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信じていた仲間に処分された俺、禁忌スキル《奪還の王》で最強になる ~奪われた力も居場所も、今度は全部取り戻す~  作者: 夜天 颯
第三章 帰る者

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45.目を覚ました朝

目が覚めた時、最初に見えたのは青白い光だった。

 奈落の底にある、静かな光。

 朝日みたいなあたたかさはない。けど、目を刺すような冷たさもない。ただ淡く、部屋の中を静かに照らしている。

「……朝、ではないよな」

 ぼそっとつぶやいて、奏真はゆっくり上半身を起こした。

 体はまだ痛い。

 右腕の傷も、脇腹の鈍い痛みも、背中の重さも消えていない。でも、奈落に落ちた直後みたいな“ちょっと動いたら死ぬ”感じはもうなかった。

 少なくとも、今日は立てる。

 その実感だけで少し息がしやすくなる。

『覚醒を確認しました』

 部屋の中央から、いつもの淡々とした声が飛んできた。

 奏真はそちらを向く。

 青い光柱のそばに、ノアが立っていた。相変わらず姿勢がいい。無駄な動きがひとつもなくて、見慣れてきたはずなのにまだちょっと人間味が薄い。

「お前、その言い方しかできないのか」

『改善努力中です』

「成果が見えないな」

『主観差があります』

「そこだけ返しが妙に早いな……」

 寝起きの頭でそんなやり取りをしてから、奏真は部屋の奥へ目を向けた。

 台の上に、セレスがいる。

 昨日――いや、この奈落じゃ時間の感覚があやふやだ。とにかく、ついさっきまで封じられていた少女は、今は保全区画の台の上で静かに眠っていた。

 長い髪が青白い光を受けて、白に近い銀色に見える。

 顔色はまだ薄い。でも、解放した直後よりはましだった。呼吸も落ち着いている。

「……よかった」

 自然とそう言っていた。

『生命活動は安定方向です』

「そういう時だけ、ちょっと安心する言い方するよな」

『安心を目的とはしていません』

「だろうな」

 奏真は台から足を下ろし、立ち上がる。

 肩を回してみる。右腕を少し持ち上げる。脇腹に手を当てて、どのくらい動けるか確かめる。そうすると、ほとんど反射みたいにアリシスが反応した。

 全身疲労:中。

 右上腕部損傷:安定。

 脇腹打撲:回復傾向。

 本日行動可能。

「……ほんと便利になったな」

 前はこの表示みたいな情報が出るたびに気味が悪かった。今でもたまにぞわっとはする。でも、助かっているのも事実だ。

 毒のある水。

 食えるもの。

 魔物の弱点。

 足場の危険。

 アリシスがなかったら、奈落の底で自分はとっくに終わっていたと思う。

「ノア」

『はい』

「セレスの様子は?」

 ノアはすぐに視線を台の上へ向けた。

『外傷なし。内部循環は低下していましたが、保全補助により回復傾向です。急激な行動は非推しょう』

「急激な行動って、走ったり戦ったりか」

『はい』

「今のあいつがそんなことしたら、俺でも止める」

 言ってから、少しだけ笑う。

 変な感じだった。

 奈落の底で、昨日まで知らなかった相手の心配を当たり前みたいにしている自分が。

 でも、助けた以上は放っておけない。

 それだけだ。

「……で、今日はどうする」

『確認します。質問の意図は“本日の行動方針”で正しいですか』

「そういうとこだけ無駄に丁寧なんだよ」

 奏真は壁に軽くもたれた。

「奈落を出る方法を探す。それが一番先だ」

『妥当です』

「最近それ好きだな」

『高頻度で妥当なためです』

「言い切るなあ……」

 ノアは気にした様子もなく続ける。

『現時点で可能性が高いのは、上層移動路の再起動です』

「前に言ってたやつか」

『はい。深部制御核との接続が必要です』

「つまり、もう一回深く行く必要がある」

『はい』

 短い。

 でも十分だった。

 奈落を出る道は勝手には開かない。

 誰かが用意してくれるわけでもない。

 だったら、自分たちで見つけて開くしかない。

 その単純さが、今の奏真にはむしろありがたかった。

 神崎のことはまだわからない。

 王国や教会のことも、まだ全部は見えていない。

 でも、“今やるべきこと”だけはちゃんと見えている。

「……よし」

 そう口にした時、背後で布のこすれるような音がした。

 振り返ると、セレスがゆっくり上半身を起こしかけていた。けど、まだ力が入らないらしい。途中でふらつく。

「おい、無理すんな」

 奏真はあわてて近づいて肩を支えた。

 近い。

 やっぱり細い。

 そしてまだ少し冷たい。

 でも、解放した直後の“壊れそうな薄さ”とは違う。ちゃんと、生きている体温になっていた。

「……起きた」

