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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第三章 帰る者

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47.出るための条件

閲覧盤で見た光の線は、思っていたよりずっと不完全だった。


 保全区画へ戻ってからも、奏真は頭の中で何度もその地図をなぞっていた。右へ折れて、崩落した橋を越えて、深層管理域の外縁を通って、制御核へ。


 行ける。

 でも楽じゃない。


 それは見ただけでわかった。


「……結局、深部まで行くのは確定か」


 ぼそっと言うと、ノアが横から返す。


『はい』

「お前、こういう時だけ返事が速いよな」

『明確な情報だからです』

「都合いいな、その理屈」


 保全区画の青い光は相変わらず静かだった。

 セレスは台の端に座って、両手で器を持ちながら少しずつ水を飲んでいる。昨日より顔色はよくなっていたが、それでもまだ無理をさせていい状態じゃないのは見てわかった。


 奏真はその様子をちらっと見てから、ノアへ向き直る。


「確認するぞ。制御核を起こせば、上層移動路は動くんだな」

『はい。ただし、完全起動ではなく、限定稼働になる可能性が高いです』

「限定って」

『使用回数、距離、通過人数、いずれかに制限がかかる可能性があります』


 奏真は眉をひそめた。


「つまり、一回で全部うまくいく保証はないってことか」

『はい』

「面倒だな」

『事実です』

「はいはい」


 もうこの返しにも慣れてきた。


 けれど、面倒だからといって他に道があるわけじゃない。

 奈落の底で文句を言っても、出口は増えない。


「で、その制御核は俺じゃないと起こせない」

『高確率で』

「“高確率”か」

『現時点で確認できる限り、最も適合率が高いのはあなたです』


 その言葉を聞きながら、奏真は胸の奥を意識する。


 《奪還の王》。


 地上にいた頃は、得体の知れない禁忌スキルみたいな扱いだった。

 けれど奈落に落ちてからは、その意味が少しずつ見え始めている。


 奪われた流れを返す力。

 歪められたものを正しい形へ戻す力。


 古代施設と相性がいいのも、たぶんそのせいだ。


「……俺の力、ほんと何なんだろうな」


 ぽつりとこぼすと、セレスがそっと顔を上げた。


「奏真の力は、戻す力」

「雑に言うとそうなんだけどな」

「でも、大事」

「大事、ね」


 セレスは静かにうなずいた。


「壊すのと、戻すのは違う」

「……それはそうだな」


 その一言が妙に胸に残る。


 壊すのは簡単だ。

 少なくとも、戻すよりは簡単だ。


 でも奏真の力は、壊すためのものじゃない。

 封じられたセレスを前にした時、それがはっきりわかった。


 返す。

 ほどく。

 本来の形へ戻す。


 それが自分の力だ。


「ノア。制御核を動かす条件、他には?」

『制御核に到達し、外部上書きの有無を確認し、必要であれば解除。続いて主系統への接続、起動許可の取得です』

「……一回で言いきるな」

『短くすると』

「もっと長くなりそうだからそのままでいい」


 奏真は額を押さえた。


「つまり、行ってみないとわからない部分もあるってことだな」

『はい』

「うん、それだけわかれば十分だ」


 その時、セレスが器を置いて口を開いた。


「ひとつ、気になる」

「ん?」


「もし核が、今の王国とか教会のやり方に近い形でいじられてたら」

「……ああ」

「起こすだけじゃだめかもしれない」


 奏真とノアの視線が同時に向く。


 ノアが静かに答えた。


『可能性はあります』

「だよな」


 奏真は小さく息を吐いた。


 奈落の古代施設は“本来の形”に近い。

 けれど地上で使われているものは、王国や教会にとって都合のいい形へ変えられている。


 もしこの制御核にも同じような手が入っていたら、ただ起動するだけじゃ足りない。


「……返さないといけない、か」

『その可能性は高いです』

「俺向きだな」

『はい』

「そこは迷わないのかよ」

『迷う要素が少ないためです』


 セレスが、ほんの少しだけ口元をゆるめる。


「奏真がやるなら、大丈夫」

「いや、信頼が急すぎるんだよ」

「助けてくれた」

「それはそうだけど」

「名前も呼んでくれた」

「理由が重いんだって」


 セレスは首をかしげた。


「重い?」

「……いや、お前はそのままでいい」

『依存傾向』

「ノア、お前は今ほんと黙れ」


 また少しだけ笑いが落ちた。


 重い話をしているはずなのに、不思議と空気は固くなりすぎなかった。

 それはたぶん、この三人の形が少しずつでき始めているからだ。


 奏真は立ち上がる。


「方針は決まった」

「行くの?」

「ああ。もちろん、すぐに飛び出すわけじゃない。装備と、回復できるだけしてからだ」

『妥当です』

「便利だな、その言葉」

『事実です』

「もういいって」


 奏真は腰の武器を確かめ、壁際に置いていた小さな荷物を見た。


 魔石。

 乾燥菌糸。

 水。

 布。

 奈落で拾い集めてきた、生き残るための材料。


 地上なら笑われるような荷物かもしれない。

 でも今の自分には、どれも大事なものだった。


「奈落を出る」


 声に出して言うと、その言葉の形が前よりはっきりした気がした。


 戻るため。

 生き残るため。

 それもある。


 でもそれだけじゃない。


 自分が何を奪われたのか、まだ全部は見えていない。

 けれど少なくとも、返させなきゃいけない相手がいるのは確かだった。


「そのための道、まずはこじ開ける」


 ノアが短くうなずく。


『了解しました』


 セレスも静かに、でもはっきりとうなずいた。


「行こう」


 まだ弱っているくせに、そう言う声だけはまっすぐだった。


 奏真は少しだけ苦笑して、それから部屋の外へ視線を向ける。


 奈落の道は相変わらず暗い。

 でも前より、ちゃんと進む意味が見えていた。

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