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満月ロード  作者: 琴哉
第2章
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第12話

 

「落ち着いた?」

「…あぁ」


 まさか、急にリルが城に来るだなんて思っていなかった。しかし、リルほどの勘を持っていれば、あの事件で俺が死んでいないだなんて、なんとなくだろうと感じていても仕方がない。だからといって、アマシュリが連れてくるとは思わなかった。何をされ、どう脅されたかまではわからない。本人から聞くにも、今はシェイルと別室にいる。喧嘩をしていなければいいのだが。

 場所を移動し、シュンリンが即席で客室にした一室に、イリスとリル。その向かいに俺、その隣に不機嫌そうなリベリオ。ドアのところには、警備員のようにヴィンスが立っていた。

 リベリオ特製の、精神が落ち着く(リベリオ論)飲み物を飲ませて、少しリルを落ち着かせた。


「黙っててごめん。そしてこんな状態でごめん」

「…いや。これで分かった。どうしてあんなにもシレーナが強かったのか。お前も、成長してたんだな」

「リル兄…」

「でも、どうして人間との共存だなんて。周りのやつは賛成したのか。相変わらず魔王らしくない」

「じゃあ殺しあえっていうの!? 永遠に…。どちらかが妥協して、分かち合って、同じ土地で平和に過ごしたい。そう思っちゃいけないのか? そう思って、人間の土地にいるんじゃないのか? リル兄は」

「…そうだ」

「だったら協力してほしいんだ。もう俺は、シレーナとして人間の土地にいることができなくなった。ほかにしなくちゃいけないことが起きたんだ」

「しなくちゃいけないこと?」


 戦わなければならないこと、しかし、いつこの症状が治るかわからないこと。治る保証がないこと。そのために、戦力を増やしたこと。

 ドラゴンとの交渉はうまくいった。シレーナ。母の子だから。見届け、母の仲間に俺の行動を知ってもらうために。唯一母を知っている、あの人魚たちを守るためにも、キーツの団体と戦わなければならない。

 詳しく話した。母のことを知っている人魚たちのところは、軽く省いたが、そのほかほとんどを。

 口を一切はさむことなく、最後まで話を聞いてくれたリルは、ゆっくりと首を縦に振り、立ち上がった。


「俺も戦おう。戦力は多いほうがいいだろう?」

「…リル兄…。いいのかよ」

「結局お前は、お前だ。魔王だ。騙していたからなんだ。そうしなくちゃいけなかったからだろう? 人間のふりして魔物でいたシレーナと、魔王のお前。どっちだって一緒なんだ。俺の弟のようなものだ」

「…リル兄…ありがとう」


 それしか言えなかった。

 隣にいたイリスは、ただ黙って俺らの姿を見ていた。何をとがめることも、喜ぶことも、驚くこともせず。ただ、リルについていくかのように。


 


 


「アマシュリ」

「だめです」

「…まだ何も言っていないんだけど」

「どうせ、あの団体の居場所を聞きに来たのでしょう?」


 シェイルと話しているだろう場所へ、ノックの一つもせずズカズカと入っていくと、ただ向かい合ってにらみ合いを行っていた様子だった。

 ドアの前にへばりついて、何を話しているのかも確認したが、物音一つしない静かな状況だった。戸をあけてみると、テーブルを挟んで二人でにらめっこ。ただため息をつくしかできなかった。まぁ、暴力を奮ってなくて本当に良かった。手が出てしまえば、アマシュリが負けることはわかっていたから。

 空気を壊すように先に口を開くと、睨めっこが終わったのか、いつものアマシュリに戻り、簡単に断られてしまった。


「わかっているなら教えてほしいんだけどー?」

「まだだめです。魔王のことですから、すぐに乗り込みに行こうとするじゃないですか」

「さっすがアマシュリ! わかってるぅ~」

「さすがじゃないですよ! 貴方今の状況がわかっているんですか!?」


 アマシュリが、徐々に怒り口調へと変わっていく。わかっていながらも、あえて遊ぶような口調で言葉を返す。


「えー? 今の状況?」

「魔法が使えないんですよ!? それがなかったら、魔王、貴方は僕と同じく邪魔者扱いにしかなりません! 考えたくはないですが、貴方が消されてしまったら、確実に魔王の座を狙うでしょう。だからこそ、貴方が狙われています。魔王の座をとられてしまえば、あいつらの思うような世界になってしまうんですよ?」

「…アマシュリ…。俺の脳みそはもうついていけないんだが…。しゃべる量、多すぎ」


 こうなる予感はしていたが、相変わらず脳みそで処理できないスピードで、処理できない内容を口にされた。もともと、大半右から左へ流しているから、余計にわからない。それでも、今の状況では自分は邪魔もので、あの団体に魔王の座を奪われてもおかしくはない。そういいたいのだろうというのは、なんとなくわかった。

