第78話 継承
朝の港は静かだった。
夜の灯が消え、
灰色の海がゆっくりと明るくなっていく。
外洋帝国の船はまだ停泊している。
だが動きはない。
撤退でも、
圧力でもない。
ただ見ている。
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アーネストは桟橋に立っていた。
潮の匂いが薄く漂う。
港の向こうでは、
連合の商船がゆっくりと出港していく。
再設計された決済網は、
まだ完全ではない。
それでも動いている。
それだけで十分だった。
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背後から足音。
振り向く前に分かる。
「早いですね」
レティシアだった。
灰色の外套。
いつも通り静かな目。
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「眠れませんでした」
アーネストは言う。
「制度が動き出すと、気になります」
レティシアは海を見る。
「中央の人間ですね」
「もう違います」
彼は苦笑する。
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しばらく二人は黙って海を見ていた。
船の帆が朝の光を受ける。
「僅差でした」
アーネストが言う。
「ええ」
「分散は支持されていない」
レティシアは首を振る。
「支持される必要はありません」
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「中央は安心を売る」
彼女は続ける。
「分散は選択を残す」
「安心の方が人気です」
アーネストが言う。
「もちろん」
レティシアは笑う。
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「ではなぜ分散を?」
アーネストは聞く。
レティシアは少し考えた。
「中央は正しい」
彼女は言う。
「だが正しすぎる」
沈黙。
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「正しい制度は、反対を許さない」
「間違った制度は、修正できる」
アーネストはゆっくり理解する。
中央は完成する。
分散は完成しない。
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「だから空席を残した」
アーネストが言う。
レティシアは頷く。
「中央を作らないために」
「そして」
彼は続ける。
「私も戻らない」
レティシアは静かに笑った。
「ようやく分かりましたか」
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港の鐘が鳴る。
朝の取引開始。
市場が目を覚ます。
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ユーリが走ってくる。
「報告です」
息を整えながら言う。
「再設計決済網、最初の大口取引成功」
「価格安定」
「信用証、上昇」
アーネストは頷く。
「よかった」
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ユーリが少し戸惑う。
「……驚かないんですね」
「市場は時間がかかる」
アーネストは答える。
「分散も同じだ」
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ユーリは笑った。
「あなた、変わりました」
「失敗したからだ」
アーネストは言う。
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遠くの海に外洋船が見える。
動かない。
ただ見ている。
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レティシアが言う。
「敵は消えません」
「分かっています」
「中央はいつでも戻る」
アーネストは頷く。
「だから制度を軽くする」
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風が港を吹き抜ける。
朝の光が水面に広がる。
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レティシアはゆっくり歩き出す。
「もう大丈夫ですね」
振り返らずに言う。
「まだです」
アーネストは答える。
「分散は完成しません」
レティシアは止まらない。
ただ小さく言う。
「それが成功です」
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彼女の姿は港の人波に消える。
アーネストは海を見る。
市場が動き出す。
船が出る。
取引が始まる。
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中央は作られなかった。
分散は完成しない。
だが動き続ける。
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世界はまだ決まっていない。
だから選び続ける。
それが、
分散連合の未来だった。
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