第83話 国家の帰還
王都は静かだった。
かつて混乱と暴落に揺れた金融街は、
今は異様なほど整然としている。
石畳の上を行き交う人々。
規律正しく並ぶ銀行。
掲示板には、統一された価格表。
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国家銀行。
重厚な扉の奥で、
数人の官僚が円卓を囲んでいた。
「確認する」
年老いた総裁が言う。
「世界市場が開いた」
誰も否定しない。
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「分散連合」
「外洋帝国」
「砂漠商業国家」
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三つの外部勢力。
そして
「我々」
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沈黙。
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若い官僚が言う。
「信用証は広がっています」
「だが統一性がない」
別の官僚。
「金本位は安定しているが拡張性に欠ける」
さらに別の声。
「軍事保証は強いが、従属を伴う」
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総裁はゆっくり頷く。
「では国家は何を出す?」
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沈黙。
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一人の女性が口を開く。
「国家は、継続を保証できます」
全員が彼女を見る。
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「税」
「法律」
「徴収能力」
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「国家だけが持つものです」
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総裁は目を細める。
「つまり?」
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彼女は答える。
「未来の信用です」
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数日後。
港に新しい紙幣が流れ始めた。
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「国家保証通貨」
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それは金ではない。
軍事でもない。
信用でもない。
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「国家の継続性」
それ自体を担保にした通貨。
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港の商人たちがざわめく。
「これは何だ?」
「税で保証される?」
「つまり国家が続く限り価値がある?」
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外洋使節館。
カタリナが報告書を読む。
「国家通貨、再設計」
エリオットが言う。
「来たか」
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「中央でも分散でもない」
カタリナは言う。
「国家そのもの」
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エリオットは笑う。
「一番しぶとい」
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分散連合本部。
ユーリが報告を持ち込む。
「王国、新通貨発行」
アーネストは静かに読む。
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「国家保証」
彼は呟く。
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リゼットが言う。
「国家が戻ってきた」
マルクが続く。
「これで四つか」
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信用。
金。
軍事。
国家。
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アーネストは窓の外を見る。
港にはすべての通貨が混在している。
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小さな取引は信用。
長距離は金。
海上は軍事。
税関連は国家。
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市場は使い分け始めている。
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ユーリが言う。
「どれが勝つのでしょう」
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アーネストは首を振る。
「勝たない」
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「共存する」
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リゼットが笑う。
「甘いわね」
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「いや」
アーネストは言う。
「問題はそこじゃない」
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彼は机に四つの通貨を書き出す。
信用。
金。
軍事。
国家。
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「問題は」
彼は言う。
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「この四つが同時に崩れたらどうなるか」
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沈黙。
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マルクが呟く。
「そんなことは――」
言い切れない。
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世界は繋がっている。
通貨も繋がる。
信用も連鎖する。
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ユーリが小さく言う。
「それが起きたら」
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アーネストは答える。
「世界が止まる」
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窓の外。
港は活気に満ちている。
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だがその下で
すべての制度が
同じ市場に絡み始めていた。
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競争は激化する。
そして
繋がりは深くなる。
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それは
繁栄の前兆か
崩壊の前兆か
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まだ誰にも分からない。
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ただ一つ確かなのは
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世界はもう
一つの制度では動かないということだった。
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