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そしてとうとう王都へ行く日がやってきた。
凛子は機材をスーツケースに詰めてきた。わたしも洋子もお泊りだからスーツケース持ちである。もちろんその他の荷物も段ボール箱にぎっちり持っていく。ここが正念場になる。きっと。
異世界に足を踏み入れてから集落以外のところへ行くのは初めてだ。王宮からのお迎いの馬車に乗る。馬車での長距離移動はお尻が痛くなると事前に聞いていたので、クッションを持ち込んだ。年寄りの腰は大事にしなくては。
行きに隣の集落を通ると聞いていたので、凛子がどうしてもというから、鶏の餌を3袋置いてきた。ひよこ達凛子のためにも丈夫に育って下さい。
隣の集落では火鉢と湯たんぽがたくさん作られていた。夜の寒さがましになったって喜んでおられた。火鉢は換気に気をつけてねー。
「トーコ様、リンコ様、ヨーコ様、その節はいろいろありがとうございました。古着も鶏もジャガイモもカボチャもこたつも火鉢も湯たんぽもみんな役に立っております。我が集落を救っていただき、誠にありがとうございます。」
ダニエルに久しぶりに会う。元気そうでなによりだ。あら?ダニエルさんがなんだかもじもじされてきた。なんで?マッチョなイケオジなのに。
「ええっと、あの・・・。もし良ければうちの集落でも“えいが”っていうのを見せてもらえないですか?職人チームが凄いものを見たと興奮して教えてくれたんだが、さっぱりわからなくて。そんなにいい物なら俺たちも観たいなと。魔女殿の魔法だろうから、そう簡単には無理だろうけど。どうだろう?」
「映画上映ね。今から王都行くんですよね。帰りであれば・・・。でも洋子三泊四日ぎりぎりだから、どうしよ。」
「そうか。魔女殿は毎日家にお帰りでしたね。」
「ああ、王都からの帰り道であれば、DVDプレーヤー貸せるかもしれません。一緒に観ることはできませんが、貸すことはできます。機械の使い方は、この間、職人チームが覚えていらっしゃったから大丈夫だと思いますよ。また、帰りに寄ります。」
「おお。魔女殿ありがとうございます。ありがとうございます。もう今から楽しみです。では。王都までお気をつけて下さい。」
「ええ。行ってきます~。」
にこやかに見送ってくれたダニエルさんと大勢の隣の集落の人々が手を振る。こっちでも歓迎されていて嬉しい。人の役にたつって心が温かくなるね。
隣の集落を過ぎると少し視界が開けたところに出た。平原を馬車は走る。冬空なんで薄曇りで少し寒い。三人共しっかり背中にカイロは貼ってきている。もちろん、お迎えに来てくださった王太子殿下の側近の方にも御者の方にも貼らせてもらった。自分たちだけ温かいのも気が引けるしね。
「トーコ様、ヨーコ様、リンコ様、この背中が温かいのは何でしょうか?」
「貼るカイロっていうの、温かいでしょ。」
「“かいろ”ですか?これは王都で錬金術師に作らせてもよろしいでしょうか?」
「ええ、作れるんなら作ってもらってもいいですよ。でも、使い捨てなんで、安く作れないと勿体ないですよ。」
「これは使い捨てなんですか!仕組みを研究してもらいます。」
「多めに持ってきているから、いくつか研究用として進呈するね。」
「ありがとうございます。実物があれば、上級錬金術師と上級鑑定士がいればなんとかなると思います。これだけ温かいのは画期的です。」
「寒いと、なんでも嫌になるからね。でも、温かくなるとそれだけで幸せになれると思う。」
毛糸のパンツもいいよーとか、冷え性対策の話をしながら夕方には無事に王都に着いた。王都は都会だ。道は石畳だったし、家の2階、3階建てが普通に並んでいた。ほえーと思いながら馬車の中から見ていたが、一日慣れない馬車での移動に結構疲れていたので、ご飯もそこそこに客室でバタンキューしてしまった。
次の日、朝食後に王太子殿下が現れた。
緊張しながらメインイベント陛下と王妃様にご挨拶させていただいた。わたしたちより若いけど、物凄いオーラだ、圧がある。そして美男美女。同じ人間だとは思えない。気品もあって、はははーっていう感じで平伏してしまいそうだった。王太子殿下が始終案内してくださったので、どうにか挨拶することができた。
緊張して何言われたのかぜんぜん覚えていないけど、なんだか歓迎していただいたので、ほっとしてそそくさと退出させていただいた。場数踏んでいる凛子の後ろで今回もどうやら凌げたっていう感じだった。はぁ、こういうのは苦手だ。
メインイベントが終わったので、次に移る。
王宮に居られる時間が限られている。凛子はまず40~50人ぐらい入ることができる小ホールに、DVDプレーヤーをセットして壁に画像を映せるようにいろいろ機械を設置している。凛子は機械に強いけど、わたしにはわからない。凛子は凄いなぁ。
