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「来てくれて、ありがとう。」
「いいよ。困った時はお互い様
「ねえ、処分するのはどのタンス?」
「ほら、奥の部屋にあった古いタンスよ。」
「ああ、あれ。結構古いやつよね。」
「そうそう、祖父母の代からずっと置いてあったもの、まだ自分が元気な間に断捨離しようかなと。」
「いいねー。断捨離。わたしも少しずつしているよ。」
「自分の家は結構片付いているけど、実家はまったく手付かずよ。」
「あー。親が生きていたら難しいね。うちはどっちも亡くなったからようやくっていう感じかな。でも、ちまちま進まないから、今回タンスいっちゃおかっていう感じ。」
「ははは、透子はえいやっていっちゃうこと多いね。」
「透子らしいね。」
今日は仲良しの友達二人を招いて、家の奥の間のタンスを処分するのを手伝ってもらうつもり。
我が家は古い。祖父母の代から住んでいると聞いている。都会にありながら少し広い。でも築80年以上とかなり古い。毎年どこかしら手を入れながら住んでいる。
でも、その古いけど家があったお陰で今も暮らしていけている。両親はともに亡くなっており、旦那も2年前に癌で亡くなった後、一人で亡くなった夫と一緒に暮らしたマンションにいるのが辛くて、自分の定年退職を機に空き家だった、ここ実家に引っ越してきた。
娘二人は旦那が亡くなる前に結婚して家を出ている。マンションは売り払いそのお金を娘たちに相続として分けた。だから今は一人暮らしだ。一人になって2年、女一人暮らしにもようやく慣れたが、困ることは力仕事と機械の配線と虫退治だ。どれも苦手。
今日来てくれた友だちの1人は、大手企業でバリバリ働いていた美魔女の凛子。同じ年なので、同じく先日定年退職した。現役から高級マンションに暮らしている優雅な独身貴族だ。友達間で美魔女と言われるぐらい若々しくてとても綺麗。車の運転もするし、機械にも強い。趣味は映画鑑賞でハリウッドのイケオジが好みだ。わたしの一人暮らしの強力な助っ人でもある。いつも助けてくれてありがとう。
もう一人の友達の洋子は、夫婦仲良く暮らしている子どもは男女一人ずつ。長女は結婚していて、長男は大学生だ、義理のご両親と同居し介護を一手に引き受けていたが、ここ数年で相次いで亡くなられた。
専業主婦で、趣味の手作り品をフリマで売ったり家庭菜園を楽しんでいる。肝っ玉お母さんという感じで、はきはきしているが基本優しい。家事能力も万能なので、プロ主婦として助けてもらっている。わたしいつもこの二人には助けてもらってばっかりだ。本当ありがとう。
2人とも小学5年生からの50年以上の友達だ。途中、結婚や出産、介護や転勤や激務で会えない期間もあったけど、会えば一瞬で馴染みの時間に戻ることができる。誰よりも頼りになる友達たちだ。
「ねえ、透子、このタンス、何か入れているの?」
「え?全部中身は出したと思うんだけど。」
「でも、ほら、扉の隙間から光が漏れているよ。」
「あー。本当、光っているね。」
「え、古いタンスだから中にライトとかついていなかったような気がするんだけど。開けてみるね。」
古いタンスは人が何人も入れるぐらい大きい。中に入っていた母や祖母かわからないぐらい年代物の服を先日うんうん言いながら全部出したところだ。その扉を開けると奥から光が差している。おかしい。背面にライトなんてついていなかった。
恐る恐る手を伸ばしてみると、背面の板に手が届かない?
「ちょっと待って、おかしい。このタンス。奥の板がない?」
「えー。そんなことあるの?裏面覗いてみようよ。」
「手が届かなかっただけじゃない?」
「いや、手を伸ばしたけど掠りもしなかったよ。うん、裏見てみよう。」
三人でそっと裏に回って壁との隙間を除いてみれば、ちゃんとしたタンスの裏だ。板も張ってある。おかしい。
「裏面あるねー。」
「あるねー。」
「あったねー。」
「あ!!」
「何!洋子びっくりさせんといて。」
「ほら、透子、あれよあれ!」
「あれって?・・・ああ!あれ!」
「そうよ、きっとあれだわ。」
「洋子に、透子、あれって何よ。」
「あれはあれよ。ほら。小学校の図書室で読まなかった?クローゼットから異世界へ行くやつ。」
「わたしも読んだよ。それ。クローゼットから異世界行ってライオンが出てきて魔女と戦って勝利して終わりっていうやつだよね。」
「それ、私は読んでいないかな。」
「そういえば、凛子はあの頃、江戸川乱歩とか好きで読んでいたよね。」
「そうそう少年探偵団が好きだったわね。」
「わたしと透子はファンタジーが好きだったね。」
「オズの魔法使い、霧のむこうのふしぎな町、コロボックルシリーズやモモとかも読んだね。今でもファンタジーは好きで読んでいるよ。」
「透子はまだファンタジーを読んでいるんね。わたしは、最近は園芸書とか実用書の本が多くなったかも。」
「私はあまり本を読まなくなったかな。でも、仕事辞めたし時間余ったらこれからいろいろ挑戦したいところね。」
「わたしもファンタジーまた読み直したくなったかも。懐かしいね。」
「あ、ついつい懐かしの本の話についなったけど、このタンス。ファンタジー?クローゼットじゃなくても異世界に行けたりする?」
「ファンタジーだよね。裏面なくて光っているんだから。」
「そうよね。光っていて、絶対おかしい。」
「ねぇ。行ってみる?異世界に。」
「え、透子なんて大胆!」
「え、透子本気?」
「いや、洋子も凛子も行きたいでしょ。こんなこと一生に一度経験できるかどうかだよ。行かなかったら勿体ないよ。」
