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 次の日、約束の時間に凛子がやってきたので、凛子の車に乗り、郊外までドライブだ。凛子が既に郊外の養鶏場の場所を確定しているし、昨日帰ってから今日お邪魔することも連絡を入れてくれたらしい。素早い。さすが大手企業に勤めていただけのことはある。


「凛子―。いつもありがとね。」


「ん?これぐらい大丈夫よ。ちょっと連絡してちょっと調べただけだから。」


「凛子がいてくれて助かる。」


「でも、透子の思いつきもナイスよ。有精卵買っていこうなんて私は思いつかなかったからね。やっぱり思い付きの透子、企画の私、実行の洋子で三人上手くまわっているよね。」


「そうそう。ほんとわたしたち三人っていい感じよね。」


「今日は土曜日だから洋子は家で旦那さんの面倒みるって。家族持ちは土日の休みは家を出にくいわね。」


「わたしと凛子は退職したからこれから365日夏休みだもんね。40年ほど働いたかいがあったね。あー。凛子、養鶏場の帰りにガーデニングの専門店寄ってくれる?ほらファームなんちゃらっていう名前のところ。」


「ああ、なんかそんな名前のところあったね。」


「そこでみかんの苗を買おうと思って。」


「こたつでみかん!いいね。」


「でしょ。やっぱり冬はこたつにみかんだよ。」


 そんな話をしながら養鶏場に到着。有精卵は万が一のことを考えて50個購入。ついでに鶏の餌も20キロ入りを3個購入。ひよこが孵ったら餌がないのも可哀そうだしね。


 苗売り場はちょっとおしゃれな感じのガーデニングショップだった。最近多いね。果物の苗をみかんだけじゃなくて、モモとかリンゴとかとりあえずいろいろ購入。


「有精卵はタンスの光の中、向こう側に行けるかな。生き物はわたしたちだけってあったけど。」


「ぎり、大丈夫じゃない?生き物といえば生き物なのかな。もしダメならオムレツ作って三人で食べよう。」


「そだね。ダメなら食べよう。」


「そうしよう。」


 家に戻って、車を止めたら、家の中に入らずに裏庭の物置へ直行する。古いトタン屋根の物置に入ると豆炭の袋がずんっと積んである。いったい何袋、いつ使う気だったんだろう。袋が古い。これだから昔の人は・・・。ここはあまり見に来ていなかったので忘れていたわたしも悪い。物置も片付けに来よう。


 豆炭用のこたつはすぐに見つかった。良かった。台車も入っていたので、こたつと豆炭袋を積んでいく。


 玄関に戻って鶏の餌も台車に載せて、新聞紙を敷いた廊下を通ってタンス部屋まで行く。こたつ布団も探してきて、丸めたら、凛子が背負ってくれた。二人して大荷物のままタンスの中を進む。


 緊張したけど、両手に持った卵は無事に光の壁をすり抜けて向こうに持って行くことが出来た。生き物が通れるのはわたしたち3人だけだと頭の中にそんなルールが浮かんだけど、有精卵は生き物扱いにならなかったらしい。良し!


 凛子が台車を押してくれた。わたしは卵を持ち壊れないように歩く。リュックには鶏肉とみかんや他の果物の苗も入れている。


 苗はそれぞれ30cmぐらいあり、少し背中が重い。三輪車に載せれば良かったかと少し反省していた頃に、勝手知ったる集落に到着。外に出ていた住民がわたしたちに気づいてくれて、集会場まで一緒について来てくれた。


 とりあえず、台車をすみっこに置き、リュックの中身も出して果物の苗は並べて置き、今日のスープ係の人に鶏肉と玉ねぎを渡した後、光魔法の使えるユエさんを呼んできてもらう。


 先日ナナヨセさんとの雑談で、昔鶏を飼っていた時に、光魔法で孵化させていたって聞いたので、今日はそれでチャレンジだ。


 昔鶏を飼っていた場所に案内してもらい、ユエさんもやってきた。

 卵50個を見せたら、ものすごく感激してもらった。


「すごい!今の時期にこれだけの卵があるなんて!」


「ユエさん、光魔法を使ってくれますか?」


「ええ、やらせてください!」


 どうするのかなって思っていたら、1個ずつ手のひらに載せておにぎり握るみたいに軽く手の平で包み込むとぼっと光った。

 そしたら、次の卵っていう感じで次々、包み込んでは光らせていくこと50個。すると最初の卵から音がする。


こつこつ。こつこつ。

おおって思っていると、他の卵からも音がしだした。


ぱりん。

ぴいぴ、ぴぴぴい。


 ひよこ!ひよこが生まれた。凄い。魔法だ。魔法。ファンタジー!!