洋子は作戦その1のために、調理場で料理人に料理を教えている。王太子殿下が指示してくださったので順調だ。日本の家庭の味を伝授するんだとか頑張っている。材料も結構持ち込んだ。やる気は満々である。
わたしは殿下と一緒に中庭を歩いている。デートじゃない。作戦その2だ。護衛の人に頼んで、雪を被った中庭の木々にクリスマスツリー用の飾りをつけてもらう。
娘たちが小さかった頃のものにプラスして、子どもが独立してからクリスマスシーズンにわたしが自分のために可愛い飾りを追加で買って家に飾って楽しんでいたものもある。
洋子の家の飾りも凛子の家のものもこの際持ってきてもらった。一人300万円分の金貨をいただいたといえ、節約できるところは節約しないとね。もちろん、足りない分はネットで注文して購入してきた。
中庭の木々を綺麗に飾り、持ち込んだ母と祖父母が使っていたCDカセットを2つ、離して置いてみる。曲は冬に聞きたい曲メドレーだ。一人暮らしになって初めてのクリスマスに猛烈に聞きたくなって買ったCD。もう1台は国民的偉大な大物歌手の曲にした。誰が聴いてもいいなと思えるからだ。曲が重なって聴こえないぐらいに離して置くと、いい感じにBGMになっている。良し。
凛子は小ホールで何回かに分けて例の考古学者の冒険映画の1作目を王宮で働く人々に観てもらっている。
「凄い!絵が動いている。凄い迫力だ。」
「なんて素敵!!」
「あの動きは真似したい。カッコよかった!」
「音楽もとても良かった!感動しました。王宮に勤めていて良かった!」
「怖いところもあったけど、ドキドキはらはらして面白かった。」
「もう1回観たいです。」
「はいはい。では次の人たちと交代ですよー。」
「えー。もう1回お願いします!」
「2回目見たい人は殿下から許可を取って下さい~。」
「さぁ2回目、上映です。」
「おお!!!」
上映会は大賑わいである。
全部で3回、朝から6時間。大変。機械の使い方を側近のお兄さんに教え込んだ凛子は、この後見たいのであれば自由に見てくれとお願いしてホールから離れることにした。さすがに好きな映画も同じものを3回観ると疲れる。
上映会はひたすら続くことになったと後で聞いた。凛子はポータブル充電器を何個も用意したので何時間でもOKだった。やるな凛子。凛子はこの後、王宮のイケオジを探しをしたとか探さなかったとか。教えてはもらえなかった。
洋子は日本の味を伝授した後は、クッキーやケーキなど甘味の世界にも入ったらしい。こっちの世界料理はそれほど発展していなかったらしくて、洋子は最後には師匠呼びされていた。満足いくまで伝授できてご満悦だった。プロ主婦の底力見せていただきました。
わたしはひたすら作戦を殿下に伝えた。作戦ノートも念のために渡しておいた。この作戦は殿下が肝だ。わたしたちは家に帰るからねー。薄情者じゃない。この国の住民でもないのにここまで頑張った。褒めて欲しいぐらいだ。後はこの国の住民が頑張る番だと思う。
「もっと、映画見たいです。とても良かった!!!」
「冬は寒いけど、こんな楽しい時間が持てるなんて!」
「ホールもいつもより温かったです。えいがで興奮したからかもしれないです。」
「冬は寒いだけじゃないんですね。部屋でまったり楽しむってどんなことかわかりました。」
映画を見た王宮の人々が口々に叫ぶように喜びを訴えると、
頭の中に、ぱりんといつもの音がして、
冬の良さ発見を確認済。達成率70パーセント。
頭の中にメッセージが浮かんだ。
「やったー!!」
「やりましたよ。殿下!」
「王国万歳!」
口々に叫ぶ声が聞こえる。映画鑑賞会が終ったホールからだ。
外は寒い冬の温かい室内で映画という娯楽を見てどきどきわくわくして楽しむ。これも冬の楽しみ方だと思う。
良かった。達成率が順調に増えていって。メッセージを聞いて殿下が泣いているが、見なかったことにしよう。
作戦は殿下にしっかり伝えた。さぁわたしたちは家に帰ろう~。
帰りしなに隣の集落にDVDプレーヤーをお貸しした。職人チームが任せておいてくださいと胸を張って断言したので、設置だけして集落を後にした。見終わったらまた返却しにきてねー。
その日も長時間移動に疲れ切って家に到着、へろへろになって凛子と洋子もそそくさと自宅に帰っていった。二人ともやりきった感のある満足した顔をしていた。作戦が上手くいってくれるといいな。その日は異世界のことを考えながら夢も見ないでぐっすり寝てしまった。
そして次の日三人ともお休みした。三泊四日の旅行の後だものね。馬車の長距離は疲れる。もちろん、異世界が気になるのは気になるが、体が復帰していないのに無理をするのはダメだ。それに王宮での作戦実行は今日じゃない。だから今日はゆっくり休もう。