「そうやね。わたしは今行方不明になっても誰にも迷惑かけないからいいかな。」
「わたしは伸介さんに迷惑かけちゃうね。書置き残しておこうか。」
「一度出直す?」
「でも、いつまで、この扉の奥が光っているか、わからないんよね。」
「今だけだと、行かないと後悔しそう。」
「じゃ、少しだけ行ってみる?命綱でも持って、顔だけ外に出してみるとか。」
「そやね。少しだけ体験してみるっていいかも。」
「ドキドキしてきたわ。」
「命綱になりそうなもの持っていく?100均の紐ならあるよ。」
「それでいいよ。それを透子の家の柱に括って、みんなでしっかり持って、行こう。」
100均の紐を柱に括って、長く引き出す。畳の上に新聞紙を敷いてそのうえで靴も履きそれぞれ自分の荷物もしっかり持つ。
「タンスの中は土足でもいいの?」
「もう捨てるタンスだからいいよ。」
「じゃ、行こうか。」
「「うん、行こう。」」
みんな細い心もとない命綱をしっかり持って、へっぴり腰で前に進む。大きなタンスなので、横に三人並んでも大丈夫だ。
「いい、せーので顔出すよ。」
「「わかった。」」
「「「せーの」」」
顔を出した先は冷たい風が吹く森っぽいところだ。顔が寒い。夏から冬は一瞬気持ちいいけど、ずっと顔を出していると凍える。木々の間から冷たい風が吹いている。
「ダメだ。撤収。寒さ対策しないと。」
「そうだね。せめてコートがいるね。」
「めちゃくちゃ寒かったね。」
「うちのコートとかダウンとか着る?」
「マフラーも欲しいね。首元寒いと冷えるよ。」
「使い捨てのカイロ持ってこようか。」
「カイロはカバンの中に入れてね。夏場にカイロ貼るのはキツイね。」
「そうだね。とりあえず、コート持ってくるから。ちょっと待ってて。」
コートとダウンとあるだけの冬の防寒具をタンスや引き出しから出してきた。
今は7月。結構暑い。何故こんな暑い時にタンスを捨てようと思ったのか、自分の“思いついたら吉日”とすぐに行動を起こす性分が少し憎い。暑いからコートを持つ腕が汗ばむ。
タンス部屋のクーラーの温度を少し低めに設定する。冷え冷えにしないと防寒具は着ることが苦痛だ。
「まだ少し冷え切っていないけど、コートとかマフラー着用することできる?」
「マフラーは手に持っとくわ。」
「そやね。それがいいわ。」
「じゃ、再度チャレンジで行こうか。」
「うん、行こう。ちょっとわくわくするね。」
「怖いけど、楽しみ。カバンにもいろいろ入れたし大丈夫だよね。」
一回顔を出した実績?があるせいで、二度目は思いのほか足が進む。
タンスから今度は全身で前に進む。
「よっ、さ、寒い!」
「コート着て正解やね。」
「ここは森の中かな。うっすら雪が積もっているね。」
「後ろ振り返ってみて!」
「あー。タンスの裏、こうなっていたんだ。」
「四角く光っているね。」
「四角い光の中に手は入るね。木の枝とかどうなんだろう。」
洋子がその辺に落ちている木の枝を持って光っているところに差し込んでみる。
「木の枝も光の中に入るね。相互行き来が出来るんかな。」
「こっちの人や動物がここを通ると危ないよね。」
「あ、凛子、洋子、ここの光っているところの枠?っていうのか端っこ触ってみて。」
「あー。このタンスの裏側の扉?の情報が頭に浮かぶ。変な感じ。」
「春になるまでこのタンスの裏側は開いていて、行き来できる生き物はわたしたちだけみたいね。相互行き来はできないみたいやね。なんでこんな情報が頭に浮かぶかはわからへんけどね。」
「春になるまでってあるけど、今は冬みたいだから、数日か数週間、長ければ数か月行き来できるっていうことかな。」
「今日明日じゃなければいいわ。」
「よくわからないけど、信用するしかないのかな?」
「頭に三人共同じ情報が浮かぶって絶対変だよ。だから三人で同じ夢を見ているか、三人共この変なところに巻き込まれているかだよね。」
「でも、実際これだけ寒いんだから夢じゃないよね。」
「それにしてもここどこなんだろう。」
わたしたちはどこか山か森か木が何本も両側に植わっている道みたいになっている場所に立っている。
山というには傾斜はないから森かな。森の奥は木が密集してそうで、少し陰っていて薄暗い。扉の裏に回ってみると、光っていない。扉もない。普通に道だ。扉消えた!?って驚いて元に戻ると、タンスの裏の大きさに四角く光った場所が存在している。
何なんだろう、本当、光っている、これ。そして、ここは本当に異世界なんだろうか。三人でいればどこでも大丈夫っていう謎の安心感はあるんだけどね。
「あ!透子、凛子、あそこに誰か倒れている。」
そう洋子は言うと、少し先の小さな塊に走っていった。
洋子はよく見えるなぁ。わたしはそこまで遠いとちょっと詳しく見えない。近眼だからだろうか。おばさんは走るのは苦手だけど凛子と洋子の後を追う。
近づくと小さな塊は薄汚れたペラペラの服を着た3~4歳ぐらいの男の子のように見える。洋子が到着していて抱き起している。
「大丈夫?どこか痛いところはある?」
「・・・おなかがへったの。」
「お腹が空いているのね。ええっと。カバンに飴があったね。飴ちゃん食べる?」
「・・・あめ?よくわからないけど、たべものならほしいの・・・。」
「じゃ、お口あけて、これはリンゴののど飴よ。」
「・・んん。んんん。あ、あまい。おいちい。」
「でも、これだけじゃお腹いっぱいにはならないわね。それにしてもペラペラの服、寒そう。」
「洋子。どう?その子?大丈夫?」
「小さな子ね。どこから来たのかな。」
