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「……ただいま帰りました」
恐る恐る扉を開ける。
「あら、遅かったじゃない。さっさと洗濯物片付けといてくれる?」
「……はい」
幸い家には母親しか居なかった。良かった、兄が居ないだけでもだいぶ気が楽だ。
でもお母さんだってずっと家に居る専業主婦なんだから、家のことくらいあたしに頼らずにやって欲しい。……なんて言ったら暴力を振るわれるの分かってるし、言わないけど。
「本当に可愛くない子ね。誰に似たのかしら」
「……すみません」
「千暁はあんなに可愛い子なのに宵子ったら。見た目も性格もブスなのね」
……あたしがちゃんとした格好が出来ないのは、アンタらがグチグチ文句を言うからでしょうが……!風呂にすら毎日入らせて貰えないのにそれでどうやって可愛らしくしろと?いい加減にしろクソババア……!!
……いけない。少しでも反抗的な目を向けるとまた無駄なお説教タイムが始まる。まあ、髪すら切らせて貰えないせいであたしの目は完全に前髪に隠されていて、表情なんか見えっこないが。
「ただいま〜!」
そうこうしているうちに妹の千暁が帰って来た。千暁はあたしと違って親に愛されており、あたしと違って本当に可愛い子だ。
「あらあら千暁ちゃんおかえりなさい!もー、聞いてよ!宵子ったら今日も陰気臭くて!少しは千暁ちゃんを見習って欲しいわ!」
「こら、お母さん。お姉ちゃんのことそんなふうに言っちゃだめ。お姉ちゃんだって可愛いんだから」
……千暁は絶対にあたしの悪口を言わない優しい子だ。でも、そのせいであたしがもっと惨めになってしまう。
「ほんとに千暁ちゃんはいい子ね!それに比べて宵子は……」
毎回毎回よく飽きないな。あたしを下げて千暁を上げる遊び、そんなに楽しいんだろうか。でもここで溜息なんかついたら面倒なことになるから、あたしはぐっと堪える。
「お母さんったら……あっ!そうだ!今日学校で面白い話を聞いてね!」
比較される千暁自身も嫌気が差したのか、あたしを気遣ったのか、さっと話題を変えてくる。こういうところもいい子なんだよね。……反吐が出る。
「職員室前に《よろず箱》ってのが置いてあってね。叶えて欲しいことを紙に書いてその箱に入れると、《よろず部》がその願いを叶えてくれるんだって!」
……《よろず部》の話は、噂程度でなら聞いたことがあった。
どんな願いでも気づかないうちに叶えてくれる部活。部員どんな人達なのか、何処で活動しているのか、どんな活動をしているのか……何もかもが謎に包まれた部活である。
自分達の正体がバレないようにその願いを叶えてくれるなんて……凄い人達だ。まあ、流石に「あたしを助けて」なんて頼んでも助けてはくれないだろうけど。
「お姉ちゃん、アタシね!そのよろず部の正体を知りたいなって思ってるの!お姉ちゃん新聞部でしょ?何か知らない?」
確かに新聞部でよろず部について取り扱おうとしたことはあった。しかし、どれだけ張り込んでもよろず部は尻尾ひとつ見せてはくれなかったのだ。
そもそも情報が無さすぎて、何処で張り込めばいいかってのも分からなかったんだけど。闇雲にやってても捕まる訳が無い。
「……えっと、あたしは知りませんけど」
「まーっ!せっかく新聞部に入ることを許可してやったってのに!使えない子ね!」
ここぞとばかりに母があたしを攻撃してくる。何で所属する部活もアンタの許可を貰わなきゃいけないんだあたしは。お金がかかる部活ならともかく。
「んー、どうしたら表に出てきてくれるかな……」
「……無理なんじゃないですか。正体バレしないの、徹底してるみたいですし」
「無能は黙ってなさい!」
はいはい。もう黙ってますよ。
あたしはそれ以降、口を閉ざして家の片付けに集中することにした。