 わたしも凛子もテンションがおかしい。だって初めてひよこ見たよ!わたしも凛子も都会育ちなのだ。


 ユエさんは冷静で生まれたひよこをすかさず掴んでは柵の中にほりこんでいく。次々孵化するから、途中面倒で卵パックごと飼育所の柵の中に入れてしまった。

 50個中何個ぐらい孵化するんだろうって思っていたけど、47羽生まれた。3個は残念無理だったようだ。これは今日のスープ行きだね。


 ひよこの鳴き声がしたからか、人が集まってきた。マルちゃんが目を丸くして柵にかぶりつきで見ている。可愛いもんねー。


「・・・お、おいしそう・・・。」


 マ、マルちゃん、ひよこだからまだ食べられないからね。

 大丈夫、卵だけじゃなく鶏肉も一緒に買ってきたから、今日も鳥スープ作ろう。


「こんなにひよこをありがとうございます。とても嬉しいです。また卵が食べることができる。オスなら肉も食べられる。嬉しいです。」


「あ、これ餌です。20キロ入りで3個あるのでしばらく大丈夫だと思います。」


「えさ?ですか?え、鶏に?あ。そうですね。これだけ冬が続いていたら、鶏も食べるものなかったです。冬が来る前なら道端の草や残飯を食べさせていたので、餌と特化されたものを見たことはなかったです。中身を見てもよろしいですか?」


「ええ、構いませんよ。今いる47羽のひよこにあげてみてください。」


「では。開けます。あ、これはトウモロコシとヒエとアワと少しつぶれたコメでしょうか。鶏なのに、結構良い物食べさせるんですね。これ、うちでも食べたい・・・。」


 あー。食料不足だったっけ。えっと鶏の餌食べます?っていうのはどうなんだろう。いいんだろうか。まぁ好きにしてー。あ、トウモロコシ植えたら芽が出るかも?家庭菜園系は、洋子に相談してみよう。


 光魔法を持っているユエさんが、朝晩“大きくなーれ“と光の魔法をかけることで、早く大きくなるらしい。では、何故以前は鶏全部いなくなったのか聞いてみれば、残った鶏が年を取りすぎて卵が生まれなくなる前に新しい鶏を飼う予定だったんだけど、間に合わなかったそうだ。


 冬が来る前に新しい鶏が買えていたなら違ったのに。長期続くような急な冬の訪れは誰も予想できなかったそうだ。そりゃそうだよね。


 凛子はひたすらひよこと戯れている。凛子小動物好きだものね。退職したら猫の母ちゃんになりたいって言っていたけど、タンスをくぐってしまったばっかりにその計画は延期されている。ごめんよ。凛子。まぁひよこ可愛いから凛子嬉しそうでいいんだけど。


「透子、可愛いね。ひよこって近くで見たの初めてだけど、可愛い。後50個ぐらい卵買ってこようか。」


「確かにひよこ可愛い。でも、さっきなでようと思ったらつつかれたら痛かったよ。あと、さっき、住民の人が、鶏の餌が美味しそうだって言ってた。どうしよ。」


「つつかれて痛いのは仕方ないね。可愛いからそれはもう仕方がない。餌はどうしようか。20キロでも結構安かったよね。欲しいなら買ってくるけど、鶏の餌でいいんだろうか。でも、いつまで冬が続くかもしれないから、毎日30人分の差し入れは厳しいよね。自立できるようになんとかしないとね。」


 そうなんだよね。自立が先か、春に来てもらうのが先か。どっちも平行に進めるしかないよね。あ、豆炭こたつ設置しにいこう~。


「凛子、こたつ設置しに行ってくるー。」


「わかった。私はもう少しひよこに癒されたいからここにいるね。」


「了解!」


 ひよこの飼育場所から集会場までは1分ほどだ。集会場の中には今日のスープを作ってくれている人がいる。今日は有精卵を購入するために養鶏場に行ったから鶏肉も買ってきた。後は孵化しなかった卵と、玉ねぎとか野菜の残りだ。


 先日の上敷きの上には残った古着がまだある。全部分けてしまえばいいのに、冬服2枚とその他2枚でとりあえずみんな満足したらしい。1年に1着古着の服が買えるかどうか、手元に服が2枚あるぐらいのところで一気に新品のような服が4着も手に入ってもうこれ以上貰ったらダメになるから無理っていうような心境らしい。ほんとここの住人さんは人がいい。