「ああ、透子、凛子、この子お腹減っているんだって。それに寒そう。」
「カバンに非常食のチョコバーがあるよ。あと、もっと寒かったら巻こうと思っていたショールがカバンに入っているよ。ちょっと待ってて。」
チョコバーとショールを洋子に渡すと洋子は小さな男の子を立たせてショールでぐるぐる巻きにした。のど飴をまだ食べているのでチョコバーは後回しだ。
「おうちはどこかな?」
「あっち。」
「おうちは遠いの?」
「ううん。すぐだよ。」
「お母さんはボクがここにいること知っているの?」
「たぶん、しらない。」
「あら、悪い子ね、お母さんに黙ってきたの?」
「・・・うん、だっておなかへったんだもん。」
「家に食べるもの無かったの?」
「うん、もうないの。おかあさんもたべるものさがしてしてくれていたけどいまはないの。」
「みんなお腹空いているの?」
「うん。ずっとふゆで、たべるものがへったの。」
「冬が長いっていうことかな。小さな子がガリガリになるぐらい食べ物がないっていうことよね。うーん。どうしよ。」
「わたし、家に戻って何か食べ物持ってくるわ。」
「透子一人で大丈夫?」
「このわけわからないところに一人より、二人残る方がましでしょ。」
「そうよね。一人で異世界はちょっと怖いね。凛子とこの子と待っているわ。」
「そうだよね。万が一ってあるものね。わたしも残るわ。」
「あ、この子に一緒に住んでいる人の数とかわかるかな。一応聞いてみて?」
「ボク、一緒に住んでいる人と周りに住んでいる人って何人いるかわかる?」
「ええっと。マルのおうちがおとうさんとおかあさんとおじいちゃんとおばあちゃん。おとなりさんがふたつとおむかいさんがふたつとうらのおうちがふたつあるの。」
「七世帯?多いのか少ないのか?」
「他におうちはあるの?」
「ううん。それだけだよ。あいているおうちはあるの。」
「人が減ったのかもしれないね。多くて40人、少なくて30人ぐらいの集落かな。」
「んー。40人分賄うのは結構厳しいね。スープがいいかな。粉末のだしと、野菜はこの間、田舎の親戚から送ってきてもらったのがあったからあるだけ持ってくるわ。」
「じゃ、透子よろしく。」
「光の扉の前にみんなで移動しない?そこで待っているわ。」
「了解!」
洋子と凛子を置いて、わたしだけ四角の光の中を入ると、ちゃんとタンスの中にいる。本当変な感じ。新聞紙の上で靴を脱ぐ。
台所に急ぎ、親戚から送られてきたカボチャを3個、玉ねぎを2個、ジャガイモを5個、家にあったキャベツとトマトを1個ずつ。一人暮らしじゃそんなに野菜は置いていないのよね。粉末のだしは新品が1箱あったので、それと、使い慣れた包丁を布巾で包み、念のためまな板も持っていく。
全部大型のリュックに詰めて、えいやと立ち上がる。重いから気合入れないと立てあがれないよね。これだけじゃ足りないだろう。冷蔵庫の中を確認して、ベーコンと卵2個と1リットル入りの甘酒を取り出す。卵は布巾に包んで、エコバッグにいれさぁ行こう。
う、これ以上は持てない。
エコバッグはいくつか持っていく。向こうに着いたら凛子と洋子にも手分けして持ってもらおう。
「戻ってきたよ。」
「透子ありがとう。大丈夫?」
「重いから少し手伝って欲しいんだけど。」
「いいわよ。」
「手分けしよう。」
三人で手分けして野菜を三等分してやっと普通に歩けそう。マルちゃんは洋子の膝の上にチョコンと座ってチョコバーを食べている。至福の顔をしている。可愛い。
「このボクはマルちゃんっていうお名前みたいよ。マルオとか、マルヴィンとかかもしれないけど、この子は自分のことマルだって。」
「そうなの、マルちゃんって可愛いね。そういえば何語話しているの?」
「ん?ねぇ。そういえば、洋子、マルちゃんと普通にお話ししていたね。」
「あら?そういえば、できたわね。普通に日本語でお話しできたわ。」
「なんていうのか、不思議な世界。物語と同じなら異世界なのよね。ここ。」
「わたし英語苦手だから、普通にお話しできるのはほっとするわ。」
「そうね、普通に会話できる方がいいものね。」
「それにしても、マルちゃん、痩せているね」
「ほんと、たくさん食べて名前のとおり丸々して欲しいね。」
「じゃ、そろそろ、この子を家まで送ろう。」
「マルちゃん、おうち教えてくれる?」
「うん、こっち。」
チョコバーも食べて少し元気の出たマルちゃんが先導でその後ろをついていく。
今からやろうとしていることは、単なる自己満足のお節介だ。一食にもならないような量しかないけど、無いよりましっていうだけだ。
やらない善よりやる偽善だ。それはわかっている。でも、こんなガリガリの小さな子を見てほっとけないんだよね。
5分ぐらい歩いたら、少し開けた場所に着いた。昔の日本昔話に出てくるようなあばら小屋ではなく、アルプスの山にある家のようなイメージの割と大きな外国サイズの家がいくつか建っている。今すぐ壊れそうなものでもない。のどかな山村っていう感じだ。
きょろきょろしていたら、20代ぐらいの綺麗なお姉さんがこっちに向かって走ってくる。
「マル!どこへ行っていたの?」
「あ、おかあさん、あのね。おなかすいたからすこし、もりにはいったの。」
「マル、森は危ないから一人で行っちゃダメって言っていたでしょ。」
「うん、おなかへってうごけなくなったら、おばちゃんたちがたすけてくれたの。」
「おばちゃんたち?」
「すみません。突然お邪魔しまして。怪しいものではありません。」
「あ。あの。マルを助けて下さってありがとうございます。・・・どちら様ですか?」
「わたしたち日本から来ました。凛子と洋子とわたしが透子です。」
