ソリーガ
「これで手続き完了です。こちらが身分証になります。町への出入りに使用しますので、無くさないようにお願いいたします」
ソリーガの門から5分ほど歩いた場所に役所はあり、そこで身分証が交付された。
竹製の免許証みたいな形状で、2本の波線の枠がある。
左上には六角形の中にヒスイランの花のようなイラストが、右上には桜の花の中心に花びらが重なったようなイラストが描かれている。
身分証には左上に所属領、右上に所属町の紋章が描かれるらしい。
つまり、ヒラード領のソリーガの住民という事が一目瞭然らしい。
記載されている内容は、名前や年齢、ジョブ、備考欄である。
備考欄には犯罪歴などが記載されていくので、無記入であることが重要ということだ。
手書きではなく、ライターというジョブの人の魔法で刻まれているので、偽造は困難らしい。
この身分証はケルジヘビ王国でのみ使え、ほかの国に行く場合はパスポート的な証明書が必要だそうだ。
「ご希望でしたら、町案内のボランティアがありますので、いかがですか?」
「ぜひ、お願いします」
ヘンリーさんのお言葉に甘えて、この町の案内を頼むことにした。
ヘンリーさんが役場の奥に行くと、また角笛の音がした。
微妙に音色が違うため、この音色の違いで要件を判断しているとみた。
ややこしいな。
「ランです。 よろしくお願いします!」
そしてやってきたのが、耳としっぽのある元気一杯の10歳くらいの女の子だった。
獣人族って、初めて見た。可愛い。狼かな?
「ランちゃん。よろしくお願い致します」
「お姉ちゃんは、どんな所周りたい?」
「そうだなぁ。ランちゃんがよく行くところや、食べ物屋さんとか、生活用品売ってるところとかかな?」
私がそう告げると、ランちゃんは元気よく「こっち」っと役所から飛び出していく。
私は慌てて、ランちゃんを追いかけた。
「待って、待って」
役所から出ると、ランちゃんは既に100m以上先にいた。
運動神経すごっ。
私の呼びかけに、ハッとして急ブレーキをかけるランちゃん。
その顔はしょんぼりとしていた。
「ごめんなさい。 慌てちゃダメって言われてたのに」
今にも泣きだしそうなランちゃん。
「大丈夫だよ。今から気をつけてくれたら。さっ、行こ?」
私はランちゃんの頭を撫でながらそう伝える。
ランちゃんは笑顔で頷いてまた、歩き出した。
今度の速度はちょうどよく、しばらく歩くと噴水がある広場に出た。
「ここが中央噴水で、ソリーガの中心地点だよ。迷子になったら、とりあえずここ目指すの」
ヒラード領に属する町は、ほぼ六角形の形をしており、ソリーガもそうなのだそうだ。
この中央噴水を中心点として対角線で区切った6区画から成り立っている。
入口から右側1区画が役所や冒険者ギルド、宿屋など、町が管理する物件がある町区画。
左側1区画は町の外から来た商売人が商売するブースが並んでいる外商業区画。
そのさらに左側1区画はこの町の人たちの商売ブースがある内商業区画。
残りは住宅区画で、町区画のさらに右側1区画が一般区画、入口から遠い2区画が貴族区画だそうだ。
貴族区画といっても門などがある訳ではなく、自由に出入り出来るみたいだ。
「今日はありがとう」
ランちゃんに安い店や景色のいい場所などの情報をもらい、中央噴水の場所でお別れをした。
町区画に戻り、とりあえず冒険者ギルドへと行く。
なぜなら住む場所を探そうと思ったが、私には所持金がないことに気がついたからだ。
とりあえず宿が借りられるくらいの日銭を稼がなければ。
召喚魔法があるので、ご飯の心配をしなくていいのがありがたかった。
「こんにちは。初めて?」
冒険者ギルドに入り、中をキョロキョロと見回していると、スラリとした高身長の美女に話しかけられた。
「はい。どうしたらいいかわからなくて」
「初めてなら、入口すぐの受付でギルド証を作るといいよ」
お姉さんはそう言って1つの区画を指さした。
私はお姉さんにお礼を言って、その区画へと向かった。
「こんにちは」
「すみません。初めてなんですけど」
「わかりました。それではギルド証を作りますので、こちらの記入をお願いします」
ボブカットのほんわかした雰囲気の女性職員に促されるまま、記入を済ます。
記入した用紙を職員女性に渡すと、女性職員の手元が光る。
「こちらがギルド証です。初心者の方への依頼は入口左の初級依頼ボードでご希望の依頼を選んでください」
ライターのジョブの人なんだ。他の人の魔法って、初めて見た。
職員女性からあらかたのギルド説明を受け、私は初級依頼ボードへと向かった。
ギルドのランクはS〜Fまで細かく刻まれるが、依頼は上級、中級、初級の3段階らしい。
D〜Fまでが初級で受注の処理は必要なく、納品により依頼達成となるそうだ。
BとCは中級で、SとAが上級だそうだ。
この2つは受注処理が必要で、依頼は入口正面の受付横にある依頼ボードに貼られている。
希望の依頼用紙を受付まで持っていくそうだ。
初級依頼ボードの依頼は、薬草採取や魔獣の素材収集、ネズミ駆除、ゴミ掃除など様々であった。
天空都市であるソリーガでは、薬草採取や魔獣の素材収集のために、地上まで降りる必要があるらしい。
なので、高齢の方や面倒と思う商人が依頼しているそうだ。
今はお昼時で時間もないので、ソリーガ内で出来る商品整理の仕事をする事にした。
夕方までには宿を決めたいからね。
「こんにちは」
依頼書に記載された地図を頼りに、外商業区画にある一件の店を訪れた。
そこにいたターザンハットの妙齢の男性にギルド証を見せると、男性は軽くギルド証を確認すると奥を指差した。
ギルド証には名前とジョブ、ランクなどが記載されている。
「ここにあるダンボールを整理して欲しいんじゃ」
男性に連れられ店の奥に行くと、ダンボールが山積みにされている。
結構な数だ……。地震があったら大変だな。
ダンボール一つの整理で150ネルという単位のお金を貰える。
ランちゃんに紹介されて見た飲食店の金額を考えるに、1円=1ネルあたりだろう。
宿は1泊2000円程なので14箱は最低でも捌かないといけない。
男性に軽く説明を受け、ダンボールを捌いていく。
ダンボールの中を確認し、店舗の商品の棚へ向う。
陳列数が10個ほどになるように陳列し、残りは個数を記入し、その商品の棚下へと収納していく。
1つのダンボールは10分ほどで捌けるので、およそ2時間程で14箱は捌き終わった。
時間に関してはまだ多少の猶予があるため、4時のチャイムまではこの作業を行うことにした。
チャイムというのは、朝の8時から1時間ごとに20時までなるそうだ。
実は朝の8時は高音のド、9時はシ、10時はラ♯と半音下がっていくらしいが、そこまでの区別は私にはわからない。
16時はミの音だが判断はつかないので、次のチャイムということにした。