 しかし、そうなる前にシェイルが居る。だが、相手の状況も分からないで、「シェイルが居るから」と安心もしていられないのだろう。


「頭が良ければ、力はあるんですし最高だったんですけど…。そこが欠点ですよね本当に」

「…うるさいなぁもー」


 ホッとした。

 話し方が、諦めたような口調になったから。だけではない。前は、こういう話をしているときに口調を崩すことは少なかった。なのに今は、少しだけ冗談めいた口調で、軽々と話すアマシュリがいる。

 きっかけは何かなんてわからないが、徐々にアマシュリが旅の中変わってきているのが、感じ取れる。自分は何も変わらないのに。


「でも、このまま向こうの動きを待ってるわけにはいかないだろう? 俺も様子を見に行きたい」

「実際、キーツが現れたくらいで、他に変化はなく、向こうもまだ行動に動かそうとしていない。それが何か引っかかるのです。状況を知るために、もう一度動きます。戻るまでその状況を直しておいてください」

「また、行くのか?」


 前回団体のところへ行って、危険な目にあっているだろう。それはシェイルから聞いていた。だからこそ、もう一度行くというアマシュリを、行って来いと軽く言えなかった。次は危険はないとはいえない。

 質問に何も答えなかった。やはり、恐れはあるのだろう。だけど、それでも行きたい。その葛藤の中の発言だったからこそ、すぐに行くとは言い切れないのだろう。迷っているアマシュリに、一つ案を渡す。


「もし、本当に行くというのならシェイルもついて行ってもらえないか?」

「かまいませんが」

「しかしっ…」


 即答したシェイルに、アマシュリが少し不安そうな顔で止めた。


「不都合があるのか?」


 そう問うと、また困ったように顔を伏せてしまう。

 アマシュリとシェイルは、話をし合うが、仲がいいという様子が見られることが少ない。勝手にあれは仲がいいんだと思い込まない限り、口喧嘩をしているようにしか見えないからだ。

 喧嘩というより、アマシュリはシェイルに何か警戒心があるようだ。


「もしそれが嫌なら、アマシュリを行かせるわけにはいかないよ。危険なことはわかっているんだ」

「…わかりました。シェイルをお借りします」


 別にヴィンスでもリベリオでもよかった。しかし、あえて仲のよくないシェイルにしたのは、少しでも自分が自由に動くためと、シェイルの力を信じているから。

 ヴィンスも強いが、他の人を守りながらというのは、少し苦手だろう。それに、どこから団体が来るかわからない状況で、庭から離れてほしくない。ヴィンスが庭にいてくれれば、見知らぬものが来たときに速く反応ができる。

 リベリオはリベリオで、分身を作るということができるが、戦闘になればアマシュリのこともとなると、集中力が持つかどうかの問題だ。基本的にソロで戦闘に入るのが得意だろう。

 その反面、シェイルは戦闘方法にスピードと、防御能力がある。髪さえあれば、アマシュリを守りながらというのは造作もないことだろう。実際に、今までだってアマシュリと俺を守りながら、戦闘態勢に入ることは、その辺の魔物の奇襲の際に、命令しなくてもよくやっていたのを見ている。

 まぁ、護れと言えば、三人とも誰だろうと、強いには強いのだから、問題ない。それに、ほとんどの重視点は、自分が自由に動くため。

 シェイルが居れば、しつこく止めてくる。ヴィンスは、止めはするが俺の元気に力負けする。リベリオは、心配そうな顔はするが、止めてもすぐに止めることをやめる。いっそのこと着いていきますというタイプだろう。


「俺も、移動するときはリベリオと行動する。それでシェイルも安心だろう?」

「ヴィンスも連れてください」

「だめだ。城を守ってもらわなければいけない。できることなら、リベリオにも城に残ってほしいんだが、今の状況で俺が一人で行動するのをお前は嫌がるだろう?」

「はい。いっそのこと、城から出ないという選択肢はないのですか?」

「ない」


 即答する俺に、シェイルはため息をついた。

 返答がわかっていたのだろう。


「ということで、ヴィンスは城の守備を」

「はい」

「リベリオは、俺に連れまわされる準備を」

「嬉しき状況ありがとうございます」


 ヴィンスはすぐにその場から離れ、リベリオは嬉しそうに両手を合わせていた。


「では、情報が入り次第リベリオにテレパシーを送らせていただきます」

「おう」


 そういうと、アマシュリはすぐにでも出発するつもりなのか、準備してきますと言ってこの場から離れて行った。










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