 少し古着を隅に畳んでよけて、空いているところにこたつを設置する。火起こしも火箸も持ってきたから、集会場のキッチンのかまどを少し借りて、豆炭を火起こしに入れて火にかける。こたつ布団はまだかけていない。豆炭をセットしてからだ。


 これは昔のこたつだけど、最近は豆炭のこたつをキャンプに持って行く人もいるとネットに書いてあってびっくりした。豆炭のこたつなんて古いものって思っていたのに流行っているんだ。おばさんは流行から遅れがちになる。やあね。


 豆炭をセットしてこたつ布団をかぶせ、こたつの上板を乗せる。座布団も出番だ。これで完成。あ。今日はみかんを持って来ていない。だって、日本は夏。冬用のみかんが売っていない!あああ。失念していた。缶詰のみかんでもいいか。いや缶詰はちょっと違うよね。


“アルミ缶の上にあるみかん”


 缶詰のみかんを思いついたことで下手なダジャレも一緒に出てきた。これがおばさんになった弊害か。いや。これぞ大人の嗜みだろう。でも、どうしようかな。

 冬の良さのひとつが実行できないなんて。他はどうしよう。鍋の用意でもしようか。カセットコンロと土鍋持ってこようか。使っていないものが確か台所にあったはず。


「凛子、少し家に戻るから、こたつはぬくぬくになってくると思うから適当に入ってもらうよう、みんなに伝えておいて。豆炭は熱くなっているからそこだけ注意ね。」


 まだひよこと戯れている凛子に一声かけ、台車を持って家に戻ることにする。凛子は“わかった!”と返事を返してくれたので安心する。


 家に戻って、カセットコンロと土鍋と、鍋の材料として白菜と豆腐と厚揚げがあったな、それも持っていこう。

 あ。あと、物置で火鉢みたな。空の台車を持って物置まで行くと昔使っていた火鉢があった。豆炭の袋をもう1個持っていこう。どしっとする豆炭と火鉢を乗せて台車を押していく。この上にカセットコンロと鍋と野菜を天才的なバランスで乗せる。まぁ風呂敷に包んで台車に括りつけたりもしたけれど、一人で台車を押すのは結構大変。さっきは凛子がいたからうまくいったけど。凛子、さっきはありがとう。


 ということで、必要なものを乗せて集会場まで戻ってきた。

 中に入ると、凛子がひよこから離れてこたつの中に入っていた。


「温かいねー。透子。豆炭のこたついいわ。」


「いいでしょ。豆炭のこたつは、わたしも久しぶり。小さい頃おばあちゃんが使っていたんだよね。その頃の電気はあったんだけど、なんで使っていたんだろう。節約かな?おばあちゃんが生きている時に聞けば良かった。」


「そうだよね。ここまで生きてきて、亡くなった人の話をもっと聞けば良かったって思うこと増えたよね。私も祖母が亡くなってから、得意料理とか思い出したりするわ。」


「わたしたちずっと仕事していたから、聞きそびれたことまだまだあるかもね。丁寧な暮らしをしている人ってそういう後悔って少ないのかな。」


「丁寧な暮らしの人はよくわからないけど、私も透子も生きていくため仕事しないといけなかったし、私たちそれほど仕事嫌いじゃなかったしね。」


「うん、家事の方が苦手だったから、仕事に逃げていた気もする。まぁいいか。そのお陰で偶然知り合った人たちにこうして支援もできる余裕あるしね。」


「一生懸命働いてきたお陰だよね。それにしても、透子、鍋の準備をしてきたの?」


「そうそう野菜は切ってザルに入れてきたから、カセットコンロセットして、水魔法のできる人を探してと、あ、いたいた。もうすぐスープ出来る頃だから、来ていると思った。」


 水魔法使える人に土鍋に水を入れてもらって、だし昆布を敷くと野菜と豆腐に厚揚げを入れる。具は少ないが今日はお試しだ。これでいい。


 水魔法の人は集落の中でも若手のお父さんだ。彼サムエルさんをこたつに招待する。近くにいたバードさんも呼び込む。


 床に座るような習慣がないところで、こたつは忌避感あるかもしれないが、魔女殿にお誘いされて断ることは難しいというような顔をして足をつっこんでくれた。


「うわ。温かいです。これは何ですか?」


「これはこたつっていうわたしたちの国の暖房器具よ。」


「何故、温かいのですか?」


「豆炭というものを中で燃やしているの。」


「“まめたん”ってなんでしょうか?」


 あー。見たことないと想像できないよね。火鉢も持ってきたから、豆炭を袋から出して火起こしに入れて、その状態で彼らに見せる。


「これが豆炭。炭を丸めているようなものかな。こうして火起こしに入れて火にかければゆっくり燃えていきます。それで温かくなるんですね。とりあえず火鉢に入れてみますね。」


