第15話 九十九里浜② 地元の人とお酒と海鮮と
◎九十九里浜の海鮮居酒屋
さて、盛りだくさんの1日の締めくくりはやっぱり「地元の美味しいもの」に限る!!
「と、いうわけで、ここに入るわよ。」
「海鮮焼き?」
「だけじゃなくて、地元の美味しいものがたくさんあるの。」
あまり色褪せたブルーの倉庫のような店構えは、あまり綺麗とは言えない。
しかし、こんな店にこそ美味しいものが隠れていることは、トウキョウの飲み屋街でもよく学んでいる。
【海鮮焼き 浜しょー】
あのタイヘイヨウのような青色の暖簾をくぐると、店内は広く、やたら低いテーブルが並んでいる。
「真衣さん、ここ、椅子はないのですか?」
「あれ、ディアーヌ、座敷はじめて?そっか、1人飲みだとないもんね。」
「ザシキ、というのですね。あのような座り方で食べるのは…」
「抵抗ある?」
「いえ、はじめてで、ワクワクしますっ」
「はは、ディアーヌらしい感想。」
席に着き、メニューを開く。
もちろん、手書きの本日オススメメニューも逃さない。
「ディアーヌ、なんか食べたいのある?」
「ニッポンの牡蠣、食べてみたいです!」
今朝の牡蠣漁師たちの争いを思い出しながら、本日のメニューの岩牡蠣を指さす。
「オーケー。それと海鮮盛りと鰯フライくらいにしよっか、あと、とりあえず生ね!」
すぐに生ビールが届く。
「九十九里浜に〜」
「乾杯、ですわっ」
グビッ!!
(うんま〜〜ッッ)
カラカラの胃にキンキンのビールが染み渡る。
「最高ねっ」
「はい!」
続いて、とんでもない大きさの生の岩牡蠣が運ばれてきた。
「何これ、でかっ」
さすがの真衣も驚くほどの大きさだ。
隣の席で酒盛りしていた漁師グループが、その様子を見て愉快そうに笑う。
「すごいだろう、この岩牡蠣は特別だよ」
「なんせ、幻の牡蠣と言われる天然の茂牡蠣!獲れる漁師もごく限られる最高級の牡蠣なのさ。」
「これが食べられるなんて、姉ちゃんたち、ラッキーだねぇ。圧倒的な大きさだろう?」
「はい!世が世なら、ちょっとしたモンスターです。」
「モンスターって、ディアーヌ、面白いこと言うわね。」
「超真剣ですっ」
いざ、と漁師もイチオシする超特大サイズのレモンを絞ったぷりっぷりの生牡蠣をーー
チュルリ。
口からはみでそうな大きさだ。
「見ろよ、姉ちゃん、あんなちっこい顔して一口で行ったぜ!」
「なかなか見どころがあるなぁ。」
漁師たちが感心している。
牡蠣は口の中で弾けて、いっぱいに海の香りとミルキーでコクのある旨みが広がる。
味わいの余韻も長く、それをビールの波が贅沢に喉へと流し込む。
「こんな牡蠣…はじめての美味しさ。」
と、向かいの真衣も恍惚としている。
「ビール、なくなっちゃったわね。」
「牡蠣の破壊力が想定外で、私としたことが。さすがは幻のモンスター牡蠣です。」
「お姉ちゃんたち、日本酒は飲むのかい?」
「もちろん」「大好きです!」
「それなら、東京なんかでも売れている寒菊って日本酒の地元限定のがあるから、飲んでみたら?女の子にも飲みやすいと思うよ。」
真衣とディアーヌは目を合わせてから、元気よく……
「お願いします!」
と声を揃えた。
「おうよ!すみませーん、この子達に松尾自慢あげて、うちらからでっ」
「あら、よろしいのですか?」
「ったりめーよ!こんな若い子たちが来てくれるだけでも、おっちゃん達、元気もらえるんだからっ」
運ばれてきた「松尾自慢」。
フルーティーでフレッシュで甘みもあるが綺麗な飲み口でスイスイと進む。
華やかなだが海鮮の味を邪魔しない。
先ほどの漁師たちに海老やイカやサザエの焼き方を教わりながら、地酒を飲み進める。
鰯フライも、脂が乗って、サイコーッ!
気がつくとディアーヌも真衣も、すっかり気持ち良く酔っ払っていた。
「こんなにシンプルな料理なのに、こんなに美味しいなんて!」
「松尾自慢」も、気がつくと四合瓶が空になっている。
会計を済ませて店を出ると、ドアのところまで漁師たちが見送りに来てくれた。
「また遊びに来てくれよな!」
「飲みっぷり、惚れ惚れしたぜっ」
真衣と一緒に、旅先のあたたかさを感じながら手を振る。
(漁師さんたちのパワフルさは、どこの港でも通ずるところがありそうね……)
私の国でも、こんな風に漁師同士仲良く手を取り合って酒を酌み交わしていられたら良い。
「良い旅になったわ。ありがとう、ディアーヌ。」
「こちらこそ!運転もありがとうございました。また、近いうちに。」
真衣にも、手を振り、帰路に着く。
(いつか、母国のみんなにも、この美味しさを、あたたかな気持ちを、知ってほしいな。)
きっと、いつの日かーー。




