第37話 為替という壁
通達は、静かに世界を区切った。
【王都財務省令】
【王都通貨と非公認証書の交換制限について】
内容は簡潔だった。
信用証書を含む「非国家発行証票」との
直接交換を禁止する。
違反した両替商は、営業停止。
「……為替を、止めましたね」
ユーリの声は低い。
私は、通達文を最後まで読み、机に置いた。
「ええ」
「実質的に、国際取引から締め出すつもりです」
「王都経由の取引だけは、です」
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市場は、すぐに反応した。
「交換できない?」
「王都通貨が必要な取引はどうする」
両替商の窓口には列ができる。
不安は、数字よりも速い。
フェリクス・ノートンが、珍しく険しい顔をしていた。
「これは効く」
「短期的には」
私は、訂正する。
「信用証書は通貨ではありません」
「交換を前提にしていない」
「だが、心理が揺れる」
「ええ」
そこが狙いだ。
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王都。
中央銀行総裁ダミアン・ロストフは、
静かに資料を閉じた。
「市場は、通貨を必要とする」
彼は、側近に言う。
「信用だけでは、越境決済はできない」
「信用圏は、どう出ますか」
「二択だ」
ダミアンは、淡々と答える。
「王都通貨に従属するか」
「実体を示すか」
彼は、窓の外を見た。
「理想は、必ず現実に問われる」
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辺境伯領。
緊急会議が開かれる。
「越境取引の決済が、止まる可能性があります」
ユーリが説明する。
「港湾国家は王都通貨を一部使用しています」
「止まりません」
私は、即答した。
全員がこちらを見る。
「信用証書は、交換のためにあるのではない」
私は、地図を広げる。
「取引を完結させるためにある」
「ですが、最終的な清算は?」
「物で清算します」
沈黙。
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「穀物、鉱石、海運権」
私は、一つずつ指を置く。
「信用証書を、実物資源と紐付けます」
フェリクスが、目を細めた。
「……準備していたな」
「想定していました」
王都は必ず、通貨で殴ってくる。
だからこちらは、通貨で戦わない。
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「為替を止められても」
私は、静かに言う。
「取引は止まりません」
「なぜです」
ユーリが、息を詰めて問う。
「我々は、王都通貨を必要としていないからです」
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王都。
「……交換が、思ったほど止まっていません」
側近の報告に、ダミアンは眉を動かさなかった。
「理由は?」
「実物決済に移行しているようです」
沈黙。
「……資源裏付けか」
彼は、初めて小さく笑った。
「本気だな」
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夜。
私は、帳簿に新しい項目を加える。
【資源準備高】
数字は、まだ小さい。
だが確実に存在する。
為替は、壁だ。
だが壁は、通貨の内側にある。
信用は、外側を歩く。
私は、ペンを置いた。
「為替戦、開始」
これは、反逆ではない。
これは――
通貨の戦争だ。




