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満月ロード  作者: 琴哉
第1章
14/67

第14話

 

  



「シレーナ。ごめんなさい…俺が弱いせいで…」

「何言ってんだよ。アマシュリは悪くねぇだろ?」

「でも…」

「いいから気にしないの。宿でゆっくり休んでなよ。俺はちょっと街見てくる。ルー、アマシュリを頼んだよ」

 

 宿をすぐに見つけ、一室を借りてアマシュリをベッドに横にさせた。

 アマシュリは謝り続けるのだが、実際アマシュリは悪くない。魔導師に手を出そうとしたわけでもないし、暴言を吐いたわけでもない。ただ敵から避けていただけだ。なのに、勝手に発動した魔術にかかってしまい、被害を被ってしまっているのだから、あの魔導師が悪い。

 いや、あの魔導師も良かれと思ってやっているのだが、謝ることをしなかった。本当は、あの魔導師が謝るのが普通だろうに。

 街の様子を見てみようと、アマシュリを一人にするわけにはいかず、ルーフォンについていてもらおうとする。


「駄目ですシレーナ。シレーナに何かあったらどうするんですか!」

 

 出て行こうとする俺に、アマシュリは必死に呼びとめる。


「じゃあ、アマシュリに何かあったらどうするんだよ」

「あ…でもそれは…」

「はぁ。じゃあこうすればいい。とりあえず今日は宿でお前も休め。そして、明日三人で街を徘徊。それでいいだろう? 今日急いで何かをしないといけないわけでもないだろう?」

「…わかったそうしよう」

 

 ルーフォンの提案に、俺は踵を返してアマシュリのもとに近寄った。

 なんだか負けたような気がするのは何故だろうか。

 実際、落ち着いてみると、アマシュリとルーフォンを二人にしてしまうのは危ないかもしれない。アマシュリはテレパシーで俺を呼べはするが、すぐに駆け付けられるかどうかはわからない。ルーフォンがアマシュリを狙わないとは限らない。まだそこまで安心できる存在でもない。

 それを考えると、今日は三人一緒にいたほうが安全だ。

 ルーフォンの提案ということが癪に障るが、安全第一で進んだ方が身のためでもあるだろう。

 術は解けても、辛そうなアマシュリの柔らかい緑髪を、そっと優しく撫で続けた。


「ヴィンスを呼ぼうか…」

「し、シレーナ?」

「ヴィンスの居場所が分かるのか!?」


 ヴィンスの名を出した瞬間、言っていいことなのかとアマシュリが反応し、居場所が気になるルーフォンが反応した。

 治癒もできるし、恩師には会えるし、一石二鳥だと思ったのだが、やはり魔物を堂々と人間の地に呼ぶのはいけないのだろうか。


「わかるよ。っていっても、アマシュリが呼んでくれればだけど」

「呼ぶ?」

「俺も詳しくは知らないけど、魔物は魔物同士であれば、遠くにいても連絡が取れるんだってさ」

「テレパシーってやつか?」

「みたいだよ。便利だよな」

 

 愛用してますが。

 一応人間はできないはずというのを前提で、テレパシーの事を言うが、アマシュリはそんなにつらくはないと口にする。


(ヴィンスー)

(はい)

(ヴィンス、ルーフォンに会いたくないか?)

(会いたくないわけではないですが…)

(ちょっとさ、アマシュリを治癒してほしいっていうのもあって、もしヴィンスがルーフォンに会いたいなら、丁度良いんじゃないかなって)

(アマシュリが。わかりました)

(あ、人間の土地だし…来たくないならいいけど)

(…いえ。そういうわけではありません。以前の子供の姿でそちらに向かいます)

 

 ヴィンスと連絡を取り、魔物姿は知る者ぞ知る状態になっているため、以前ルーフォンと会った時のような子供の姿になるのだろう。

 ヴィンスの子供の姿という想像はつかなく、ちょっと。いや、結構楽しみだった。

 アマシュリにも、テレパシーでヴィンスを呼んだことを伝え、アマシュリが呼んだことにしておいてと口裏は合わせておいた。そのいきなりな事に、アマシュリがぶつくさ文句をテレパシーで伝えてきたが、はいはいとにっこり笑顔で流してやる。

