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満月ロード  作者: 琴哉
第2章
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第14話

 道なき道。草むらをかき分けながら進んでいくと、数人の集まりがあった。

 ここという場所を特定せず座り込んでいる。バラバラで統一性がなかった。居心地の良い雰囲気でもない。


「新人だ」

「人間か」

「弱そうだな」


 周りからいろいろ言われる。嫌な空気だ。

 こんな空気の中、平和のためになんてよくいったものだ。どう考えても、悪いことしか考えていないようにしか見えない。勝手な想像だが、あながち間違ってはいないはず。


「まぁまぁ、同じ目的がある。魔王討伐だ。これだけの数が居れば十分だろう。俺はモストビ。気軽に呼んでくれてかまわない」


 軽く自己紹介をしたのちに、バラバラに散っていた魔物たちは、モストビのほうに集まっていた。一応リーダーはモストビ。俺達をここに連れてきた魔物。

 ここでは勇者とかそういうことを言っても、なにも通用しないだろう。そのことに気づいているズイが、嫌そうな顔をしていた。こいつも、「勇者」と呼ばれ、慕われたかったのだろう。しかし、仕切れない。仕切る必要がない。

 魔物とともに行動すれば、魔王の城に着くのなんかすぐだろう。しかし、モストビの話によると、少し遠回りをしていくようだ。

 拠点としている集落へ一度戻り、体勢を整えるらしい。 

 進みだした団体にまぎれるように着いて行く。

 集落までは、そんなに遠くはなかった。歩くスピードを俺達に合わせていなかったら、もっと早く着いていたのだろうが、人間の徒歩で約30分くらいの位置。故意的に削られたような崖に囲まれた場所だった。その部分までは、仲間の魔物につかまり、降りて行った。ここから逃げ出すことは、魔術を使えないズイ達を連れては難しいだろう。俺だけ。もしくは、メッシュだけを連れてならば、以前ユンヒュが使った跳躍魔術で、どうにかこうにか。

 戻ってきて何をするかは、着いてからわかった。ただ服装を整えるだけだったみたいだ。そのついでに、武器なども補充して行くのだろう。魔物の得意分野によっては、武器を使用する魔物はいるらしい。アマシュリなどが当てはまるのだろう。魔力が低いと言っていたから、護身用程度だと思っていた。

 小一時間ほどメッシュと他愛ない話をして待っていると、モストビが出発すると迎えに来た。

 しかし、魔物もこの崖を人間をつかんで上がる。ということまで考えていなかったらしく、崖を登るとき、不意に止まってしまう。


「さすがにこの崖を、人間を持ってはなぁ…」

「俺はメッシュだけなら抱えて登ることは可能だ。少し時間はかかるが」

「そう? じゃあ、先に登っててくれないか?」

「あぁ」


 不安そうなメッシュの頭をなでて、前から抱っこをする。しっかりとつかまっててくれと命令すると、苦しくない程度にメッシュは首に腕をまわした。

 用意していた宝石の力を借り、呪文を唱える。

 上半身が軽くなり、足に力が入る。唱え終わると、どこを蹴ればいいか。どこへ向かえばいいのかが判断がつき、自然と足が動き出す。 

 崖に向かって地を蹴り跳躍する。ある程度の高さまで行くと、微かなでっぱりに片手を乗せ、崖を再度蹴り、もう少し上へと跳躍する。それを数度繰り返すと、簡単に崖上へ戻ることができた。

 下からは、数匹の魔物が一人をつかみ、上昇してくる。

 こんなことだったら、崖上で待っていたほうがよかったのではないかと、ちょっぴり呆れてしまう。


 しばらく歩くと、先ほどの集落とは違う、街のように賑わいのある場所へと着いていた。ここでもまた、何かしらの準備が必要らしい。人間の姿で中へ入ると危ないということで、街の外で待たされた。危険があるだろうと、その場にはモストビも一緒に待っていてくれた。

 メッシュやズイ達は、そろそろ疲れてきたのか、木に背を預け、座り込んで目を瞑っていた。その隣にモストビが立ち、さらにその後ろ側にいる俺は、同じ木に背を預けていた。目を瞑らずただ、木々の奥を眺めていた。

 すると、奥の方からひょっこり肘から指先のみが視界に入る。その光景にびっくりしてしまい、身体をびくつかせる。それは近づいてくることも遠ざかることもせず、ゆっくりと手招きをするように動いていた。しかも、徐々に急かされるように。

 チラリとモストビ達のほうを見ると、こちらに気づくことはなく、ただ黙って仲間の戻りを待っていた。できるだけ足音を立てずに、その腕のほうへと近づいて行く。

 すると、そこへたどり着く前に、横から別の腕が伸びてきて、その手に口をふさがれ引きずられる。


「んっ!」


 反射的にその腕をつかみ、引きはがそうとするが、力が負け、びくりともしない。すると、すぐ横から、「シーっ」と高めの音がする。黙っていろというような。その音に少しだけ聞き覚えがあり、抵抗せずゆっくりと振り向いてみると、そこにはアマシュリがいた。

 手招きしていた腕は、どうやらアマシュリのようだ。

 ふさがれていた口を離される。口をふさいでいたのは、長髪で金髪。前、夜中だが魔王とともに俺らの前へ現れた男だった。


「どうしてここにいるんだルーフォン」

「…あそこにいる奴ら。現勇者。で、俺とユンヒュが抜擢されたが、あの村を無防備にしておくこともできなかったから、ユンヒュを置いてきた」

「で、どうしてメッシュも? そしてどうしてその勇者と一緒に来てるの!?」

「メッシュは来たがったから。どうしてかは…わかるだろう? いままでシレーナ、魔王が魔王討伐に動かなかったから、次の勇者が立てられ、魔王を倒せと。別に俺は倒すつもりなんかない。ただ、今までシレーナがやってきたことを、軽々と壊されたくなかったから、それだけカバーできればと思ったんだが。すぐに魔物の土地へ行くことになるし。変な魔物の団体が、魔王討伐して平和な世界をとか、なんか胡散臭そうなことを言っていて」

「あぁ。あいつらは平和な世のためじゃない」

「知っているのか?」

「あいつらは、魔王の座を狙っているだけだ。そして、人間をすべて滅ぼそうと考えている。いや、人間だけじゃない。自分たち団体以外の魔物を排除し、自分たちだけの世界を作ろうとしている。自分たちだけだから、平和になる。遠まわしにそう言っている」

「ほぉ…で、お前が情報を収集しに動いたってことか?」

「うん」


 平和な世のためとは言っていたが、魔王の座を狙っているのかという質問には、答えていなかった。つまり、否定はしないということだったのだろう。あの時軽く流してしまったのを、少し後悔する。

 が、もともとモストビ達を信じていたわけではない。魔王のところへと着けば、すぐに魔王側へつく気ではいた。そのことを伝えると、ルーフォンらしいとアマシュリは苦笑いをしていた。アマシュリがこうやって苦笑いだとしても、笑っている姿と言うのは滅多に見ていなかった。とくに、シレーナである魔王が近くにいない時なんて、メッシュ以外に笑いかけているところなんか見たことがない。

 あまり長い間向こうから離れているわけにはいかない。魔王に警戒しておくようにと、自分が今、現勇者と行動して様子を見ていることを伝えてもらうように言い、その場を離れモストビのほうへと戻っていった。







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