表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満月ロード  作者: 琴哉
第2章
43/67

第13話


「俺らが?」

「あぁ。一緒に来てくれないか」


 アマシュリが、リルとイリスを連れて魔物の土地へと向かってから、面倒くさそうな訪問者がこの村へとわざわざ足を運んできた。

 案内をメッシュが頼まれたらしく、警戒心丸出しの強張った表情で部屋をノックしてきた後ろには、男2人。

 筋肉で固められたかのような身体。その背中には身長ほどの長さがある、重そうな大剣持っているのが、ズイ。もう一人は、細身で身長が高くも低くもない、手ぶらの男が、フェイと言うらしい。

 何者かと問えば、勇者と名乗った。亡き者となっているシレーナの次に当たる勇者だろう。

 内容は、共に魔王を倒しに行こう。つまり、仲間になれとのことだった。


「なぜ我らだ。力がある者や、一緒に行きたいという者はその辺におるじゃろう?」


 ユンヒュも不思議そうにそう問う。

 俺は闘技場のところで見られていたのであれば、力を知っているからと言われても納得がいく。しかし、ユンヒュは目立ったことはしていないはずだ。出会う前のことはわからないが。


「前勇者と共にいたということで興味がある」

「興味だけね。まぁ、いいよ。役に立つかなんてわからないけど、着いていくくらいなら」

「ルーフォンお主…」


 行くというとは思わなかったのだろう。ユンヒュが目を見開き、どういうことだと言わんばかりに声がかすれていた。

 近づき、ゆっくりと耳元で考えを伝える。


(下手に町とか暴れられても困るし、別に力を貸すとは言っていない。シレーナが行ってきたことを無駄にされたくもない。魔王の城に向かうのであれば、シレーナのことは無駄にはならない。ただあいつらがやられて終わりだ。あくまでも着いていくだけというのが前提だ)

(…わかった)

(この村のことをユンヒュに任せても?)

(あぁ)


「あんたはどうする? 着いてきてくれるのか?」

「いや、我はこの村に残る」

「そうか。残念だ」


 返答を急かすズイに、この村をわざと恋しそうに答えるユンヒュ。

 この村にいても何もできないのはわかっていた。かといって、この村を見捨て、移動する勇気はなかった。この村だけでも守り続けていたかったから。かといって、ズイ達にシレーナが行おうとしていたことを壊されるのは嫌だった。だからこそ、あまり行きたがっていないユンヒュにこの村を任せた。護るだけなら、ユンヒュ一人でも問題ないだろう。

 ゆっくり立ち上がり、案を口にした。


「この村にはお世話になったし、あいさつ回りをしてくる。あんたたちはここで少し待っててもらえないか?」

「わかった」


 ユンヒュとメッシュを連れ、宿から出ていく。

 気づけば外には、村の魔物は隠れているかのように、姿を現してはいなかたった。半魔であるメッシュも隠れていなかったのは、メッシュの勇気か、来たズイ達をすぐに見つけてしまったのが、メッシュだったかどちらかだろう。

 先にメッシュの家へと向かう。

 少しおびえているようなメッシュの母。しかし、俺達を見てホッとしたのだろう。ちょっとぎこちなかった笑顔が、ゆっくりと和らいでいく。奥へと案内され、父のもとへ。


「今までお世話になりました」

「行ってしまうのか?」

「えぇ。しかし、ユンヒュは置いていきます。面倒な奴だとは思いますが、いろいろ使ってやってください。守備の呪文はこのまま継続してユンヒュにさせます」

「そうか。さびしいな。勇者様…いや、前勇者様と言うべきか。あの方が居なくなった後、アマシュリも、ルーフォン…君までいなくなってしまうなんて」


 メッシュの父と母は、本当にさびしく、初めて会った時よりも弱って見えた。

 リルとイリスを連れて消えたアマシュリ。あれから一切の連絡がないというわけではない。一通の手紙が入り、しばらく向こうにいます。とだけ書かれていた。“向こう”というのは、魔物の土地のほうだろう。シレーナが姿を消した今、こちらにいる理由はアマシュリにない。


