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『ストーカーに付け回されて困っています。なので、彼氏のフリをしてくれませんか?よろしくお願いします。
2年A組 九条宵子』
「……はあ。ほんとに良いのかな、こんなこと」
次の日の放課後。簡潔に依頼を書いた紙を箱に放り込んで、あたしは深く溜息をつく。
でも、こういう対面が必要となる依頼は受けてくれないんじゃないだろうか。正体バレを何よりも避けたいみたいだし。
そうだったとしたら、また無能呼ばわりされるんだろうな。憂鬱だ。
「何でも叶えてくれる人達なんだったら、あたしのこと助けてよ……」
今のクソみたいな家から逃げ出したい。ここじゃなければ何処だって良いから。
だけど自分ひとりで逃げられる勇気なんてない。
「何でも叶えられるんでしょ……。あたしのこと助けてよ……幸せにしてよ……」
もしかしたら……という思いがあったのかもしれない。
あたしはノートの切れ端に《あたしをたすけて》と書いた紙を箱に放り込んだ。
「……まあ、無理に決まってるけど」
期待なんてしていない。よろず部の部員だってあたしと同じ学生に違いないのだから、学生が出来ることなんてたかが知れている。
だから、名前は書かなかった。書いたところで叶えて貰えないオチなのは分かっていたから。期待なんかしない。しても無駄。
あたしのことは誰も助けられない。あたしを迎えに来てくれる王子様なんて、存在しない。
「馬鹿馬鹿しい。……さっさと帰ろ」
せめて、《嘘の依頼》の方だけは叶えて欲しい。家族に無能扱いされるのはごめんだから。……そっちも、半ば諦めているようなものだけど。
さっさと帰らなきゃ。少しでも遅くなるとまた嫌味を言われる。あたしは急いでその場を後にした。
だから、気づかなかったのだ。
「ふうん……九条、宵子ちゃん……かあ」
よろず箱に紙を放り込んだところを、ずっと見ていた人がいるなんて。