1-3
……その後、父と兄が帰宅してきたので食卓につく。
本当はこんな人達と一緒にご飯なんて食べたくないんだけど。体裁だけは気にするらしく、「家族は皆で食事するもの!」とか父がうるさいから仕方なくあたしはこうして席についている。
「そういえば、よろず部の話なんだけど」
「あ?よろず部って何だよ」
「あっ、そっか。お兄ちゃんとお父さんには説明してないんだった。えっとね……」
千暁は先程あたしと母にした説明をもう一度兄と父に繰り返す。……よろず部に会いたいんだという要望も含めて。
それを聞いた兄は馬鹿にしたように溜息をつく。
「は?馬鹿かよ。ンなの簡単に会えるじゃねえか」
「な、何よー!アタシ、馬鹿じゃないもん!」
「会いたいなら奴らを引っ張り出して来れるような依頼を出せばいいじゃねえか。例えば《ストーカーに付き纏われているので彼氏のフリをしてください》とかよ。そしたら彼氏のフリをする為に表に出てこなきゃいけなくなるだろ?ちょっとは頭使えっての」
「……!確かに!お兄ちゃん頭いいね!」
「お前がアホなだけだ」
そしてそんな兄妹のやり取りを横目に、黙々と食事を続ける自分。こんな風にあたしはこの家の中で空気なのだから、無理して同じ食卓につかせないで欲しかった。
本来なら微笑ましい兄妹のやり取りなのかもしれないが……イライラする。
「じゃあアタシ、明日にでもそう書いて依頼出す!」
本当はストーカーなんかされてない癖に、そんな自分勝手な理由の為に依頼を出していいものだろうか。
まあ、あたしがそんなことを言ったところで人格否定されるだけだからあたしは居ないものとして振る舞うしかないんだけど。
「駄目だそんなの」
すると先程まで黙っていた父が口を挟む。意外だった。やっぱりやっちゃいけないことってのはちゃんと注意して……。
「そんな訳の分からん連中を千暁の伴侶に出来るわけなかろう」
……ああそう。そういう人達だった。期待したあたしが馬鹿だった。
「お父さんってば。ほんとに彼氏になって貰うわけじゃなくて、フリするだけだよ?」
「たとえフリだとしてもだ。千暁の周りにそんな男を置いておく訳にはいかん」
「えー、じゃあどうしたらいいの?」
……何となく、嫌な予感がする。
あたしは気配を消してこの場から去ろうかと思ったが……。
「そんなの、この無能女にやらせりゃいいだろ?なあ?」
「きゃっ……!」
……一足遅かった。あたしは兄に髪を引っ張られ、逃げることを許されなかった。
「あらあら!こんな女にストーカーがいるだなんて信じてもらえるかしらねえ!」
ここぞとばかりに母があたしを攻撃する。
「……そうです。あたしみたいな女にストーカーがいるだなんて、信じて貰えないと思います」
「あ?お前俺に反抗すんのか?宵子の癖に」
兄から強く髪を引っ張られる。痛い。
「お前ごときが俺に逆らえる訳ないよなあ?」
……身体が強ばる。両親に対しては面倒なことになるのが嫌で敢えて反抗していないだけだったが、兄に対しては反抗が出来ないように身体に刻みつけられていた。
そのせいで、声すらも出せない。怖い、怖い……。
「……とりあえず明日お前の名前で依頼出しとけよ。分かったな?」
何も言わず震えているあたしに舌打ちをし、兄は吐き捨てるようにそう言うと自分の部屋へと戻った。
「あ、あのね、お姉ちゃん。あの、別にお姉ちゃんがやらなくてもアタシが」
「良いです。あたしがやります」
千暁が気を遣ってくれたが、あたしは首を横に振る。ここで千暁にやらせたら兄に何をされるか分からないし、両親にも責められるだろう。
元はと言えばアンタが変なこと言い出すからあたしがやらなきゃいけなくなったんだ、クソガキめ。……そんな思いを込めて、あたしは妹を睨みつける。どうせ前髪に隠れて目は見えない。
「お姉ちゃん……」
あたしを呼ぶ妹の声を背に、あたしは自分の部屋へと戻った。




