第13話
「んー…」
「あ、シレーナ起きた?」
「さっきの地響きで起きないお前もどうかと思うが…」
「んぁ?」
何のこと? と言わんばかりに、俺は目をこすりながら起き上る。
先ほどの砂にまみれたような気持ち悪さがない。
案外別の体で戦うのも悪くないなと思いながら、ずっと横になっていた体を伸ばす。
「あーよく寝た(つか、寧ろ疲れたけど)」
「さて。次進むか」
木に寄りかかっていたルーフォンは、木から離れて歩き出した。
それについて行くように、後ろからアマシュリとともに歩き出す。
(先ほどの何があったんですか?)
(いや、パァッと潰したくてちょこっとだけ大きな魔法を使っただけだよ)
(ではお怪我はないのですね?)
(まぁね。あ、あとヴィンスが魔物だって伝えちゃったって伝えておいた)
(はい)
暫く歩いていると、またもや魔物に囲まれた。
しかし普通の魔物ではない。何やら、逃げてきたかのような息の切らせ方だった。しかも、魔物の領域のほうから現れたようだ。
街に近づいてきているのか、うっすら街のほうから人間の気配が一人二人くらいの気配がする。
「街付近はいいなぁ。少人数の人間がよく引っかかる」
ということは、大人数の人間がいる場所にはあまり寄りつかないタイプの魔物だ。低級魔物というのはわかったが、なんだかどこかで見たような顔だった。
数は20匹。少々大目かもしれない。
「さっきは暴れれなかったからなぁ。ようやく思いきって暴れられる」
数匹笑いながらそう言っているが、どこかで争いがあったのだろうか。その時に、人間の手により追い払われた口だろうか。
しかし、さっき暴れたと言えば、魔王のほうに戻った時、数匹逃げていたような。
(そんでこんな顔してるやつもいたかも…)
(魔王様?)
(あ、ごめんテレパシーしてた?)
考えることに夢中になりすぎていたのか、ついアマシュリにテレパシーを送っていたみたいだった。
先ほどの争い時に、数匹逃げてしまった魔物がいて、その時の魔物の顔にそっくりだという話をすると、じゃああまりの恐ろしさに逃げてきたはいいけど、足が止まらなくてここまで飛んできたんじゃないですか? という話になった。
飛んでくるのであれば、このくらいの魔物であればこのくらいの時間帯に現れても仕方がない。
戦いが終わってから、それなりに時間は過ぎている。
挑発するかのように、魔物のリーダー格に向かって口を開いた。
「なに? 人間に追い払われでもしたのか?」
「ちっげぇよ。人間如きに追い払われるかよ!」
「じゃあ何か? 魔物に追い払われたのか? 魔物が? そして弱い人間に手を下そうって? ひっどぉい」
馬鹿にするように、魔物に向かってそう笑ってやると、アマシュリのほうを見ていた魔物が、何かに気づいたように、俺の言葉を無視して口を開き始めた。
「…貴様! 魔王の城に仕える情報魔!」
『え…?』
アマシュリのことを知っていたのだろう。
しかし、情報魔というのは知っていてもおかしくはないとは思う。しかし、魔王に仕えるものだということまで知っている奴は、そう多くはない。
城の警備か、城の中のもの。ただし、情報魔はアマシュリ以外にもいる。もしかしたら何処からか情報が漏れ、その情報を別の情報魔によって流されたのだろう。
あまりにも唐突で、つい二人で首をかしげてしまった。
「誤魔化されないぞ! 緑色の髪で、子供の容姿。魔王の城に入っていくのをよく見てる。しかも、情報魔だということも調べ上げた。まさかこんな所であえるとはな…さっきの復讐ができそうだ。しかも弱いときたらとくに」
いいことを思いついたと言わんばかりに、ニヤリと口元を上げ、手を伸ばして近づいてくる。
ついつい背にアマシュリを移動させ、その魔物の手に近寄らせないようにしてしまう。
アマシュリが魔物だということは知っているルーフォンでも、魔王の城に入り浸っているとなれば、話が変わってきてしまうかもしれない。チラリと様子を見ていると、何を考えているのか分からないような表情をしている。
ルーフォンに戦わせるか、アマシュリをルーフォンに任せて俺が戦うか。しかし、無事に護ってくれるかが分からない。
魔王を倒したいという気持ちがあるルーフォンにとっては、魔王の城に入ることが許されているアマシュリも、魔王と縁があるということだ。手を出さないとは言い切れない。
「少人数の人間に寄って集ってこの人数とは、さすが魔物。ひどすぎやしないだろうか?」
聞き覚えのない声に、魔物も俺たちも、声の主を探してしまう。
あたりを見回してみると、街のほうの木の陰から、白いローブを着ている男の人が現れた。年齢は、ルーフォンくらいだろうか。黒に近い茶髪で、黒い瞳。手には手の平サイズの宝石が先についたロッドを持っている。
(魔王! 魔導師です)
(魔導師…って?)
(魔術を専門に使用する者です)
(強いのか?)
(剣術等では弱いですが、その辺の魔術を使う人間よりは手ごわいです。ロッドを利用して、小さな魔術でも強い威力を発揮することができます)
(つまり面倒な人間ってことか?)
