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のんべえ令嬢のニッポン飲み歩き!!ーオフの日は異世界から、愛するグルメ天国ニッポンへー  作者: ちくわ族の生き残り


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第30話 神田の焼き鳥②

そして、ついに焼き鳥が運ばれてくる。


「ねぎまです」


目の前にまず置かれたのは、焼き鳥の王道、ねぎま。

大きな鶏肉の間に、香ばしく焼かれた長ねぎ。リリーが一口食べる。


「……!」


今度は声が出なかった。


ディアーヌも串のままかぶりつく。表面は香ばしく、中は柔らかい。肉の脂、それの旨みのしみた、焼かれて甘くなったねぎ。


そこに運ばれてきたのは、3種類の芋焼酎。


『千本桜 熟成ハマコマチ』


『鶴見』


『ひとり歩き』


「みなさん、最初からロックだなんて、お強いですね」


人当たりの良いバイトのお兄さんがにこやかに笑う。


「そんな、強いほどでは…」


「嗜む程度、ですわっ」


「大好きですっ」


「はは、好き、が一番ですよ!」


有り余る探究心を持つ三人の呑兵衛たちは、それぞれを飲み比べる。


(ハマコマチ、は芋の種類ね。オレンジの紅茶のような華やかな香り、だけじゃなく奥行きもある)


(ひとり歩き、これもフルーティーだけど優しくてずっと飲めそう)


(鶴見!!これは、ガツンとくるわね。これぞ芋!って力強さ、イイ……ッ!)


ディアーヌは超真剣に芋焼酎を飲み比べる。


お酒だけで楽しめるもの、食べ物と合わせたらさらに良さそうなもの、どちらでも行ける優等生。


いいバランスで三種類出してくれたようである。ここのスタッフ、なかなかやる……


ディアーヌだけではない。リリーも真衣も、知識の有無など関係なく、自分なりに目の前の酒と向き合っていた。


そして、続く串物はレバー。

リリーは少し警戒した。


「これは……?」


「肝臓」


「肝臓!」


驚いた顔をしながらも、口へ運ぶ。


「……あ」


「どう?」


「濃い甘み、うまみ!焼くことで味わいが凝縮して、レアなものとはまた違った美味しさですわね」


「リリー、やたら食レポが上手ですね」


「ふふ、アナウンサーとか、向いているかも。可愛いし」


そんな軽口も交えながら、食べる手が止まらない。


「こちら、ちょうちんです」


店員が置いた串を、ディアーヌとリリーは凝視した。


「……これは?」


ディアーヌが尋ねる。


「鶏の卵になる前の部分ですね」


「卵になる前……?」


リリーが首を傾げる。


「つまり、まだ卵になっていないものですの?」


「そういうこと」


真衣が答える。


「日本の焼き鳥は、鶏のいろんな部位を食べるのよ」


「……奥が深いです」


ディアーヌは感慨深くうなずき、その奇妙な玉のついた「ちょうちん」を口にする。


ぷちっ。


玉が弾け、とろりと黄身の濃厚な味わいが広がる。ヒモ部分のコリッとした食感も、面白い。


(…だ、大ヒットーーーッ!)


この濃厚な味には、と「鶴見」をすかさず飲む。

やれやれ。


「日本という国は、本当に食べ物に関しては、容赦がありませんね」


「どういう意味?」


「普通なら捨ててしまいそうなところまで、こんな見事に料理にしてしまって。何を食べても……油断も隙もありません!」


「リリー、このちょうちんという串、あと5本はいけそうですわッ」


真衣が笑う。

それからも、次々と串が運ばれてくる。


ハツ、皮、つくね、軟骨、ぼんじり、手羽先ーー


リリーもすっかり夢中になっていた。


砂肝を食べれば、


「歯ごたえがすごい!」


皮を食べれば、


「脂が美味しいです!」


ぼんじりでは、


「……これはちょっと危険ですね」


「何が?」


「美味しすぎます」


真衣が吹き出す。


本当に、どれも美味しい。それぞれ、味も食感も違う。

そして、そのどれもに甲乙つけがたい魅力が詰まっている。塩もタレも!


「同じ鶏なのに、こんなに違うんですね」


ディアーヌもしみじみ呟いた。


「これから毎日ヤキトリでもいいくらいですわっ」


「そんなに?」


「はい。いくらでも食べられそうですわ!」


飲みも進み、はしゃぐリリー。


ディアーヌはその様子を眺めながら、ふと思った。


リリーは肉が好きだ。これは以前から気がついている。

けれど今、ただ肉をたくさん食べて嬉しいというわけではなさそうだ。

知らないものを食べること。初めての味に驚くこと。そして、それを美味しいと思うこと。


リリーは、そういう「体験」そのものを楽しんでいるのだ。


真衣が焼酎のロックグラスを傾けながら言う。


「このお店、お酒のセンスもすごい良いよね。焼き鳥に芋焼酎、最高…」


うっとりと言う真衣につられて、ディアーヌはまた焼き鳥を食べ、芋焼酎を飲む。


焼き鳥のタレの甘み。肉の脂。香ばしい炭の香り。そこへ芋の風味と旨味が重なる。


「うん、ビールとはまったく違います」


「酒によって料理の見え方が変わるんだよね」


「なるほど。日本では、料理だけではなく、お酒まで含めて食事を考えるのですわね」


「……リリー、あなた、かなり飲むようになりましたね」


「美味しいものには、合うお酒も試したくなりますものねっ」


ディアーヌは呆れながらも笑った。

気がつけば、皿の上の串はほとんどなくなっていた。


「……食べましたね」


「はい!」


リリーも満足そうだ。


「お祭りで食べられなかった分まで、食べられました!」


「それならよかった」


お酒でほんのり頬が色づいた真衣がふんわりと笑う。


店を出ると、神田の夜風が少しだけ涼しかった。

リリーは満足そうにお腹をさすりながら歩いている。


「今日は本当に素晴らしい体験でしたわっ」


「師匠のお店選びの賜物ですね!」


「ふふ、またいつでも頼ってちょうだい!伊達に飲み歩いてないんだからっ」


ディアーヌはふと、先日のことを思い出した。

ユーリに、リリーがまだ知らないような美味しい肉料理を食べさせてみてはどうか、と言ったこと。しかしーー


ディアーヌは少しだけ不安になる。

ユーリは、いったい何を食べさせるつもりなのだろう?


素晴らしい日本の食文化に触れて、これほどリリーは感動している。今日の焼き鳥に、勝る美食など今の我が国には滅多にないだろう。


「……ちょっと、ハードルを上げすぎたかしら」


「どうしましたの?」


リリーが振り返る。


「いえ、何でもありませんわ」


ディアーヌは笑った。


「ただ……次にあなたが食べるお肉料理が、今日のように美味しいものだといいなと思って」


「はい!」


リリーは嬉しそうに答える。


その無邪気な笑顔を見て、ディアーヌはますます心配になった。


ーーユーリ。あなた、グルメ大国ニッポンで舌が肥えつつあるリリーに、いったい何を用意するつもり?


神田の夜の街を歩きながら、ディアーヌは密かに雲のかかった月を見上げた。




その頃ーー


王都では、ユーリが料理人たちを集めていた。


「最高の肉料理を作るぞ」


ただの肉料理では、リリーを驚かせるところまではいかないだろう。

牛、豚、羊、鹿。そして、北方でしか獲れない未知の獣。


「我こそがリリー様を喜ばせる、最高の一品を……!!」


料理人たちの挑戦が始まった。

果たして、リリーを驚かせる一皿は完成するのか――。


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