「定期的にとは約束できませんが、できるだけ手紙や何かしらの方法での連絡はとらせてもらいます」

「あぁ。楽しみにしてる。ないかもしれないが、もし俺たちにできることがあったら、遠慮なく言ってほしい」

「…ありがとうございます」

「お父さん!」


 礼を言った後、何か迷った様子をしながらも、静かにしていたメッシュが、父へと口を開いた。


「お願いがあります」

「どうしたメッシュ」

「ルーフォンと一緒に行かせてください」

「なっ…」


 驚いたのは父だけではない。俺やユンヒュ、母。メッシュ以外驚いてしまう。すぐに口を開くことはできなかった。しかし、父が驚いた様子のまま話す。


「何もできないお前が行ってどうするというのだ」

「何もできないから。何もできないから行きたい! 何か出来るために行きたいんだ! 危ないことも知ってる。でも、片方でも魔物の血を受け継いでるんだ。だから…だから、強くなりたい!」


 その言葉に、何の迷いや恐れが見当たらなかった。本気だというのがわかる。しかし、魔力を持たないメッシュが危険にさらされた時、確実に助けることができるかと言われれば、保証はできない。

 でも、ここで止める権利はない。確かに、片方でも魔物の血が混ざっているとすれば、魔力が一切ないとは言えない。今は使い方を知らないだけ。使い方を知ってしまえば、半魔は通常の間もよりも、強い魔力を持つともいわれる。しかし、それはそれぞれだ。


「本気なのか?」

「うん」

「死ぬかもしれないんだぞ」

「それでもこの世界と、自分の力を知りたいんだ」


 



 




 

 魔物の血を受け継いでいるから仕方がない。そうメッシュの父は言った。さびしそうではあったが、それでも自分の子供が自立しようとしていることに、嬉しさを持っている様子だった。

 村長やかかわりのあった村の方々にあいさつをし、ズイの元へと帰る。メッシュのことをズイに言うと、嫌な顔はしていたが、メッシュを連れていかないなら行けない。そう脅しめいたことを口にすると、仕方がないといわんばかりの顔をしていた。それでも、メッシュは嫌な顔一つせず、何も恐れていないような強い瞳を見せていた。


「で、これからどこに行く予定なんだ?」

「魔物の土地へ」

「もうか」

「俺達は十分待った。街を回る必要はない。魔王さえ倒せば、人は喜ぶ」

「…」


 ここにシレーナが居れば、魔王を倒したところで変わりはいる。そう呆れていただろう。

 前の俺もそうだった。魔王さえ倒せば、家族の仇をとれると信じていた。それで終わりだと思っていた。けれど、シレーナと関わるにつれて、倒さなければならないのは魔王だけではない。そう感じるようになり、魔王を倒しても。と変わっていく自分が居た。

 しかし、このズイ達にはその言葉は意味をなさないだろう。もう視線は、魔物の土地へと向かっていた。

 メッシュは、あまりズイ達を良く思っていないからか、ずっと俺の斜め後ろを歩いてきていた。特別に鍛えていない人であれば、相当疲れるくらいの距離は歩いた。それでも、メッシュは疲れたということも、様子も見せない。

 ときどき慰めるように、優しく頭をなでてやると、安心しているような顔で、にっこりとほほ笑んで見せた。

 強い。

 笑顔を見るたびにそう思う。昔の自分と比べてみるが、笑顔を出せるような状態ではなかった。とりあえず生きる方法を探しまわっていた。

 魔物の土地へと入り、しばらくは何事もなく進んでいた。魔物の土地へ足を踏み入れたのなんか、これでたったの2回目。1回目は、シレーナ達に着いていったからこそ安全だったものの、次は何が起きるかわからない。遠くから微かに感じる気配は、確実にこちらへと向かってきている。ズイ達も気づいたのか、足取りが遅くなり、ぴたりと止まり剣を構えていた。


