集落の人にも作って届けたいという。もちろんタダではないけど、それで利益をあげようとは思っていないようだ。ここの集落の人は本当にいい人ばかりだ。
最低人件費と材料費はもらうようにとアドバイスはしたけどね。ただ働きはダメだよ。
そろそろ時間が来たから帰ろうとしたところ、
「トーコ様、この“りばあし”というゲームは作っても良いですか?1個だけだと遊べる人は二人だけで、みな順番待ちが多すぎてさばけないんですよ。」
「いいよ。冬の夜長にキルト作ったり、勉強したり、本を読んだり、ゲームしたり、温かいところでお酒飲んだりするのが冬の楽しみの一つ。家族で遊べるようにどんどん作っていいからね。」
「ありがとうございます!」
「本当、毎日楽しいです。今日はいただいた“のうと”と“えんぴつ”で文字を書く練習をしようと思っています。」
「ヨーコ様からいただいた綺麗で可愛いハギレで素敵なカバーを作るのが楽しいです。」
「この“りばあし”は本当面白いです。こんなに冬の仕事の終わった後の時間が楽しい時間になると思ってもいませんでした。」
「かるたもえほんもたのしかったです!」
「夜はウイスキーみんなで飲んでいいからね。飲みすぎ注意だけど。」
「「「ありがとうございます!!!」」」
皆で楽しいを実感している時、ぱきんと頭の中に音がした。
冬の良さ発見を確認済。達成率17パーセント。
「「「おおおーーー!!!」」」
「楽しい気持ちになるだけで、どんどん達成率が増えていく。なんて凄いんだ!」
「トーコ様、リンコ様、ヨーコ様ありがとうございます!!」
「なんか嬉しいね。凛子、洋子。」
「そうだね。わたしたち特別なことしているわけじゃないんだけど、方向性が間違っていないねってわかるのはいいね。」
「また、明日も楽しもうね。」
みんなと笑顔で別れる。
マルちゃんはいつも最後まで手を振ってくれる。凛子も洋子もでれでれだ。そういうわたしもマルちゃんは気に入っている。まったくぜんぜんすれていない素直で可愛いのだ。
マルちゃんに明日は美味しいカステラパンケーキでも作ろうか。
家に戻ったら、洋子も凛子もすぐに帰るという。みんな日中異世界行っていれば家に帰ればやらないといけないことも多い。今日も良い一日だったね。
「じゃ、また明日!」
「またね。」




