土曜祭
アークシィ家にお世話になっているアズサです。
朝はリュイくんたちにパンをご馳走しようと、キッチンをお借りして召喚本を開いています。
料理せんのかいと思われそうだが、これがMPも消費でき、味も美味しいと一石二鳥なのだ。
決して料理ができないわけではない。……決してだ。
惣菜パンとよばれる卵サンドやコーンマヨパン、ソーセージパン、焼きそばパンなどを召喚した。
やはり男の子だもの、朝からガツンと食べた方がいいとの私の思いだ。
レミさんには消化し辛いだろうと思ったので、おかゆを召喚しておいた。
テーブルに出した瞬間、様々なパンにロイくんは目を輝かせながら席について食べ始める。
リュイくんやレミさんもそんなロイくんを微笑ましそうにみながら、ご飯を食べ始める。
ちなみに私はイチゴジャムのサンドイッチである。
私とリュイくんとロイくんは朝食後にギルドへ向かった。
リュイくんに今日も町からでるのかと聞かれたが、しばらく光の柱は遠慮したいのと、服を買いたいのもあり、町での仕事にすることを伝えた。
リュイくんは外での仕事を行うそうだ。ギルドで目ぼしい依頼を探している間に早々とギルドから出て行っていた。
ロイくんも受ける依頼がだいたい決まっているらしく、目当ての依頼を見つけると嬉々として出発した。
私も誘われたが、ドブネズミ退治は遠慮したい。
「悩んでるの?」
初級依頼ボードを穴があくほどみていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると、初めてギルドに来た時に、受付を教えてくれたお姉さんだった。
「あっ。あのときの」
「覚えててくれたんだ」
「お姉さんこそ、覚えててくれたんですね」
「カーティナクルよ。カーティって呼んで」
「カーティさん」
カーティさんは、耳が尖っているので、たぶんエルフ族なのだろう。
スラリとした高身長、豊満なお胸様、レッドバイオレットカラーのロングヘアー、どこをとっても美女である。
「依頼に困っているなら、一緒にしない?」
そう言ってカーティさんが指差したのは、『コンテストの準備』という依頼だった。
なんでも、明後日の土曜祭で新しい試みとして、野外ステージを行うらしく、そのステージの準備とリハーサルの手伝いをする人を募集しているらしい。
当日も含めて3日間で4万ネルになるらしい。
日給でお給料はでないが、アークシィ家でお世話になるので宿代を気にしなくていいのでもってこいである。
「やります!」
今日の作業はお昼からということなので、それまでの時間はかねてより欲しかった洋服を見て回ることにした。
カーティさんも一緒にとのことだったので、色々と意見をもらいながら店をまわった。
ワンピースやカーディガン、スカートとブラウスなど2、3日分の衣服を買うことができた。
おかげでせっかく昨日稼いだお金がほぼ0となった。
「お昼どうする?」
「あっ!」
カーティさんにご飯のことを聞かれて、ご飯代を残していなかったことに気づいた。
リュイくんにも注意されたし、召喚本で用意することはできない。
私は慌てて手元のお金を数えてみる。
「380ネルしかありません」
悲しそうに伝える私に、カーティさんはしたり顔で笑った。
「大丈夫。足りる」
そう言ったカーティさんに付いて行き、内商業区画にあるとある店を訪れた。
『喫茶ボン』
そう書かれた看板にはコーヒーのようなイラストが添えられていた。
「ここ、友達が営業していてね、ランチはなんと、たったの300ネル」
カーティさんは自慢げに紹介し、お店のドアを開けた。
「いらっしゃい。あっカーティ!来たくれたんだ」
店員さんは可愛らしい羊の獣人族だった。
制服と思われる正統派メイド服を着こなし、カーティさんと同じ髪色で、ボブカットヘアーに羊のツノが髪飾りのようにアクセントになっている。
「リリィっていうの。リリィ、こちら新しく友達になったの、アズサよ」
カーティさんに紹介され、リリィさんと会釈をし合う。
リリィさんは羊の獣人と結婚しており、その旦那さんが料理を作っているらしい。
カーティさんいわく、異種族での結婚は珍しいらしく、リリィさんと旦那さんは好奇の目で見られているそうだ。
そのことにカーティさんは腹を立てているのだが、当の2人は意に介さないらしい。
自分のことのように怒るカーティさんは、よほどリリィさんが大好きなのだろう。
「それもあるけど、カーティはヤンクルさんとのことも考えているんでしょ」
カーティさんをからかっていると、料理を持って来たリリィさんが話しに加わった。
「ヤンクルさんって?」
「リリィ!」
「カーティの片思い相手よ。精霊族なの」
顔を真っ赤にして、リリィさんを睨みつけるカーティさんだが、可愛いとしか言えない。
精霊族は特に異種族との結婚を認めない風習が強いらしく、カーティさんの魅力を持ってしても成就していないそうだ。
リリィさん的にはヤンクルさんも悪い気はしていないそうだが、やはり種族の掟を持ち出されると応とは言えないらしい。
今回の土曜祭では告白イベントもあるらしく、リリィさんはカーティさんに勧めていた。
「ごちそうさまでした」
時間もそろそろ近づいて来たので、カーティさんとイベントの設営会場まで向かう。
設営会場では10人ちかくの人がすでに、仕事を待っていた。
そこに一人の老人が近づいて来た。写真でだけは見たことがある町長だ。
「えー、みなさん。集りいただきありがとうございます。イベント成功目指して頑張りましょう」
町長の言葉のあと、ギルド証を係の人へ見せる。
私とカーティさんは、町へイベントのチラシを貼っていく仕事を任された。
「貴族区画の方面ね」
カーティさんに続いて、担当の地区へ向かう。実は貴族区画に入るのは初めてである。
一般区画の家に比べ、土地が広い印象を受ける。
街灯や区画掲示板などにチラシを貼っていく。
「カーティ?なにやってるの?」
「ヤンクル」
とある豪邸のバラに気を取られていると、後ろを歩いていたカーティさんが、思い人であるヤンクルさんと出会っていた。
私は気付かれないようにヤンクルさんを見てみる。
ホワイトアッシュの短髪を遊ばせた長身のイケメンである。
カーティさんと負けずとも劣らない美形なので、眼福( 複眼は主に昆虫の眼)である。並んでる姿がてぇてぇ。
カーティさんとヤンクルさんはしばらく談笑していたので、私は気付かれないようにチラシ貼りを再開した。
カーティさんたちを気にしていたからか、バラの綺麗な豪邸の角を曲がったところで人とぶつかってしまう。
「ごめんなさい」
「俺の方も前を見ていなかった」
私がぶつかった衝撃で倒れそうになったので、手を引いて支えてくれた。
とっさに謝り、相手を見るとこれまたイケメンが立っていた。