「・・・にほん?ですか。この辺じゃ聞かないのですが。」
「ええっと、なんていうのか、ここから5分ぐらいのところでタンスと繋がったというのか。」
「あー透子それじゃわからないよ。まぁどう説明してもわからないんだろうけど。」
「もしかして、言い伝えにあった“異国の三魔女様”でしょうか。」
「魔女?魔女だって。いや、魔法は使えないけどね。あーでも、凛子は美魔女か。」
「美魔女は認めるけど、わたしだって魔法使えないよ。」
「でも、美魔女ってなんだろう?魔女って陰険な老女っていうイメージなんだけど。」
「あー、前に読んだ本では、魔法をかけたように美しいっていう意味だって。」
「魔法をかけたようにっていう意味ならやっぱり魔女?なのか?」
「凛子も透子も話が脱線しているって。美魔女はこの際関係ないよ。」
「確かにごめん。あの、わたしたちは言い伝えの三魔女ではないです。そこらへんにいるお節介な還暦のおばちゃんです。」
「魔女様ではないのですか・・・。それは残念ですが、マルを助けてくださった優しい方々、せめて、うちでゆっくり寛いでください。」
「あの、マルちゃんから聞いて、スープを作らせてもらおうかなと。大きなお鍋とかあります?」
「スープですか?大きなお鍋は集会場にありますが。」
「じゃ、集会場に案内してください。自己満足のお節介ですが、美味しいスープ作らせてもらいますよ。」
「ええ、よくわからないけど、スープを作ってくださるんですね。最近食べるものが無くなってきたので、それは非常に嬉しいです。ただ、うちだけよくしていただいても、他のものになんて言われるか・・・。」
「大丈夫ですよ。30人ぐらいなら提供できると思います。皆さん声掛けしてもらえれば。」
「そうなんですか。それは本当とても嬉しいです。集会場はすぐ近くです。」
マルちゃんのお母さんに案内されて、他の家より大きめの建物の前にたどり着いた。結構大きいし、ボロでもないし日本でいう公民館ぐらいはありそう。しっかりした立派な建物をみれば、ご飯食べられなくなったのってそれほど昔からっていうわけじゃないみたいね。
集会場の中は少し埃臭かったけど、窓を開けて箒と雑巾を借りて掃除をした。30畳ぐらいかもう少し広い。
端の方にキッチンとテーブルが固まって置いてある。椅子も結構乱雑に置かれている。
凛子が椅子とか机とか雑巾で拭いてくれている間、洋子は鍋をマルちゃんのお母さんに教えてもらって洗いに行った。わたしは野菜をどんどん切っていく。小さめの方がいいかな。最近しっかり食べていないのであれば、消化にいいようにしよう。
鍋を洗ってきた洋子と見たことない人が一緒にマルちゃんのお母さんと入ってきた。水魔法の使える人らしい。鍋をかまどに置いて、そこに魔法で水を入れてくれる。異世界初魔法にどきどきしてテンションあがるけど、とりあえずまずはスープだ。切った野菜もどんどん掘りこんでいく。あーでも魔法、魔法を初めて見たよ!
カボチャを切って、玉ねぎを入れて、次にジャガイモを切ろうとした時、マルちゃんのお母さんが慌ててお願いしてくる。
「あ、あの、すみません。そのジャガイモ、スープに入れないでもらえますか。もう種芋がないのです。残しておきたかったのですが、食べるものが全部無くなってしまって・・・。本当に申し訳ないのですが、良ければ種芋としていただけたら非常にありがたいです。何か交換するものがあればいいのですが・・・。」
「種芋用のジャガイモですか。ああ。本当に困っていらっしゃるんですね。ここにはたった5個しかないのですが、良いのですか?」
「5個でも、ありがたいです。種芋がなければ増やせませんから。そう、わかっていたのに、あまりにもひもじくて、食べてしまったのです・・・。」
「食べちゃったんですね。それは本当に厳しい状況で・・・。今回は5個しか持ってきていないけど、次また持ってくるね。」
「え、ジャガイモがまだあるんですか!?」
「ええ、わたしたちの国では買いに行けばまだジャガイモは手にはいるからね。」
「あ、ありがとうございます!!」
「あー。このカボチャの種も炒って食べます?それともこれも植えます?」
「もし良ければ植えてみたいので、いただけますか?」
「いいですよ。カボチャ3個分の種って結構あるので、いくつか芽が出るといいですね。」
「はい。今は何でも縋り付きたい気分です。」
マルちゃんのお母さんにカボチャの種を渡し、スープをひと煮立ちさせる。
凛子がマルちゃんのお母さんと一緒にご近所さんを呼びに行ってくれた。洋子とスープの味を確認する。ベーコンと野菜から結構いい出汁が出ているので、粉末だしは少しにした。最後に卵をほぐして入れる。これは栄養補給のため。
スープの振る舞いは、子ども会の豚汁以来かもしれない。久しぶりだ。
がやがやと話し声が聞こえてくる。人が集まってきたようだ。
集会場に入ってきた人は小学生ぐらいの子どもから若い人、そしてわたしたちと同年代まで幅広い。でも、小さな幼児はマルちゃんぐらいで、年配のお爺ちゃん、お婆ちゃんといった高齢者はいない。
皆、薄いぺらぺらの服を着ているから、痩せているのが目立つ。うう。いっぱい食べさせたい。
「スープができたよ。みんな自分の器とスプーンとコップ持ってきてくれた?」
頷く人に、順番に手招きしてスープとほんの一口の甘酒を配る。甘酒は本当一口しかないんだけど、少しでも栄養を取って欲しい。それにここのメーカーの甘酒美味しいんだよ。超おすすめ。
