第4話 舞踏会なんて疲れるだけよッ
貴族たちが集まる舞踏会。
パッと目を引く美しい容姿、流れるが如く優美なダンス。
ディアーヌは当然、参加者の女性の中でもダントツの人気を誇っていた。
「御令嬢、ぜひ私と……」
「申し訳ありません。先約の方がいらっしゃいまして。」
しかし、優越感に浸るどころかこんな状況にはウンザリしているディアーヌ嬢。
(どうして舞踏会では、令嬢はお酒も飲ませてもらえないのかしら…)
ダンスの時間も終盤となり、他所行き用の笑顔でレモネードを飲んでいると、仕切り屋のマーガレット嬢が近づいてきた。
「ディアーヌ嬢、ご機嫌よう!!」
「あら、マーガレット嬢、ご機嫌よう。」
「相変わらず、引く手あまたのようですわね。ドレスもお似合いですわ。」
「マーガレット嬢こそ、エメラルドのイヤリング、素敵です。」
そんなディアーヌは最高級のルビーのイヤリングが白い肌によく映えて一層美しい。
「あなたに嫌味にすら聞こえるわね。まあ、いいわ、そんなことより、こちら、今度の懇親会の案内ですので、是非。お忙しいようですけれど。たまには顔を出していただけたら、皆様喜ばれますわ。」
「まあ……」
《懇親会開催のご案内》
薔薇型の封蝋で綴じられた招待状を見て、ディアーヌは内心ため息をついた。
このところ頻繁に令嬢同士の食事会に招待されるが毎回断っており、いい加減断り文句も思いつかない。
「ご招待いただき、光栄です。後日、参加の可否をご連絡させてください。」
「再来週末ですけれど、ご予定がお有りで?」
(予定がなかったら断っちゃいけないのかしら。いい加減、察していただきたいものだわ。)
「ええ、確認させてください。」
「次回は良ければ、一番お忙しいディアーヌ嬢に御日程合わせますわね。」
「いえ、そんな、私のような者にはそんなご配慮、身に余りますわ。」
(余計なことしないでほしい…放っておいてよッ)
「もしかして、本当は気乗りしないとか?」
(もしかして。じゃないわ!)
「まさか。」
「ご自宅でお籠りになるのがお好きなんだとか聞いたことがありますけれど、ディアーヌ嬢のような社交的な方が、そんなわけないですものね。是非、いらしてください。」
「そんな話が出ているのですね。マーガレット嬢のように人付き合いに長けた方に憧れますわ。では、また。」
丁寧にお辞儀をして、その場を立ち去る。
(めんどくさーいっっ)
断られることに異様な耐性を持っていて、何度でも誘ってくる、あの人種のメンタルの強さは異常である。
こちらの都合に合わせてくるなどと言われたら、今度はいよいよ逃げ道がない。
そんなことを考えていると、今度は若い侯爵が声をかけてきた。
「ディアーヌ嬢、この後ご予定なければ、少しお話ししませんか?」
「今日は済ませたいことがございますので、またの機会によろしくお願い致しますわ。」
済ませたいこと、それは、一刻も早く舞踏会から脱出することである。
なぜ、せっかく予定がないのに気を使ってつまらない話などしなくてはならないのだろう。
必殺ッ〝早抜けの術〟で華麗にその場から消え、無事、自宅に戻ったディアーヌ。
暑苦しいドレスを脱ぎ捨て、ラフな水色のワンピース(貴族の寝巻きみたいなもの)に着替える。
それだけでも、身体が随分と楽になった。
今日はド平日。
明日も朝からみっちり勉強と稽古だ。
しかし、舞踏会でレモネードを飲まされ続けたので、さすがにアルコールで飲み直したい。
部屋の鍵が内からかけられていることを確認してから、例によってテーブルライトを持ち上げる。
その下には、異世界への扉の鍵。それをそっと手に取り、ディアーヌは異世界への扉を開いたのだった。
明日も早いし、一杯だけーー。
この"一杯だけ"ほど当てにならない数字も、そうないのであるが……
とにかくも、ディアーヌは己を癒す一杯を求めて、またもグルメ天国ニッポンへと降り立ったのであった。