 いつものことだもんなと、諦めているようにため息をついたとき、少しだけ嬉しくなった。

 アマシュリがこうやって臥せている様子を見ていられるなんて、貴重かもしれない。

 少しつらかったとしても、強気で立っていそうな気がしていたから。

 但し、あの魔導師。味方につければ便利かもしれない。ただ、あの術をそう何度も使われると、アマシュリがつらい。何か対策を考えておかなければ、敵だろうと味方だろうと面倒なことになる。

 それに、あの魔術を使えるのが、あの魔導師だけというわけでもないのだろう。

 

 暫く考えていると、部屋のドアにノックが鳴った。

 誰かと、ルーフォンが戸に近づき、覗き窓を使った。すると、大事な人でもいたのか、いきなり戸を開いた。

 何事かと、アマシュリと俺はお客のほうを見る。そこには、紙袋を持った、黒髪の少年が驚いたような顔でこちらを見ていた。


「ヴィンス…」

 

 そうルーフォンが口にして、ようやくその姿がルーフォンと対面していた、子供のヴィンスだ。

 あまりにも可愛くて、ついてプッと吹き出してしまう。

 普段は、キリッとした瞳の身長の高い男だと言うのに、八歳くらいの子供になってしまっているのだ。


「大きくなったなルーフォン。昔は身長が変わらなかったのに」

 

 ルーフォンは、ヴィンスを中に入れ、戸をしっかり閉める。

 上着を脱ぎ、適当に椅子に引っ掛けては、俺の隣に立ってアマシュリの様子を見ていた。


(あ、そういれば俺、シレーナね)


「ヴィンスは治癒魔法が得意なんだ。だから呼んだ」

「そうか…」

 

 再開の挨拶もまともにできていないというのに、来て早々アマシュリの診断に入ってしまうヴィンスに、少しだけルーフォンは寂しさを感じているようだった。

 席を交代し、出来るだけアマシュリに近い場所にしてやる。

 胸元に手を乗せ、ゆっくりと魔法でアマシュリの体を見ていく。それと同時に、内部から魔法で治癒を行っていく。外から見ている分には、ただ胸元に手を置いているようにしか見えないというのに、あれで結構な治癒を行ってくれる。信頼しているのだ。

 暇になってしまった俺は、ヴィンスの上着をハンガーにかけ、そっとクローゼットにしまってやる。


「あ、すみませんシレーナ様」

「いいよ。っていうか様つけるなよ~」


 いつも“魔王様”と呼んでいるからこそ、魔王と呼べない分シレーナでも様をつけてしまうのだろう。

 また敬語だと言わんばかりに、ルーフォンは不思議そうな顔で俺を見る。

 一体二人にとってどんな存在なんだ。そう考えているのだろう。


「どう? アマシュリ」

「うん…。すごい楽になったよ…。ごめんヴィンス。走らせちゃっただろう?」

「いえ。思ったより遠くなかったので」

「そうか。ありがとう。ところでヴィンス、可愛くなったな」

 

 必死に笑いをこらえているのが分かってしまったのだろう、ため息をつきたいような顔でじっと俺を見ている。

 わかっている。ヴィンスの大人バージョンは、いろんな魔物に姿がばれている可能性がある。それに、もしかしたら人間も知っている可能性があるからこそ、その姿だって言うのは聞いている。でも、あの身長が高くて、かっこいい男が、肩付近まであるちょっと長めの黒髪で、垂れ目がちな丸い目。

 似ても似つかない。

 確かに、身長と特徴を変えてしまったほうが、ばれないというのはわかっている。ヴィンスは名前自体は知れ渡っていないため、人間の土地でもヴィンスと呼んでも良いみたいだ。


「そういえば、前に女の子と間違えられました」

「えぇっそれはちょっと無理があるんじゃ」

 

 そう言いながら、アマシュリと俺は笑っていた。

 上着をかけていた椅子の足元に、紙袋がある。確かヴィンスが持ってきていたのだが、これは何かと袋の中をちらっとのぞいてみる。


「あっ」

「そういえば、渡されました。是非シレーナ様にって」

「やったぁ~あいつのケーキ!?」

「はい」

「らっきぃ~」

 

