第98話 最低ライン
「本日より」
その声は、冷たく響いた。
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港の中央。
外洋帝国の監査官。
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「最低取引量を設定する」
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ざわめき。
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「基準未満の取引は無効」
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沈黙。
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それはつまり――
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「小さい取引は全部止める」
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誰かが呟いた。
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一瞬で理解が広がる。
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極小分散。
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それを
殺すルール。
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「ふざけるな!」
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叫び。
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「これじゃ何もできない!」
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監査官は動じない。
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「安全のためだ」
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ただそれだけ。
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港。
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小さな取引が消える。
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「この契約、無効」
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「基準未満」
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帳簿が閉じられる。
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また一つ。
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また一つ。
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流れが止まる。
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分散連合本部。
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ユーリが叫ぶ。
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「全部引っかかります!」
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「極小分散、成立不能!」
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マルクが机を叩く。
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「完全に潰しに来たな」
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リゼットが言う。
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「ルールで殺す」
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アーネストは窓を見る。
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さっきまで動いていた流れが、
また消えていく。
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「……止まる」
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ユーリが呟く。
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「全部」
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沈黙。
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リゼットが言う。
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「どうする」
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もう迷いはない声。
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アーネストは答えない。
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ただ考える。
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速さでは勝てない。
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力でも勝てない。
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なら。
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「……重ねる」
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ユーリが顔を上げる。
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「え?」
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「同時に出す」
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「別の場所で」
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沈黙。
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マルクが言う。
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「分割してもダメだ」
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「最低ラインに届かない」
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アーネストは首を振る。
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「一つにするんじゃない」
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「同時に出す」
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ユーリの目が変わる。
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「……並列?」
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アーネストは頷く。
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「複数の小口を」
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「同時に通す」
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「まとめて一つとして扱わせる」
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沈黙。
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リゼットが呟く。
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「錯覚させる…?」
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「違う」
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アーネストは言う。
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「構造を利用する」
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港。
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試験。
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複数の小取引。
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同時に提出。
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帳簿が並ぶ。
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監査官が見る。
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止まる。
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「……これは」
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複数だ。
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だが同時。
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分けるべきか。
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一つとみなすべきか。
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判断が遅れる。
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「……通せ」
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一瞬の判断。
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成立。
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沈黙。
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「通った…」
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ユーリが息を呑む。
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一つではない。
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複数。
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だが
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同時。
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「これなら…」
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マルクが笑う。
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「いけるな」
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リゼットが言う。
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「抜け穴じゃない」
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「ルールの隙間」
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アーネストは言う。
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「分散は隙間で生きる」
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港。
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同じ現象が増える。
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同時提出。
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同時成立。
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流れが戻る。
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小さく。
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だが確実に。
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ユーリが言う。
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「耐えてます」
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マルクが頷く。
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「完全には止められない」
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リゼットがアーネストを見る。
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「やるわ」
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沈黙。
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「最後まで」
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完全な決断。
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アーネストは頷く。
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「頼む」
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その瞬間。
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ユーリが凍る。
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「……まずい」
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全員が振り向く。
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「外洋が」
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「基準をさらに上げます」
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沈黙。
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限界が近づく。
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ルールは
さらに締め付ける。
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港の空気が
また変わる。
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分散は
まだ生きている。
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だが
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押し潰される寸前だった。
ここでついに「ルールで潰す」という外洋の本気が見えました。
そして分散は、その隙間で生き延びる形に変わりつつあります。
ただし、この戦いはまだ序盤ではなく終盤です。
ここからは一つの選択がすべてを決める段階に入ります。
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次話、分散はこの圧力を超えられるのか、それとも限界に達するのか。