みんな、配ったスープに甘酒を手にとってしばらく見ていたが美味しそうな匂いに負けて食べだした。一口食べて驚いた表情をしたかと思ったらがつがつ食べだした。甘酒も恐る恐るといった感じで匂いを確かめていたが飲んだらすぐに終わってしまったのが非常に残念という顔をされている人が多かった。ほんの少しでごめん。
「お、美味しいです。」
「久しぶりにちゃんとしたものを食べました。」
「・・・おいしい。」
「卵も久しぶりです。こんなにお野菜がたくさん入っていて嬉しいです。」
「ベーコンも久しぶりです。ありがとうございます。」
「この白い飲み物は初めて飲みますが、甘くて美味しいです。」
「身体の中から、温かくなってきました!」
「マルもおいちいです!」
「ごめんね。手持ちが少なくて、ほんの少ししか持ってこれなかったの。また、明日スープ作ろうか。」
「え、また作ってくださるんですか!」
「ずっと続けるのは無理かもしれないけど、この状態を知ってほっとけないもんね。」
「わたしは家にある亡くなった義父と義母の古着と子どもたちの着なくなった服を持ってくるわ、みんなぺらぺらの服しか着てないもの。」
「あー。うちにも古い服がたくさんあるよ。あのタンスの中身もそうだし、亡くなった両親や祖父母、それにいつ誰の服かわからないような古いのもたくさん残っている。」
「残念、私の家は離れて暮らしている両親まだ健在だし、うちには古着とかないね。」
「凛子の家はすっきりしているもんね。」
「でも、協力はしたい。透子や洋子を手伝うわ。」
「古着も嬉しいです。冬が続いてから、行商の人も来なくなってしまい、冬が長く続く前はここら辺はそれほど寒くなかったので、防寒用の服も用意していなくてみんな寒いのを我慢して暮らしています。」
「そうなんだ。とりあえず古着はすぐに準備できるわ。小さな子どもの服はないけど、どうしよ。」
「透子、子ども用の服は大人用の服をほどいて仕立て直ししてもらえれば当座はしのげるんじゃないかな。わたし家に手縫い用の糸の在庫があるからそれも持ってくるわ。」
「じゃ、わたしは透子の家で古着の片付け一緒にするわ。」
「そうだね。一人じゃ無理だもんね。洋子は車でうちに来ていたから、すぐに戻れるね。洋子には念のためうちの家の鍵も渡しておくわ。」
「うん。歩いて10分、車で3分だから、すぐに行って戻ってこれると思う。家にある古着を詰めて、家にある買い置きの糸を持ってくるわ。」
「じゃー。すみません。お手伝いしてもらえる人います?」
スープと甘酒を飲んで少しお腹の中が温かくなったからか、4~5人の男性が手を挙げてくれた。こんなわけのわからないおばちゃんに着いてきてくれるなんてびっくりやね。
「他の人はまだ食べていてね。ここに残っていてくれると嬉しいです。」
洋子や凛子はカバンから飴を出してみんなに渡している。わたしもカバンの中に飴入っているよ。これも渡してあげて。やっぱり大阪のおばちゃんはカバンに飴を常備しておかないとね。
飴を食べたみんなの顔がほころんでいる。ほんの少しの甘味だけど、久しぶりの甘味なのか、それとも初めての甘味なのか非常に喜ばれているので飴を持っていて良かった。残りも全部渡しておいて、さぁ行こうか。
おばちゃん3人と男性5人でてくてく最初の場所にたどり着く。
「え、これは!何ですか。壁一面のような大きさで四角く光っている。こんなのはここには無かったはずだ。」
「これは魔法なのか?」
「怪しい光には見えないが、一体なんだ。」
「おばちゃんたち、ここから来たのよ。ちょっと手が入るか試してみる?わたしも先に手を入れてみるね。」
タンスの裏の光っているところに、手を突っ込んでみると、他の男性も恐る恐る手を伸ばしてみるが、男性の方は何か透明な膜があるのか手が通らないようだ。ばんばんとその膜をたたいているようだけど、結構固いのか手をはじくようだ。
やっぱりここはわたしたち三人しか通り抜けられないようね。
じゃ、仕方がない。
「少し寒くて悪いけど、ここから古着を出すから少し待っててくれる?」
「古着をいただけるのであれば、大変助かります。ここでしばらく待つぐらいなら大丈夫です。」
「じゃ、ちょっと行ってきます。」
三人のおばちゃんが光の中に消えていって、残された男性たちは驚いて周りを調べたりしたけれど、光の裏側は何もなく、何で光っているのかさえわからなかった。
うろうろしていると、透明な袋に包まれたものがごろんと転がってきた。
「これ、古着なのか?透明の袋ってあるんだな。」
「よくわからないから、触らないでおこう。」
「でも、さっきのスープは美味しかったな。」
「本当、久しぶりに温かい野菜がいっぱいのスープを飲んだよ。」
「あのおばさんたちって、何者なんだろう。」
「悪い人ではないのは確かだ。マルを助けてくれて、スープを作ってくれて、今古着を提供しようとしてくれているのだから。」
「言い伝えの、異国の三魔女様ではないか。」
「あー。俺もそう思った。」
「この冬が続くところを何とかしてくれるといいな。」
「そうだな。それを願いたい。」
「あ、また透明の袋が転がってきたぞ。」
ごろんごろんと、古着が光の中から出てくる。
向こうで透子が要る要らないのジャッジをし、凛子がそれをゴミ袋に入れていき、いっぱいになったら、タンスから押し出すことを繰り返す。
「ねえ、透子、外寒かったから、あんまり待たせるのはどうかな。いったん終わらせて分配しない?」
「凛子そうだよね。寒かったよね。わたしたちは必死に袋詰めして暑くなってきたからうっかりしていたけど、向こうは真冬だったわ。夕食用にお米でも持っていこうか。買い置きがあったはず。」
「向こうに行くなら、洋子に書置きしておかないとね。先に行くって。」
