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のんべえ令嬢のニッポン飲み歩き!!ーオフの日は異世界から、愛するグルメ天国ニッポンへー  作者: ちくわ族の生き残り


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第16話 それぞれの裏の顔

月に一度、王都の大広間では貴族たちが集う舞踏会が開かれる。


煌びやかなシャンデリアの下、楽団の音色に合わせて、色とりどりのドレスが優雅に舞っていた。


「リリー嬢、相変わらず可愛いねえ。本当に、まだ相手はいないの?」


ユーリ王子が、熱心にリリーへ話しかけている。


「本当ですかぁ? そんなこと言ってくれるの、ユーリ王子だけです〜」


「なんなら、婚約――」


「は、余裕なくって、今はまだ考えられないって言うかぁ〜。あ、それより、この前のラム美味しかったんで、今度は牛さん食べてみたいなぁ、とか。」


「牛!もちろん、最高のものを用意しよう!リリー嬢はお肉が好きなのかな?」


「ま、まさか!しょ、ショートケーキとかマカロンが好物、ですわ。」


「ま、まさか!」


リリーは大げさにその淡い桃色の目を丸くする。


「わ、わたくし、そんな野蛮なもの……」


「野蛮?」


「いえっ、そういう意味ではなくてぇ!」


 慌てて扇で口元を隠す。


「ショートケーキとか、マカロンとか……そういう可愛らしいものが好物、ですわ」


「そうなのか。では、今度は王都で一番の菓子職人に――」


「だけど、牛さんもお願いします」


「……牛も?」


 しまった。


「い、いえっ! 牛さんは、その……ユーリ王子がお好きなのかなぁって!」


「私は肉よりリリー嬢が好きだな。だけど、お望みとあらば最高の牛肉料理を用意させよう!」


「まあ!!ユーリ王子ったら、お上手〜」


とびきりのぶりっ子笑顔を咲かせるリリー。


しかし、その脳裏にはすでに、こんがり焼けた分厚い牛肉が浮かんでいた。


(……最高の牛さん……)


口元が緩みそうになる。


「リリー嬢?」


「はいっ?」


「なんだか、とても嬉しそうだね」


「そ、そんなことありませんわぁ〜!」


リリーは必死に扇で顔を隠した。


――肉のことを考えているなど、絶対に知られてはいけない。


「それより、前にあげたネックレスは、使ってくれているかな?」


「大切に仕舞ってありますわ。ユーリ王子から頂いたものと思うと勿体無くて、なかなか使えないのですが……」


「そうか、そうか!」


ますます嬉しそうなユーリ王子。


彼は、自らの子犬のような愛嬌と甘いマスクが、令嬢たちからアイドルのような人気を集めていることに、まるで無自覚だった。


その様子を、冷ややかな目で見る令嬢たち。


「……ああ、またやってる」


「ユーリ王子も、完全にリリー嬢の召使いね」


「今日つけてるルビーのブローチも、ソニア公爵に貢がせたって自慢していたわよ」


「よく恥ずかしくないわよね」


そんな声も、リリーには届かない。


いや、届いていても気にしない。


今の彼女の頭の中には、最高級の牛肉しかなかった。


そして、その喧騒を少し離れた場所から静かに眺めている男がいた。


ルシアン王子。


黒髪に縁取られた中性的な美しい顔立ちは、まるで一枚の絵画のようだった。


けれど、その静かで冷たい眼差しと、何を考えているのか分からないミステリアスな雰囲気から、ルシアンは誰もが憧れながらも、気軽には近づけない存在として知られていた。


彼は誰かと談笑するでもなく、ただ周囲を観察している。誰が誰と話しているのか。


何気ない会話の中で、誰が何を隠しているのか。


そんなことを見抜こうとするような、静かな目だった。


やがて、その視線がディアーヌに止まる。


「ディアーヌ嬢」


「まあ、ルシアン殿下」


ディアーヌが完璧な笑顔を向ける。


「こういう場所がお好きですか?」


「ええ、もちろんですわ」


にっこり。文句なしに美しい微笑み。どこから見ても非の打ち所のない公爵令嬢。


しかし――


「……そうは見えませんが」


ディアーヌの笑顔が止まった。ほんの一瞬だった。


「ふふ。殿下は、おもしろいことをおっしゃいますのね」


「そうでしょうか」


ルシアンは穏やかに微笑んだ。

ディアーヌも笑っている。

けれど、その瞳からわずかに警戒の色が消えた。


(……この方、少し危険人物のようね)


今まで、自分の本心をここまであっさり指摘されたことはなかった。


その頃ーー

ディアーヌの少し離れたところでは、リリーが彼女をじっと見ていた。


(……まただわ)


リリーにとって、ディアーヌは気に入らない存在だった。


美しく、頭もよく、仕事もできる。


しかも、男性からいくら誘われても、決してなびかない。


(完璧すぎるのよ。絶対に何か秘密がある!)


リリーはほとんど確信していた。


(今日こそ、本当の姿を暴いてやる!!)


しばらくして、ディアーヌがひとりで会場を出ていく。


「ディアーヌ嬢は〜、休日は引きこもるのがお好きって聞きましたぁ」


リリーがすかさず近づいた。


「意外と根暗? みたいな? リリー、休みの度お出かけするの好きだから、お家だけで楽しめるの、羨ましいです〜」


「そうですわね。リリー嬢のように、誰とでもすぐに仲良くなれるようになりたいものですわ」


「え〜? リリーは普通にしてるんだけど〜。なぜか皆さんお声かけくださるから〜」


「充実しているようで、何よりです。では、私は野暮用があるので」


ディアーヌはすっと立ち去っていく。


(そうはさせないわ!)


リリーは後を追った。


何度か見失いながらも、ようやく見つけたディアーヌは、いつの間にか地味な服装に着替えていた。


リリーは物陰から息を潜める。ディアーヌが古びた建物の前で立ち止まった。


「……一体、何をしてるのかしら?」


そして壁に白鳥のような白くしなやかな手を触れた。


淡い光が走り、何もなかった場所に、一枚の扉が現れた。


「……え?」


扉の向こうには、王都では決して見ることのできない景色が広がっている。


ディアーヌが扉を開き、その向こうへ消えていく。


(これは、一体――!?)


未知への恐怖、よりも好奇心が勝った。


「待って!」


リリーは思わず駆け出していた。

次の瞬間、扉から眩い光が溢れ出す。


「きゃあっ――!」


身体がふわりと浮き、そして――

光が消えた。


「…………」


リリーが目を開ける。


そこには、見たこともない青空と、見たこともない街並みが広がっていた。


隣には、呆然と立ち尽くすディアーヌ。


「……リリー嬢?」


「ディ、ディアーヌ嬢……」


二人は顔を見合わせる。


「……ついてきましたの?」


「はい」


「なぜ?」


リリーは胸を張った。


「秘密を暴くためです!」


「堂々と言うことではありませんわ!」


(また、面倒なことになってしまったようね)

ディアーヌは軽い頭痛を覚え、額に手をあてる。


――こうして。


完璧な令嬢と、彼女を勝手にライバル視する年下令嬢は、グルメ天国ニッポンへと足を踏み入れたのだった。

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