「こんなところに人間が入り込むなんて…」

「だれだ」


 軽い口調の魔物の声。その声に、ズイが警戒するように力強く声を出した。

 ゆっくりと姿を現す魔物。細身だが、足の筋肉は鍛えているようにしか見えない。スピードがありそうだ。それに、魔物だ。どんな魔法を使ってくるかわからない。

 剣を構え、その魔物へと集中する。


「おいおい物騒なものはしまってくれないか? そんなに見せられたら、戦闘意欲が高まってしまうじゃないか」


 ケラケラ笑いながらお手上げというように、両手を軽く上げていた。

 魔物は基本的に武器を持たない。持つ必要があまりないから。

 体勢を構えるしかしていなかったフェイが、ズイの斜め後ろで懐から銃を出していた。2丁。武器を表に出していなかった意味がわかった。確かに、前衛のズイさえいれば、後ろは遠距離となる武器でいいようなものだ。しかし、この二人の戦い方を知らない俺は、どう合わせていいのか様子を見なければならない。

 今まではどちらかと言うと、シレーナが後先考えずに攻撃を仕掛け、アマシュリがそれを魔法で敵縛り、補助していた。何を合わせることなく、シレーナとは別の敵を攻撃すればよかった。なにせ、後ろからの遠距離攻撃がユンヒュの技しかなかったから。銃や弓などの、物理的攻撃に関しては、関わってこなかった。


「なんだよ。だんまりかよ。つまんねぇ」


 片手に魔力をためていく。それをこっちへ投げつけるつもりだろう。

 剣を持っていない左腕でメッシュの脇へまわし、持ち上げる。メッシュはされるがままに、驚いた表情をしながら俺の首に腕を回す。十分に溜まった魔力は、ズイのほうに向かって投げつけられるが、その弾は大きい。

 地を足で蹴りつけ、後ろへと後退する。ズイ達は、左右へ分かれるが、魔物は逆の手にも魔力をため、次の攻撃へと移っていた。片手でズイを、放ち終わった手でフェイを。

 戦いを楽しんでいるようにしか見えない。

 闘技場で戦った時の、シレーナの表情とは、また違う楽しみ方で。

 こちらへも飛んでくる魔法の弾を、木々を利用し避けていく。しかし、距離をとることができず避けるばかり。ズイも近寄れない様子だった。フェイは、必死に避けながらも攻撃するが、軽々と避けられ当たる様子はない。


「チッ」


 遠くからかすかにだったが、舌打ちするフェイの音が聞こえた。

 攻撃がズイとフェイへ向かう瞬間、俺はメッシュを自分の後ろへ降ろし、呪文を唱える。

 時間は短い。ある程度の力がある魔術しか使えないが、近寄れない今はこれに頼るしかなかった。飛び魔術じゃ意味がない。避けられる。だからこそ。

 短い呪文を唱えると、魔物の下に黒い文字が浮かび上がる。それに気づいた魔物は飛び避けようとするが、発動する方が速かった。足元に現れた文字から、勢いのある火柱が空へ向かって現れる。その炎は5秒も持たずに消えていく。

 避けきれなかった魔物は、フラフラ1、2歩歩いたところで膝をつく。そのすきに、ズイが大剣を振りかざし、狙いを定めて振り下ろした。力を振り絞り避けた魔物。しかし、奥からフェイの銃弾を太もも、肩、腹へと直撃する。しかも、普通の銃弾ではないようだ。特殊に作ってあるのだろう、傷口が氷に覆われていた。

 程なくして、魔物は力尽き、地面へと倒れてしまった。


「一匹か…」

「こんなやつらがこの先にいるのか」


 一匹にこんなに困るようであれば、先が思いやられる。

 今までに会った魔物たちも、これくらいはできていたのだろう。これで分かる。シレーナは別に後先考えずに突っ込んでいたわけではない。攻撃される前に攻撃を仕掛ければ、敵はひるみ隙をつける。だからこそ、俺も遠慮なく近距離で攻撃ができた。その隙をシレーナが作っていた。

