第61話 山の冷気
山岳都市セディアンは、静かだった。
外洋帝国の旗が、港に翻っている。
軍艦は整然と並び、
信用保証の紋章が掲げられていた。
「……思ったより穏やかですね」
補佐官が呟く。
「保証は安心を生む」
アーネストは答える。
市場は安定していた。
外洋保証信用の価格は安定。
流通は回復。
物資は動いている。
数字だけ見れば、成功だ。
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議場でマルクと対面する。
「あなたの規則は正しかった」
マルクは静かに言った。
「だが我々は待てなかった」
「基準は守られるべきです」
アーネストは返す。
「守れば救われますか?」
沈黙。
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港。
外洋帝国金融大使エリオット・グレイヴが現れる。
「安定は、選ばれるものです」
柔らかい声。
「あなた方は自由を与える」
「我々は保証を与える」
「違いは?」
「速度です」
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軍港契約書が提示される。
・沿岸警備権の一部譲渡
・関税統一
・外洋軍事顧問常駐
「これは主権の譲渡だ」
アーネストが言う。
「安全の対価です」
エリオットは微笑む。
「あなた方は、痛みを受け入れろと言った」
「我々は、痛みを取り除く」
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夜。
街は落ち着いている。
だが山岳商人の一人が言う。
「保証は安心だ」
「だが港の税が上がった」
「軍の物資が優先される」
小さな違和感。
まだ不満にはならない。
だが静かに積もる。
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帰路。
山道の中腹に、小さな茶屋があった。
「……珍しい」
補佐官が言う。
中には一人の女性が座っている。
灰色の外套。
静かな目。
アーネストは足を止める。
「調停官」
レティシアは、湯呑を置いた。
「視察ですか」
「はい」
「数字は安定していましたか」
「……はい」
沈黙。
彼は問いを投げる。
「中央は、なぜ選ばれるのですか」
レティシアは、しばらく考えた。
「安心は、恐怖より速いから」
「分散は遅い」
「ええ」
「では、負けます」
彼女は小さく笑う。
「分散は、勝つための思想ではありません」
彼は息を詰める。
「では何のために」
彼女は答えない。
ただ言う。
「あなたは、何を守りたいのですか」
沈黙。
彼は即答できない。
管理か。
効率か。
秩序か。
それとも――
人か。
風が山を吹き抜ける。
レティシアは立ち上がる。
「中央は強い」
「ですが」
彼女は一度だけ振り返る。
「強いものは、必ず重くなります」
そう言って去った。
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山岳港に、外洋軍の旗が翻る。
市場は安定している。
だがアーネストの胸に、
初めて疑問が残った。
分散は負けた。
だが――
何に負けたのか。
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