表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人喰い熊  作者: 斑鳩あおい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/15

第十五章 喰われる血

怪物が動いた瞬間。


山が崩れた。


――ズゴォォォォン!!


木々が薙ぎ倒される。


土砂が吹き上がる。


相沢蓮は咄嗟に横へ飛んだ。


直後。


さっきまで立っていた場所が、巨大な腕に抉り取られる。


腕。


いや、人間の集合体だった。


無数の手が絡まり合い、一つの巨大な腕になっている。


「逃げろぉ!!」


黒木静が叫ぶ。


蓮は真由の手を掴み、斜面を転げるように駆け下りた。


背後では怪物が咆哮している。


――グォォォォォオオ!!


その声に混じって。


無数の人間の笑い声が響いていた。


「アハハハ」


「ミツケタ」


「レンクン」


耳がおかしくなりそうだった。


真由が泣き叫ぶ。


「もう嫌ぁぁ!!」


怪物の腕が伸びる。


異常な長さだった。


グニャリ、と骨を無視して伸縮している。


蓮の背後へ迫る。


その瞬間。


――パン!!


黒木の銃声。


腕が弾け飛ぶ。


黒い液体と人間の指が散乱した。


「走れ!!」


黒木は後ろに残っていた。


怪物へ向かって発砲を続けている。


だが弾丸を受けるたび、怪物の肉は増えていく。


喰った人間たちが、次々浮かび上がってくる。


蓮は絶望した。


「あんなのどうすりゃ……!」


その時。


御堂源兵衛が叫んだ。


「穴へ行け!!」


蓮が振り返る。


老人は血だらけだった。


崩れた岩に脚を挟まれている。


「山の口を閉じるしかない!!」


怪物が源兵衛へ顔を向ける。


無数の顔が笑った。


ニタァ……。


源兵衛は震えながらも、神楽鈴を鳴らした。


――チリン。


その音で怪物が一瞬止まる。


「今だ!!」


蓮は真由を連れて走った。


山の裂け目――“穴”へ。


霧の中。


巨大な穴が口を開けている。


近づくほど寒かった。


空気が腐っている。


そして。


声が聞こえる。


穴の奥から。


何百人もの声。


「助けて」


「寒い」


「帰りたい」


「お母さん」


全部、喰われた人間たちの声だった。


真由が耳を塞ぐ。


「やだ……聞こえる……」


蓮も頭痛で吐きそうになる。


だが。


その中に、祖父の声が混じっていた。


「蓮」


蓮は立ち止まる。


穴の内側。


壁に、無数の人間が埋まっていた。


その中央。


相沢源蔵がいた。


半分肉へ溶け込みながら、蓮を見ている。


「じいちゃん……」


祖父は苦しそうに笑った。


「すまなかった」


蓮の目に涙が浮かぶ。


「どういうことだよ……」


祖父の顔が歪む。


「志乃を……助けられなかった」


その瞬間。


穴の奥から巨大な“目”が開いた。


ギョロリ。


蓮を見た。


頭の中へ声が流れ込む。



カエセ


ツヅキヲヨコセ


チヲヨコセ



蓮の身体が震える。


祖父が叫ぶ。


「聞くな!!」


だが遅かった。


蓮の腕に、黒い筋が浮かび始める。


血管だった。


まるで何かが皮膚の下を這っている。


真由が悲鳴を上げる。


「蓮!! 腕!!」


黒い筋はどんどん広がっていく。


熱い。


焼けるみたいだ。


すると。


穴の奥から、無数の腕が伸びてきた。


蓮を掴もうとする。


祖父が絶叫する。


「まだ喰われるなァァ!!」


その瞬間。


背後で轟音が響いた。


怪物が来た。


巨大な肉塊が、山を崩しながら穴へ迫っていた。


その胸の中央で。


無数の顔が笑っていた。


そして全員同時に叫ぶ。


「カエッテキタ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