「見ればわかる」

「奏真、いる」

「いるよ。勝手に消えたりしないって昨日も言っただろ」

「うん」

 まだ少しかすれた声だった。

 けど、その返事だけで妙に安心する。

「気分は」

「少しまし」

「それはよかった」

「でも、まだふわふわする」

「だろうな」

 セレスは奏真の腕を軽くつかんだまま、部屋の中を見回した。

 青い光。白い壁。ノア。

 それから、また奏真へ戻る。

「静か」

「保全区画だからな」

「……安全?」

「比較的、って感じだ」

『現時点では安全度、高です』

 ノアが横から答える。

 セレスはほんの少しだけ首をかしげた。

「“高”なら安全なの?」

「お前、それを真顔で言うのか」

『奈落基準では安全です』

「その基準が怖いんだよ」

『事実です』

「またそれか」

 セレスが小さく息を漏らした。

 笑ったのだと気づいて、奏真は少しだけ目を丸くする。

「……笑うんだな」

「笑う、よ」

「いや、そういう意味じゃなくて」

「変だった?」

「変じゃない。むしろ……その、よかったって意味だ」

 セレスは少しだけ目を細めた。

「うん」

 短い返事なのに、それだけで部屋の空気が少しやわらぐ。

 奏真はセレスを無理のない姿勢で座らせ、自分はその前にしゃがみこんだ。

「聞きたいことがある」

「あると思った」

「そういう返し、ちゃんとできるんだな」

「少しだけ元気」

「それはいいことだ」

 セレスはこくりとうなずく。

「何?」

「奈落を出る道について、お前、何か覚えてるか」

 その問いに、セレスは少しだけ黙った。

 目を閉じて、呼吸を整える。

「……少しだけ」

「少しでいい」

 横でノアも静かに耳を傾けている。

「ここ、下のほう。もっと上に……流れをつなぐ道がある」

「上層移動路か」

『一致率、高』

 ノアがすぐに言う。

 セレスは続けた。

「でも、そのままじゃ動かない。深いところにある核が、眠ったままだから」

「制御核、か」

「たぶん……奏真なら触れる」

「俺なら?」

「あなたの力、ここに合ってるから」

 その言葉は、ノアが前に言っていたことと重なった。

 本来の主候補。

 古代施設との相性。

 《奪還の王》との接続。

 全部はわからない。

 でも少なくとも、この道を開ける可能性が一番高いのは自分らしい。

「つまり、深部制御核まで行って、上層移動路を起こす」

『現時点で最適解です』

「わかりやすくて助かるな」

 奏真はゆっくり立ち上がった。

 目的がはっきりすると、不思議なくらい頭が軽くなる。

 神崎のこと。地上のこと。王国と教会のこと。まだ見えないものは多い。でも、そのために今何をすべきかは見えていた。

「今日から準備する」

 そう言うと、セレスがすぐに顔を上げた。

「今日から」

「ああ。お前はまだ無理するな」

「行く」

「いや、そこは即答するな」

「行く」

「重ねるなって」

 セレスはじっと奏真を見つめる。

「置いていかれるの、嫌」

「……」

 一瞬、言葉が止まる。

 それはただのわがままじゃない。

 長い時間、ほんとうに置き去りにされてきた人間の言葉だ。

 そう思うと、強くは言えなかった。

「……無理はさせない」

「うん」

「でも来るなら、自分の状態はちゃんと見ろ」

「見る」

「たぶん、その“見る”の意味が俺と違うな」

『補助します』

「お前は当然みたいに入ってくるな」

 少しだけ間があいて、それからまた静かになる。

 その静けさの中で、奏真ははっきり感じていた。

 もう、自分は一人じゃない。

 奈落に落とされた時は、本当に何もなかった。

 でも今は違う。ノアがいる。セレスがいる。そして、自分の進む理由もある。

「……行ける気がしてきた」

 ぽつりとこぼれた言葉に、ノアが答える。

『可能性は上昇しています』

「最近ちょっと言い方が丸くなったな」

『改善努力中です』

「成果出てるじゃないか」

『主観差があります』

「またそれか」

 セレスがまた小さく笑う。

 その笑い声を聞きながら、奏真は部屋の入口へ目を向けた。

 奈落の道はまだ暗い。

 危険も多い。

 でも、進む理由は前よりずっとはっきりしていた。

 落とされたままで終わる気はない。

 見捨てられたまま終わる気もない。

 だから進む。

 奏真はゆっくり息を吸ってから、二人を見た。

「行くぞ。奈落を出る道、見つけに」

 ノアが短くうなずく。

『了解しました』

 セレスも、まだ弱い体のまま、それでもはっきりとうなずいた。

「うん」

 それだけで十分だった。

 奈落の底にある青い光の中で、三人の向く先が初めて同じ形になった気がした。

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