第80話 世界市場
港の朝は、以前より騒がしかった。
分散連合の再設計から一ヶ月。
小さな商船が増えていた。
山岳の鉱石。
平原の穀物。
沿岸の塩と布。
以前は中央港を通らなければ動かなかった貨物が、
今は直接やり取りされている。
決済は分割保証。
小さな信用。
小さな担保。
だが回転は速い。
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ユーリが報告書を机に置く。
「取引量、先月比で三割増です」
アーネストは目を通す。
「大口は?」
「微増」
「小口は?」
「倍増です」
アーネストは頷いた。
「予想通りだ」
軽い制度は、
小さな取引を増やす。
小さな取引は、
市場を広げる。
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窓の外。
港には見慣れない船が停泊していた。
「新しい商人です」
ユーリが言う。
「どこの?」
「砂漠圏」
アーネストの手が止まる。
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会議室。
連合代表たちが集まっている。
マルクが言う。
「最近、金貨で決済を求める商人が増えている」
リゼットが眉をひそめる。
「信用証を嫌っている?」
「嫌っているわけではない」
マルクは答える。
「だが金は単純だ」
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その時、扉が開く。
見慣れない男が入ってくる。
背が高く、
砂色の外套を着ている。
護衛はいない。
堂々とした歩き方。
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「招待ありがとう」
男は言う。
「私はレオン・アルタイル」
ざわめきが起こる。
砂漠商業国家の金融王。
噂の人物。
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レオンは机に金貨を一枚置いた。
重い音。
「信用は便利だ」
彼は言う。
「だが信用は壊れる」
沈黙。
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「金は壊れない」
リゼットが言う。
「金は増えない」
レオンは笑う。
「だから信用が必要だ」
彼は周囲を見回す。
「だが信用は信用を必要とする」
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レオンはアーネストを見る。
「君が作った制度は面白い」
「軽い」
「速い」
「だが」
彼は金貨を指で弾く。
澄んだ音が響く。
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「世界市場はもっと重い」
沈黙。
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ユーリが小さく呟く。
「世界市場?」
レオンは頷く。
「信用は地域で成立する」
「だが貿易は世界で動く」
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彼は窓の外の港を指す。
そこには
外洋帝国の船
連合の船
そして
砂漠国家の船。
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「市場は広がっている」
レオンは言う。
「君たちが思っているよりも」
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アーネストは静かに聞く。
「何を提案する?」
レオンは微笑む。
「提案ではない」
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彼は言う。
「競争だ」
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信用証。
軍事保証証。
国家通貨。
そして
金貨。
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四つの制度が
同じ市場で動き始める。
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レオンは椅子に座る。
「面白い時代だ」
「中央が一つではない」
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外洋帝国の船が港に揺れ、
分散連合の商船が出港する。
そして
砂漠国家の金貨が
市場へ流れ始める。
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世界は
三つの秩序から
四つの秩序へ変わろうとしていた。
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アーネストは窓の外を見る。
分散は完成していない。
だが世界は
もう地域の話ではない。
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市場は
世界へ広がる。
そして
新しい戦いが始まる。
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