「あ、温かい。これは“ひばち”というものですか?温かくて良いものですね。」


「この五徳という金具の上に水を入れたやかんを乗せれば、もう少し部屋が暖かくなりますよ。」


「やかんって何ですか?」


「あー。水を沸かすポット?のようなものです。」


「水を沸かすものですね。たしか集会場に大き目のものがあったはずです・・・。あ、ありました。これに水ですか?サムエル。水を入れてくれないか?」


「おお、いいぞ。このポットに水だな。」


「水を入れたら、この五徳の上に乗せて下さい。」


 どうせなら、美味しい温かい飲み物出したいな。んー。温かい紅茶とかどうかな。家に某有名メーカーのティーパックひと箱のうち、半分ぐらい残っていたかも。


「凛子、家にちょっと紅茶のティーパック取ってくるー。鍋出来たらみんなで味見してもらって、スープも出来たら食べてねー。」


「了解~。スープ飲み終わった人―。こっちに鍋があります。透子、これは出汁仕立てなのね。ポン酢とかいる?」


「薄味だけど、出汁が出て美味しいと思う。どうせならポン酢も持ってこようか。」


「今回使わないかもしれないけどね。あればいいかなっていう程度。家まで気を付けてね。」


「了解!」


 家まで5分だけど、おばさんの体力的には厳しい。せっせと速足で戻る。キッチンで50パック入りの紅茶の箱を手にとり中を確認する10個ぐらいしか使っていなかったので十分足りそうだ、砂糖もいるかなとお祝いのお返しでいただいた薔薇の形の砂糖を探す、あれ、一人で家にいる時には使いづらいのよね。


 後は、念のためスティックシュガーとグラニュー糖は買い置きを1袋、何かお茶請けがあるといいな。あ、マルちゃんにあげたチョコバーが大袋入りでまだ残っている。30本以上はあると思う。よしこれにしよう。

 ポン酢は新品の買い置きがあったので、それにする。使い掛けだとリュックの中で漏れるのは嫌だしね。あ、あれも入れておこう。冬の鍋にはぴったりだ。ふふふ。


 さぁ。集会場に戻ろう。一人で戻るから今回は三輪車に乗って行こう。複数人の時と台車に荷物がある時は使えないけど、徒歩5分だけど、結構しんどいものね。

 ぎこぎこと古い自転車を舗装されていない道を走るのも結構おしりが痛いけどね。


 さて、到着。

 集会場に入ってみたら、みんなスープは飲み終わったようだ。こたつの上の鍋は半分ぐらい減っているようだ。白菜と豆腐の追加は持ってきた。今日の自分の夕食分だけど、一緒にここで食べちゃおうか。


「透子、お疲れー。鍋は4人ぐらい食べてもらったよ。こたつの方が人気だけど。」


「そう、良かった。これ、ポン酢と白菜と豆腐の追加ね。あと、これ持ってきた。リュックから取り出したるは日本酒。自分が寝酒に飲もうと思っていた美味しいもの。量は720mlしかないから、大人だけにしても味見程度だけど。」


「おお、日本酒いいね。うちにも頂き物のウイスキーが結構あるかも。会社に長く勤めているといつの間にか増えるよね。」


「いや、ウイスキーはうちの職場では貰わなかったね。これは自分の好みで、自分で買った日本酒だよ。」


「へー。そうなんだ。ウイスキーの贈答品うちは多いよしょっちゅうもらう、うちの会社が変わっているのかな。後輩や部下が贈ってくれるんよ。私はお酒好きだけど、量は飲めないからね。だんだん贈答品溜まってくるんだけど、今度持ってこよう。古着や布団はなかったけど、こういうのでもいいのであれば処分に困るものだから助かるかも。」


「そうか、凛子はそんなに飲まないもんね。わたしも量より質だね。とりあえずこの日本酒は美味しいんよ。味見してみて。」


 ぐい吞みもいくつか持ってきたので、凛子に渡す、皆は遠巻きに見ている。鍋もあるし、こたつもあるし、次順番の人いるー?