「そうだね。メモ残しておくね。」
「じゃ、向こうに戻ろう。」
「リュックにお米入れるからちょっと待ってー。」
向こうに行くとやはり寒い。暑かったり寒かったり、年を取ると体温の調整が難しくなるからぶるると震える。
「古着は全部で8袋ね。結構あったね。全員で7人か、持てるかな。」
「大丈夫です。これぐらいなら一人でふたつぐらいいけます。」
「あら、わたしたちも持とうって思っていたのに、いいのかな。」
「ふたつ持っても、軽いぐらいですよ。」
痩せ気味の男性だけど力はあるらしい。わたしはややぽっちゃりだけど、力はあるから古着1袋ぐらい持てるんだけど、まぁ好意に甘えておこう。
わたしも凛子も手ぶらだけどリュックを背負って5人の男性の後ろを着いていく。
わたしたちが普通のおばさんで透子と凛子と洋子という名前だと憶えてもらう。
本当に普通のおばさんか?っていう言葉もあったけど、普通だよ。普通。わちゃわちゃしながら歩いていると集会場に到着した。
「あ、洋子!洋子のところも古着多いんじゃない?一人でここまで持ってこれないんじゃない?」
「ああ、亡くなった義父と義母ともう着ない子ども服持ってくるって言っていたよね。戻ろうか。」
「あのー。さっきの場所ならわかりますから、俺たちが行ってきます。」
「あら、いいのかしら?」
「ええ、大丈夫です。」
「それなら、わたしたちはここに残って、古着の整理をしよう。」
「そうだね。それはわたしたちにしか出来ないものね。」
集会場に残っている住民に頼んで古着を広げる場所としてテーブルをくっつけて並べてもらう。
婦人物、紳士物に分けていく。冬着を中心に動きやすい、フリースやネルのチェックのシャツ、暖かい純毛のセーターやジャージにスエットにトレーナー、チュニックやベスト、少々重いコートにダウン。故人の普段着は形見分けでも持って行く人はいなかったので、捨てるに捨てられないままに残っていた。
この際、すべて断捨離だと目ぼしい物を持ってきたのだ。
「遅くなってごめん。亡くなったお義父さんとお義母さんと子どもたちがもう着ない服を持ってきたわ。あと、予備で買い置きしていた手作り用の糸をいくつか。」
ぜいぜいと少し息が荒い洋子が到着。洋子もうっすら汗をかいていたみたいだ。向こうは夏だもんね。こっちは冬だからすぐに汗はひくんだけど。風邪ひかないように気をつけないと。
「洋子、こっちが紳士物、こっちが婦人物に一応分けてみたよ。」
「じゃ、これも分けるね。」
「透子、とりあえず喧嘩にならないように枚数数えてみたら?」
「そうね。じゃ紳士物のトップス数えるわ。凛子は紳士物のボトムス数えてくれる?洋子は婦人物のトップスよろしく。婦人物のボトムスは後でみんなで数えよう。」
「紳士物のトップスが32枚、紳士物のボトムスは26枚、婦人物のトップスは38枚、ボトムスは27枚。ここの住民って30人ちょっとだよね。足りそうだね、あー子ども向けは少ないよね。集落の人は大人の男性が12名、女性が11名、子どもは男の子が5名、女の子が4名だって。7家族で祖父母と一緒に住んでいるところが4家族。子世帯だけが1家族、大人だけが2家族だって聞いたわ。」
「さっき考えていたんだけど、今回は冬服だけ持ってきたけど、他の季節の服も重ね着すれば着られるんじゃない?まだ家にあったなぁって。」
「そうだね。他の季節の物も含めたらまだ在庫あったね。でも、こんなに寒いのに、みんなペラペラの服しか着ていないもの、とりあえずあるもの選んで着てもらおう。」
「どう分配すればいいかな?」
「マルちゃんのお母さんに聞いてみよう。」
古着の山を見て皆テンション高めになってきた住民の中からマルちゃんのお母さんを探して聞いてみると、年齢順が良いそうだ。お年寄りから選んでもらおう。
一番のお年寄りは女性の方だけど、お婆ちゃんには見えない。聞いてみたら、62歳だそうだ。62歳が最高齢なんだ。こっちの世界で長生きするのは厳しいのかもしれない。
同年代だし仲良くなれたらいいなとお名前を聞いてみたら、ナナヨセさんと言うみたい。どんな服がいいのか聞いてみたら、温かかったらなんでもいいと言う。少し小柄だから、うちのお婆ちゃんの服が体型的には合うかも。
古着の山からお婆ちゃんの服を探す。落ち着いたキャメル色のカーディガンと、グレーの巻きスカートだ。巻きスカートはお婆ちゃん自慢のチェックの柄も入っていておしゃれに見えるし暖かい厚手のものだ。
「まぁまぁ。こんな素敵な服をいただいても良いんですか?」
「ええ、これを気に入って着ていた祖母が亡くなってもう誰も着る人がいないので、古着だけど、着ていただけると嬉しいです。」
「古着だなんて!穴も開いていないし、擦り切れていないし、当て布もあたっていない。新品のような素敵なものですよ。」
「喜んでいただけて、こちらも嬉しいです。」
「年を取ってこんなおしゃれをさせていただくなんて思ってもみなかったです。ありがとうございます。」
「いえいえ。こちらもお婆ちゃんの服を捨ててしまうよりもずっと良かったです。」
ナナヨセさんの後も順番にトップスとボトムスを1枚ずつ選んでいく。
皆さんハイテンションだ。ジャージは人気だけど、だぼっとしたスエットはいまいちだったり、重いコートがかっちりしていてカッコいいいと非常に喜ばれたり、昭和なおばちゃんに似合う小花柄が若い女性がくるくる回るぐらい興奮されたり、見ていて面白かったし、やっぱり嬉しかった。
