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のんべえ令嬢のニッポン飲み歩き!!ーオフの日は異世界から、愛するグルメ天国ニッポンへー  作者: ちくわ族の生き残り


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第26話 浅草散策① どら焼き


◎浅草で貫禄あるどら焼き



浅草は、いつでも大変に人が多いと聞いていた。

だから、有名な場所と知ってはいても、なかなか足が向かなかったのだ。


(さすがに…息が詰まりそう)


トウキョウという街はそもそも人が多いけれど、ここは異様だ。

ディアーヌは小魚の群れの中に紛れ込んでしまったかのように、目が回ってしまう。


(しかも、色んな人種、服装、年齢の人びと。一体、どういうわけなの?)


その奇妙な光景に戸惑う。が、とにかくも足を踏み出すしかない。

今日は意を決して、なんとなく避けてきた浅草へ来てみたのだ。人混みくらいで臆しているようではいけない。


様々な雑貨屋や飲み屋のある通りを抜け歩いていると、多くの人がカメラを向ける大きなレッドランタン「雷門」が見えてくる。


人の波から離れるように信号を渡ると、何やら行列ができている。


(何かしら?)



【浅草名物 どら焼き 松野】


店の様子を見ると、どうやら和菓子屋のようだ。いかにも老舗という店構え。


「……甘いもの」


張り紙には、『名物どら焼き』とある。


どら焼き。聞いたことはあるけれど、茶色い地味なパンのような見た目にはあまり惹かれず、食べたことはない。


ふと、別のことを思い出す。

ルシアン。


あの、何を考えているのか分からない王子の顔が浮かんできた。


なぜだろう。

別に、彼に何かしてもらったわけではない。


むしろ、こちらの秘密を探られているような気がして、ディアーヌとしては警戒している相手だ。

日本のことを知られるわけにはいかない。


異世界から来た人間だと知られれば、何が起こるか分からない。

ましてやルシアンは頭が良すぎる。


些細な違和感から、こちらの秘密を見抜いてしまいそうな危うさがある。


(……本当に、困った人よね)


そう呟いたところで、また行列と店の看板に目が戻る。そして、気がつくとその列に仲間入りしていた。


客層はバラバラ。国も年齢も関係なく、愛されているということだろう。

並んでいる間に店内を見ていると、最中や煎餅、色んなものが食べてみたくなってしまう。


(今日は、どら焼きだけ!大事に食べよう)


「Are you ready to order?」


「あ、これを、ください」


「あっ日本語大丈夫でしたか、すみません。黒い粒あんのほうでよろしいですか?」


「はい」


「おひとつで?」


甘いもの好きであろうルシアンの顔が浮かぶ。


「……いや、ふたつ」


「おふたつですね」


「みっ…えぇ、ふたつ。いや、やっぱり3つ、お願いします」


店員が包んでくれる。


一つは自分の分。

一つはルシアンに。

そして、もう一つは……予備だ。


そういうことにしておこう。


そもそも、どら焼きだけで済ませただけでも、素晴らしい自制心だと誰か褒めてくれてもいいのではないか?

店を出ると、ディアーヌは紙袋を眺めた。


「……どうして私が、あの人のためにどら焼きを買っているのよ」


答えは出ない。

ただ、思い返してみて、なんとなく分かっていることもあった。


ルシアンは、甘いものが好きだ。本人は隠しているつもりらしい。


食事の席で甘いものが出れば、興味がないような顔をする。

誰よりも早く視線を向ける。

菓子の説明をしているときだけ、ほんの少し反応が早い。

そして、食べ終わったあと、ほんの一瞬だけ、満足そうな顔をする。


ディアーヌは、それを確かに何度か見ていた。


(私とあの人は、少し似ているかもしれない)


誰にも知られたくないことがある。

ずっと、気を張らせて生きている。

自分だけの秘密は、知られれば、弱みになるかもしれない。


だから、隠す。


ルシアンが甘党であることも、自分が日本から来たことも、まったく違う秘密なのに、不思議と通じるものであるような気がした。


だからかな?ディアーヌは小さく息を吐いた。


どうしてだか、放っておけなかった。

別に、親切にしたいわけではない。

彼に喜んでもらいたいわけでもない。

ましてや、仲良くなりたいわけでもない。


難しいことは、後にしよう。


ひとつだけ……店から少し離れた路地で、紙袋を開く。


どら焼き、なるものは手に持つとひとつでもかなり重みがある。


包装を剥がすと、ふんわりと甘く香ばしい香り。


生地は、吸い付くようにしっとりとしている。


半分に割る。

柔らかな生地の間から、たっぷりの餡が顔を出した。

ディアーヌはそれを、一口かじる。


(…美味しい〜〜っっ!!)


思わず目を見開く。

ふかふかの生地は、枕にしたいほど。


餡子というものは深みのある甘さと滑らかな豆の食感と風味が言葉にできないほど密度の高い「技」を感じる。


宮廷菓子やケーキのような華やかさはない。


けれど、素朴だからこそ、伝統と文化が詰まっている。そして、妙に心に残る。


「……おいしい」


もう一口。ディアーヌはしばらく無言になって、残りを見つめる。


「……そのための、予備だもんね」


誰に許可を求めるでもなく、二つ目を取り出す。

結果、浅草で買った三つのどら焼きのうち、二つがディアーヌの胃袋へ消えることになった。


残った一つを見つめながら、ルシアンの反応を想像して、少しだけ浮かれる。


(では、どら焼きパワーで人混みに揉まれて来ますかっ♫)


ディアーヌの浅草散策はこれからだっ!

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