 紙袋から箱ケースを取り出し、それをテーブルの上に置く。

 皿まではないのが気に食わないが、そこは仕方がない。

 リベリオのケーキだ。

 おやつを作っておいてくれと言ったきり、食べずにこちらに帰ってきてしまったから、相当拗ねただろう。だから、丁度ヴィンスが出ると言うことで、渡したのだろう。きっと無理やりだ。想像がつく。

 リベリオのすることだから、大きいホールかなと思ったが、ショートケーキだった。

 中にはモンブランもある。モンブランが好きな俺は、他のケーキよりも先にモンブランを箱から取り出す。


「ほらっルーも選べって」

「甘ったるいのあんまり好きじゃないんだが…」

「まじうまいんだって」

 

 渋い顔をしながらも、ゆっくりと箱の中をのぞいてみた。

 何が良いかと暫く覗いていたが、ようやく箱の中に手を入れ、取り出したのが、無難なイチゴショートケーキ。あまり食べ物を冒険しないタイプだなと、一瞬でわかった。


「ヴィンス、アマシュリのほうはどう?」

「術が少しかかっていたので、それを外しただけです。他は問題なさそうですが、暫くは横になっていたほうが良いと思います」

「んー。じゃあ、明日はルーと街を歩いてくるよ。さっきの魔導師と顔合わせしたら、アマシュリが気まずいだろうし、ヴィンス明日何か用事あるのか?」

「いいえ。ありませんが」

「じゃあ、アマシュリとお留守番お願いしていいかな?」

「えぇっ。構いません」


 ルーフォンには、街で宝石を選んでくれるという約束をしたし、ヴィンスをアマシュリに任せれるとなれば、ルーフォンとともに行動しても支障はない。それに、もしあの魔導師と出会ってしまった場合、アマシュリがいると、魔物がいるぞと騒がれかねない。

 害がなくとも魔物が街にいるとばれるのは、さすがにまずいだろう。追い出されるだけならまだしも、攻撃態勢に人間が入らないとは限らない。


「じゃ、そういうことで。ヴィンスもここに泊って行けよ」

「ありがとうございます。ではソファをお借りします」

 

 あたりを見回し、ベッドが二つしかないことに疑問を感じているヴィンスは、ソファを選択した。

 三人で部屋はとっても、結局俺はアマシュリと寝るつもりだったから、二人部屋でいいと受付に申し出た。その方が、金額も浮くという考え方で。


「ソファ? ルーか俺と寝るか?」

「そんなっお構いなく…」

「でも風邪ひくぞ。駄目だ。選択しろ! 命令だ。 俺、アマシュリ、ルーフォン。さぁ、この中からお好きなものを選べ!」

 

 魔王命令は有効に使いましょう。

 なんだか、人間でいう修学旅行の、最初の夜のような気分で、ちょっとだけ楽しかった。

 魔王の城にいたら、こんなこと楽しめないし、リベリオやヴィンスと一緒に寝たいと言い出したら、シェイルがうるさい。

 何かあったらどうするんだと、ガミガミ言われてしまう。それに大人しくしたがってしまう俺もどうかと思うのだが、なんとなく逆らえない自分がいた。だからこそ、シェイルの目が離れているときくらいは、好きなように人を振りまわしたい。


「…わかりました。ではルーフォンと」


 今、何かアマシュリと通信テレパシーをしていた気がする。

 するにはちょうどいい間だった。何を相談し合ったのかが気になり、ヴィンスにテレパシーを送る。


(今何をアマシュリと会話した?)

(…はい。聞こえていなかったですよね…? なぜわかったのです?)

(なんとなくそんな気がした)

(…。私が魔王様ととなると、アマシュリがルーフォンと一緒なのですよね? それはアマシュリがいやだと。で、アマシュリと私でしたら、魔王様がルーフォンと一緒になる。それは危険です。では、消去法でルーフォンとがいいかと)

(そう。わかったよ。てっきり俺が嫌いなのかと…)

(そんな滅相もない!)

(はははっありがとよ)

 

 

 

 


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