家で捨てるに捨てられない思い出の服が人の役に立っている。物凄く喜ばれていることが、とても嬉しい。ゴミで捨ててしまわなくて良かった。今、わたし達にできることは少ないかもしれない。無理せず出来る範囲で。これが一番長く続けられると思う。
大人が一通り選んだ後、子どもたちだ。数は足りているけど、サイズが合わないような気がする。どうしようって思っていたら、意外と大きめの服を喜んでいる。
「こんな色の綺麗な服ははじめて。ふわふわだし暖かい。」
「おかあさん、このふくドレスみたい!とってもかわいくてきれい。」
あー。それは母の緋色のチュニックだ。年を取るとお尻のラインを隠したいのと暖かいからと晩年はチュニックよく着ていたね。確かに子どもだとドレスになるか。袖は長いけど。
そう思いながら袖口を見ていたせいか、マルちゃんのお母さんが笑いながら、
「トーコ様、大丈夫ですよ。大きな服はそれぞれの母親が縫い詰めることができますから。小さいと着ることができませんが、大きい分は大丈夫です。」
「それならば良かった。子どもの服が少なくてごめんね。娘に要らない服がないかまた確認してみるからね。」
「いや、もう充分ですよ。これほどまでの量の服を見たのは初めてです。いつもなら行商のおじさんが10枚ぐらい古着を持ってきていただくか、王都に買い出しに行く時に古着屋を覗くぐらいですから。これほど綺麗な色のしっかりした良い生地でほつれも破れもない服なんて初めて手に取りました。皆夢心地ですよ。これだけあれば寒さにも耐えれそうです。感謝しても感謝しきれないです。」
「マルちゃんのお母さん、これらはわたしたちに取っては故人の古着で、普段着で、もう誰も着ることはなかったので、皆さんが喜んでいただけて本当こっちの方が嬉しいです。受け取ってもらって、ありがとう。」
わたしたちが話している間も男の子たちが、父が着ていたネルのチェックのシャツを喜んでいたり、洋子の息子の勇輝くんの小さい時の恐竜柄のトレーナーに飛び上がって喜んでいた。
「ドラゴン柄だ。ドラゴンだよ!」
そうか、こっちの世界では恐竜ではなくドラゴンなんだ。カッコいいって思ってもらったのかな。恐竜もドラゴンと間違われても悪い気はしないだろう。
最後はマルちゃんだ。勇輝くんの服も中学生ぐらいのものなんだよね。どうするのかなって思っていたら、マルちゃんのお母さんが、母が着ていた前開きのベストを見つけたようだ。大人用のベストならマルちゃんがすっぽり入って、動きも阻害しないだろう。良かった。とりあえず、皆が選ぶことができて喧嘩も問題もなく終わった。
「透子、とりあえず一通りは終わったね。思った以上に喜んでもらって良かった。」
「うん、良かった。断捨離したいって思っていた古い家のタンスの中が随分すっきりした。古着でこんなに喜んでもらって、申し訳ないぐらい。」
「欲しい人がいて、処分したい人がいてウインウインだったね。」
「あー。でもタンスの中は減ったけど、押し入れの中にたくさんの布団がある。両親の分と祖父母の分と客用のお布団、8組ぐらい二つの部屋の押し入れに入っている。古着をこんなに喜んでもらえるなら、布団も行けるのでは?どう思う?」
「いいねー。布団。うちも処分したい。粗大ごみだものね。」
「マルちゃんのお母さん、あのね。こんなこと聞くのもなんだけど、布団要らない?分厚くてちょっと重いかもしれないけど、暖かいと思うんだけど。布団も新品じゃないから無理なら強制はしないんだけど、どうかなっと思って。」
「布団ですか?家の布団はぺらぺらの薄いもので、夜は寒くて目が覚めるぐらいです。暖かいものではれば、古いものでも大丈夫です。いやでもいいんですか?布団は貴重品ですが。」
「喜んでいただけるなら、貰って下さい。他のご家族も同じかな。うちだけで8組あると思うんだけど。」
「うちにも故人の布団と使っていない客用布団があるわ。4組。でもうちは、今日はもうすぐには持ってこれないけどね。」
「うちは今日でも運ぶのを手伝ってもらえるのであれば、いけると思う。とりあえず、7家族だから、ひと家族に1組ずつになると思うけど、運んでくれる?毛布もつけるよ。」
マルちゃんのお母さんが古着でまだテンション上がっている皆さんに声掛けしてくれている。布団も!いいの!っていう声が聞こえる。
貰ってくれるなら嬉しい。布団は粗大ごみなんだよね。でも、ぼろぼろでもないので非常に捨てづらくて、わたしの生活に邪魔にならなければいいかってそのままずっと放置だった。いつかわたしが死んだ時に娘たちに断捨離させるのは悪いから、頑張って片付けようとしているところだったから、受け取ってもらえるのであれば渡りに船だ。
「トーコ様、皆も貰えるなら欲しいって言っています。どこまで取りにいけばいいですが?」
「さっき、古着取りにきてもらったところまでなんだけど、布団重いけど大丈夫?」
「さっき美味しいスープいただいたので、頑張れそうです。」
「じゃ、一緒に行きましょう。」
皆、ハイテンションで、自分で選んだ古着を身にまとっている。さっきまで異世界の見知らぬ住民だったのに、懐かしい父や母や祖父母の服を着た住民は日本に遊びにきた外国人というのか急に身近な人に見える。
亡くなった父や母、祖父母がひょいと出てきそうな不思議な感覚に襲われる。生きている時は何の服を着ていても気にしなかったのに、変な感じだ。
そんなこと考えながら、住民みんなで例のタンスの裏側の光っているところに辿り着いた。初めて扉の光を見た住民がびっくりしている。
あまり時間がないので、住民にここで待っていてってお願いし、凛子と洋子に声かけて中に入っていく。
「はい。これが敷布団。重いから男性がいいと思う。」
