第49話 信用の増殖
報告は、軽い調子だった。
「南東諸侯連合が、“信用証”制度を導入」
ユーリは資料を差し出す。
「名称は違いますが、仕組みは類似」
私は、紙を受け取る。
利便性、即時決済、準備金制度。
だが担保率は低い。
「模倣ですね」
「ええ」
「準備高は?」
「非公開」
沈黙。
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ヴァルハイムからも通信が入る。
「類似制度が、沿岸都市で拡大」
エレナの声は落ち着いている。
「信用圏と連携は?」
「ありません」
「監査は?」
「なし」
私は、目を閉じる。
(早すぎる)
信用は、制度だけではない。
運用と透明性が本体だ。
だが外から見れば、形は同じに見える。
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市場は混乱し始める。
「どれが本物だ?」
「利回りが高い方に移すか」
粗い証書が出回る。
「南東信用証は五%上乗せだ」
「担保は?」
「問題ないと言っている」
言葉だけが軽くなる。
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清算機構。
カイル・ヴァレントが、前のめりに言う。
「これは機会です」
「機会?」
私は、静かに問う。
「信用圏を“基準”として統一すべきです」
彼は続ける。
「公式認証制度を設け、
他国証書を格付けする」
ユーリが眉をひそめる。
「中央機関になります」
「なります」
カイルは即答した。
「市場は基準を求めている」
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私は、しばらく黙った。
信用圏は、分散のために作った。
だが今、
他国の粗悪な制度が
信用という言葉を安くしている。
「放置すれば、巻き込まれる」
カイルの声は正しい。
「介入すれば、中心になる」
私も、正しい。
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数日後。
南東信用証の一部が、
支払い不能に陥る。
担保不足。
市場はざわめく。
「信用証書は危険だ」
「どれも同じでは?」
信用圏の証書まで、
一時的に売られる。
流通量、三%減。
ユーリの報告が静かに響く。
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夜。
私は、机に肘をつく。
(増殖は、劣化を伴う)
信用は、模倣される。
だが思想は模倣されない。
カイルは、拡張を望む。
市場は、基準を求める。
国家は、様子を見ている。
もし信用圏が基準になれば、
それは新しい中央だ。
私は、窓の外を見る。
遠くで灯りが揺れている。
信用は、増えている。
だが質は、揺らいでいる。
「……まだ、決めない」
世界は再び、
選択の前に立っていた。