(はい)
アマシュリが情報をたくさん持っていてよかった。
面倒な人間っぽい雰囲気はあったが、能力の面でも面倒な奴だとは思わなかった。
しかし、今は少しだけ味方してくれそうな雰囲気だ。
「ひどい? ひどくないことをしても、人間は魔物を悪者扱いするんだろうが。だったら、非道なことを行っても当たり前だろうが!」
「知ってるか? そういうのを“開き直り”っていうんだぜ?」
またもや挑発するように、ベーっと舌を出して、子供のように喧嘩を売る。
「お主たちも襲われたくないのであったら、そう喧嘩腰になるものではないぞ」
(見た目に似合わず爺さんじみたしゃべり方だな…こいつ嫌い)
魔導師の言葉に、何かの闘争心が芽生えてきた。
魔物を殺す前に魔導師を殺してやろうかという気持ちになったが、今ここで暴れてしまうのはまずい。今ばれるには面倒な敵だ。
「まぁいい。どうせ4体しかいないんだ。すぐに殺してやるよ」
戦闘態勢に入った魔物たちは、魔導師を狙うもの、俺らを狙うもので二分割した。
武器を使用してくるものはルーフォンが相手をし、直接攻撃してくるものは、俺やアマシュリが相手にする。魔導師がいると言うことで、あまり大きく暴れれないアマシュリは、必死に敵の攻撃をあまり俺やルーフォンから離れないように、ちょこまか避け続ける。
魔導師のほうは、結界やら魔術やらを細かく利用しているみたいで、加勢の必要はなさそうだ。
数匹動けなくさせると、身体に何かが反応した。
肌に細い糸のような物が撒きつき、ピリッと電流が走っているような何かが。それに気付いた瞬間、周りの魔物とアマシュリは、縄で縛りあげられたかのように、脇と両足を合わせ、倒れこむ。
抵抗するように、身体の周りに魔力を流し、その糸らしき拘束から逃れる。
少しだけ、アマシュリが使う拘束魔法に似ていた。
「ふぅ。小賢しい魔物は縛り上げると静かじゃ。しかし、お主も縛られたということは、魔物か? なぜ人間と行動を?」
「アマシュリに何したんだ?」
魔導師が不思議そうにアマシュリのほうを見ているところ、ルーフォンがアマシュリに近づき、そっと触れてみる。
俺も近づき、糸か何かがあるのかを、アマシュリの体で調べてみる。
これも魔術なのだろう。
「そのガキにではない。ここ付近にいる魔物に、動けなくなるように拘束魔術を使っただけだぞ。まさかその者まで魔物だとはな」
だからか。
すぐに気付いて解いたのは正解だったみたいだ。
たぶん、この魔物たちみたいに縛り上げれるほど、弱くはないが、あの電流は少しだけ危険性があった。タイミングが悪ければ、魔導師に俺も魔物だと気付かれただろう。
「アマシュリ…平気か?」
「う…ん? いたぃ…痛いよ!」
そっと縛られているところに触れると、小さく電流が走る。
「痛いだろうな。電流で神経を狂わせてる。低級魔物には一番よく効く。便利じゃ」
「アマシュリは敵じゃない! 離してやってもらえないか?」
「離してしまうと他の魔物も逃がしてしまうが?」
「一体だけ解くことはできないのか!?」
「そこまで器用じゃない」
降参というように、両手をあげて見せる。
殺してしまおうかと思ったが、今はアマシュリを助けることに集中しなければならない。俺と同じように魔力で切れればいいのだが。
「アマシュリ…。いいか、魔力を身にまとうのをイメージして…」
「う……無理…だよ、俺そんなに、魔力ないって……」
(大丈夫。イメージだけしておいて。俺の魔力できるから、自分で切ってるふりだけでも)
「無理じゃぞ。そう簡単に切れるものではない」
無理をするなといわんばかりに、魔導師は怒鳴りつける。
一切その言葉を気にすることなく、アマシュリの背中をなでてやる。電流が走り、すごく痛いが、人間には効かないみたいで、ルーフォンが触れていても何も気にしてはいないようだった。
そっと触れている手に魔力を集め、一本一本切るように魔力を注ぐ。
唸るアマシュリも、自分の魔力でどうにかしようと頑張っているようだった。
「大丈夫…。アマシュリ…」
何度か背をなでてやり、アマシュリの体に傷を作らないように、そっと呪縛から解いてやった。
ようやくまともに息ができるようで、自由となった身体を動かしながら、荒い息をゆっくり落ち着かせてやる。
「何と…」
今まで解けたやつを見たことがなかったのだろう。
驚いたように、一歩魔導師の足が引いた。
「さぁ行こうか。ルー。アマシュリをおぶれるか?」
「あぁ」
しゃがんだルーフォンの背にアマシュリを乗せてやり、しっかりと首に腕を回させる。
持ち上げたルーフォンとともに、次の街を目指して足を進める。
「ちょっとまて、魔物と行動するつもりか?」
その言葉に、俺の脚が止まる。
ルーフォンも、ゆっくりと足をとめ、魔導師のほうを振り向いた。
「別に、お前が魔物と行動するわけじゃない。俺がアマシュリと行動したいんだ。俺は差別なんかしない。差別するのは、いいやつか悪いやつかだけだ。今のお前は俺にとって、“悪いやつ”だ」
それだけを伝えると、再度街に向かって足を進めた。
街までもう少しだ。
「街に着いたら、宿を先に探そう」
「あぁ」