 アマシュリの魔法があったというのもあるとは思うが、瞬時に敵との距離を縮め、確実に敵の戦闘方法を崩していくかが決まってくるということか。


「教えてほしい」

「ん?」

「今までどう戦っていた? 魔物と」


 ズイが聞いてきた。性格上、今までの戦い方を聞いてくるようなやつだとは思わなかった。

 少し考え、ゆっくりと口を開く。


「どう戦っていたって、別に作戦とかはない。ただ、魔法を使われる前に前勇者が、突撃する。それだけさ。前勇者は力よりもスピードに長けていたからな」


 魔物だと。魔王だと知って、どうしてスピードがあんなにも速いのかはわかった。少なくとも、ところどころ魔術だと思わせた魔法を使っていたようだし、呪文を要らない魔法は、いつどこで使われているのかは魔物にしかわからない。

 こうなると知っていれば、少しでもユンヒュに多くの魔術を学んでおけばよかったと、少しだけ後悔する。


「今は一匹でよかったが、増えるとカバーしきれないぞ」

「じゃあどうしろというんだ」

「…祈るしかないな」


 それこそどうしようもないことだが、事実だ。答えたときの一瞬のいらつきがズイ達に見られる。それはそうだろう。カバーしきれないと言われ、祈るだけと言われ。結局のところ解決方法にはなっていない。

 しかし、方法ならあるはずだ。敵に見つからなければそれでいい。しかし、ここは魔物の土地。土地勘があるのは魔物だ。道を知らない俺らが、こそこそと動いたところで、目立っているようにしか見えない。


「できるだけ大きいところはいかないほうがいい。そもそも、魔王の城までの道がわかるのか?」

「ここからの方角なら、フェイが」

「方角だけだよ。きちんとした場所まではわからない」


 責任を押し付けるなと言うかのように、フイッと顔をそらされた。要は、なんの計画も情報もないということだ。メッシュのほうをちらりと見ると、首を横に振る。


「じゃあその方角に行ってみるしかないな。近くなればわかるだろう」


 一度行ったことがある。近くに行けば、あの大きい城だ。わからないほうがおかしいだろう。

 ズイ達は何も反論せず、フェイが示す方向へとただひたすら歩いた。

 しばらく歩き続けると、奥の方の草むらが揺れた。ぴたりと立ち止り、周りを見回して警戒する。いる。何者かが居る。かき分けるかのように、重なり合っている木の枝から手が伸びた。

 木々が揺れる音ともに、ゆっくりと姿を現す。


「いたたたたたたたっ…」


 頭や肩に乗っかった木の葉を、手で乱暴に払いながら、ゆっくりとその魔物は近づいてきた。

 視線を徐々に上げ、こちらを見ると、殺意の無い清々しい笑顔を向けてきた。


「やぁ、こんなところでなにしているんだい?」

「…」

「おやだんまり? 警戒? まぁ仕方がないか」


 ふと出会ったころのイリスを思い出させるような、軽いノリだった。

 ズイたちも、警戒心を忘れ、ただぼーっとその魔物を見つめていた。


「もしかして呆れてる?」

「まぁ…なんというか」

「もーひどいなぁ。ところで君たち、人間がここにいるってことは、魔王に用があるのかな?」


 その言葉は、ズイの警戒心を呼び戻すのに十分だった。剣に手をのばし、いつでも戦闘態勢に入れるよう、低姿勢になる。


「おっと。俺を警戒しないでくれ。むしろ、俺も魔王を討伐したい派」

「…魔王の座を狙ってか?」

「平和な世のためだ」

「…」


 その言葉にズイは尖らせていた神経を和らげる。剣から手を離し、姿勢をのばす。 

 警戒を解くにはまだ早いのではないのだろうか。そう不安になりながらも、ズイから少し退く。 


「よければ我らに手を貸してくれないだろうか?」

「魔王を倒せば平和な世になるのか」

「なるさ。人間と隔たりなく過ごせる平和な日々に」


 前勇者、シレーナであればそうは言わないだろう。魔王を倒したところで意味はない。そういわれてきていた。だからこそ、魔王だとわかってもシレーナを倒そうだとか、離れようだとかは思わなかった。

 向こうに仲間がいる。そういって、先を歩くその魔物に、ズイたちは顔を合わせたのち、ゆっくりとその魔物についていった。

 不安そうなメッシュが視界に入る。

 少し乱暴に頭を撫でてあげ、ゆっくりと歩きだしていった。


 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