がっちりした武骨な男性が敷布団を受け取った。
「まだあるのか?うちは母しかいないので、まだあるならまだ持てる。」
「じゃ、掛け布団も渡すね。少し重くなるけど。」
「大丈夫だ。上に乗せてくれ。」
「はい。これが掛け布団。いける?」
「ああ。」
「次は毛布があるんだけど、ナナヨセさん持てますか?」
「大丈夫よ。毛布なら持てるわ。」
「後で替えのシーツがあるから、息子さんでいいのでまた来てねって伝えてくれますか?」
「わかりました。こんな暖かい毛布までありがとうございます。」
わたしが各部屋の押し入れから布団をタンスの部屋まで持ってきて、凛子がそれを洋子に渡し、洋子が住民に手渡していく。
布団のセットをとりあえず7組。毛布、冬用の暖かい敷パッド、タオルケットに夏用の掛け布団、替えのシーツにカバー、枕もつけた。どんどん持ってきては、持って帰ってもらった。押し入れ2個が空っぽになっていく。やったー。残ったのは電気毛布かな。これは使えないしね。
子どもたちが最後、きゃっきゃ言いながら枕や軽いシーツに替えカバー持って喜んでいる。今日はここまでかな。
最後、ナナヨセさんのところのごつい息子さんが2度目の引き取りに着てくれたので、暖かい敷パッドと替えのシーツにタオルケットを渡して、住民のみんなに言付けしてもらうことにした。
「ナナヨセさんの息子さん」
「俺はゴランだ。」
「あ。ごめんね。ゴランさん、わたしたち今日はここまでで、いったん家に帰るね。また明日準備ができたら来るから、残りの冬着とか、食べ物とか持ってくるから、また手伝って欲しいって伝えて欲しい。手間かけるけど、よろしく。あー。お米持ってきていたんだ。集会場に置いてきた。もし、料理出来る人がいたら使っていいからってそれも伝えておいて。」
「ああ、わかった。伝えておく。・・・あの布団なら母は寒さに凍えることなくぐっすり眠れるだろう。感謝する。」
少し照れた感じで早口になったゴランを見て、イケオジハンターの凛子の目がきらりとひかったけど、今日はこれで終わり。
「では、また、明日!」
わたしたちは、ゴランに言付けしたらもう終わったーという感じで、家に入った。疲れたー、楽しかったー。大変だったー。嬉しかった。いろんな感情が渦巻く。
「透子と凛子、わたしは夕飯作らないといけないから帰るね。明日も伸介さんと勇輝が家を出たら、合い物と夏服と肌着の綺麗なものを選んで持ってくるわ。あと、布団・・・。布団はうちの軽自動車に乗せられないか。」
「洋子、明日は私が迎えに行くわ。うちの車だと乗せられるよ。」
「凛子の車はアウトドア系でごつくてでっかいものね。」
「あの武骨な感じがカッコいいのよ。」
「後、今気づいたんだけど、あの人たちって、靴どうだった?」
「靴?!そういえば、手作りっぽい皮で作った草履のようなもの?だったっけ?」
「よく見えてなかったけど、ちゃんとした靴っていう感じじゃなかったかも。」
「靴もたくさんあるのよねー。靴はサイズが難しいけど、あるだけ持っていけば履いてもらえるかな。」
「そうね。捨てるぐらいの気持ちで使わないものは持っていってみようか。勇輝の靴は古いのはぼろぼろで、最近少し破れかかったのが2足ぐらいあったけど、あの子足大きいのよね。子ども用がないわ。」
「じゃ、明日、洋子の家にいって、荷物載せたら、リサイクル店に行って子ども用の靴を何足か買ってこようか。住民皆さん、新品だと遠慮しそうだし。」
「そうやね。それがいいかも。凛子買ったらちゃんと請求してね。」
「わかった。わたしと透子は退職したばかりで退職金まだまだ手付かずであるしね。それに洋子は糸を持ち出ししているから、ここはいいよ。糸は洋子の手作り用だったんでしょ。」
「そう、手作りしようと買い置きしていた分。了解。子どもの靴は凛子と透子に任せたわ。じゃまた明日!」
「お疲れ様―。」
タンスを捨てようとしたのに、古着や布団を処分することができたから、それはそれで良かったんだろうか。
でも、疲れたーって肉体的疲れに気持ちが支配されているけど、よくよく考えたらわたしたち初異世界だったのでは?異世界へ行った驚きより、ご飯食べていない方に気が取られたね。そっちの方が心配度が高かったから。あー、難しいこと今は考えられない。眠い。
もういいや。うどんでも作ってお風呂入って寝よう。好奇心もあるけれど、眠気には勝てない。今日一日変なテンションだったので軽い興奮状態だったけど、体が疲れていたのでぐっすり眠れた。おやすみなさい。
その頃集落では、
暖かいお布団に毛布、敷パットに、興奮しながらどこに敷こうか誰が使おうか各家族で話し合って、たいていの家は布団セットは年長者が使うことになった。
その代わり毛布やタオルケットや敷パットを若い世代が使うことになった。子どもたちも夏用の掛け布団や余ったものを使うことで合意した。
また時間があれば、分厚い重苦しい掛け布団はほどいて綿を減らしてもいい。替えのシーツもいただいたから布団は増やせそうだ。いただいた服もサイズ変更が必要なものもある。可愛い服が余計可愛くなるかもしれない。明日からの手仕事が楽しみだと久しぶりにふふふと思いながら眠りにつくものが多かった。
温かいお布団は身も心も温かくしてくれる。その日は寒さで目が覚めることがなく皆ぐっすり眠れたという。
「ねぇおかあさん、マルいいこにしていたから、まじょさんがきてくれたね。」
「ええ、マルが良い子だったから、夢のような一日になったわね。」
「うん、マル、いいこ!」
「ふふ、マル、おやすみなさい。」
「おかあさん、あったかいね。おやすみなさい・・・。」