 恐る恐るナナヨセさんが、こたつに入る。温かいよ。鍋もよそってあげる。白菜と豆腐と厚揚げだけだけど、ポン酢も少し入れる。そして日本酒だ。


「透子、この日本酒美味しい。さっぱりしているのに深みがあるというのか、これなら何杯もいけそうだね。家帰ったら自分用に買おうかな。」


「でしょ。美味しいのよ。」


「あ、美味しいです。この鍋というものも、この透明のお酒も。なんですか。こんな美味しいもの初めてです。それに、この机の中はとても温かいです。」


「でしょ。でしょ。美味しいのよ。とっても。これが冬の楽しみのひとつ!外が寒い時に家の中で温かいところに足を入れて、温かいものを食べて温まったらぬるめのお酒を飲む!これよこれ。」


「確かにこれが冬しかできないというのであれば、冬の楽しみになりますね。」


「他の人も順番にどうぞー。」


 わたしと凛子がこたつから出て、他の人が順番にこたつに入って鍋を食べ日本酒を飲んでいく。

 ここの人は本当民度が高くて喧嘩もせずに順番に交代していく。


 それを見ながら、沸騰したポットの中にティーパックを20個ぐらい入れて、まだスープしか飲んでいない人に、紅茶を配る。お砂糖が欲しい人はその場で申し出てもらう。みんな遠慮しながらも、お砂糖を所望していく。やっぱり甘いお茶飲んでみたいよねー。


 スプーンも持ってきたので、紅茶入れて、砂糖入れて混ぜて、さぁ次の人っていう感じ。隣で凛子がチョコバーも配ってくれている。


「寒い日は温かい物を食べたり飲んだりして美味しい思いをするのが一番!」


 火鉢やこたつが置いているせいか、ほんのり温かい集会場で、みんないただいた服を着込んで温かいせいもあって笑顔が出てくる。


 ついこの間まで、寒くてひもじくて明日死んでしまうんじゃないかと絶望していたというのに、食べ物があって、温かい服を着ることができて、家に帰ってもふかふかの布団があって、今、お貴族様の飲む紅茶をお貴族様が食べるような贅沢な甘いお菓子と一緒にいただけている。


 更に美味しいお酒!!お酒は皆一口ずつだけど、ぜんぜん飲んでいなかった体だったせいか、ほろ酔いしながら信じられないぐらいの幸せにテンションもあがる。


 トーコ様万歳!リンコ様万歳!冬の寒さにも万歳!!


 透子がノリで教えた万歳三唱を皆で盛り上がっていたら、


ぱきん。


 と音がした。きょろきょろしたけど、音は頭の中で聞こえたみたいだ。耳鳴り?加齢のせい?


 冬の良さ発見を確認済。達成率5パーセント。


 な、なんだ。これ。

 冬の魔女様のお知らせなんだろうか。達成率5パーセント。そうきたか。


 みんながお互いの顔を見合わせ、聞こえた?聞こえたよね?魔女殿の声かな。冬の良さを発見できたっていうことは、100パーセントになったら春が来るのかな。


 ワイワイガヤガヤ一斉に春の訪れの気配を感じテンション高めに話し出す。もしかして春を呼べるかもしれない。ようやく見えた希望に、この長い冬で委縮した心がほどけかけていくのを感じる。


「透子、5パーセントだって。」


「うん、方向性は間違っていなかったね。みかんがあれば完璧だったのに。あー。みかんの苗を植えに行ってないー。」


「野菜植えたり果実植えたりするのは、洋子と一緒に来れた時にしようか。洋子、今日の5パーセント現場にいなかったのを残念がるかもね。」


「そうだよね、洋子残念だったね。でも、たぶん、洋子なら次はわたしがやるって言うかも。」


「そうだね。言いそう。」


 わたしと凛子はここにいない洋子のことで笑いながら、やっぱり三人一緒の方が良かったなって思ってしまった。


 明日は日曜日、集落の人に明日は休むと伝える。できれば果物の苗が枯れないように気をつけて欲しいこと。豆炭もこたつも、火鉢も使ってもいいけど、火の始末と換気には絶対気をつけてねと念を押して帰ることにした。

 やっぱり日曜日はお休みだよねー。


 能天気に帰宅してしまったけど、この時の脳に直接響いた声は、この集落だけではなく王国の民すべてに聞こえていたと知ったのは少し後のことだった。




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