北の大地
北の大地と呼ばれる地方は、町からも少し離れておりイエティがでるともされている。
危険な地帯なので人も近づかないのだが、なぜか存在するのが女神様が言っていたイグルーだ。
誰が作ったか判明しないので不気味の象徴として語り継がれている。
たまに面白半分で遊びに行く冒険者がいるのだが、その全員が記憶を無くして町の入り口で佇んでいたそうで、私たちがその場所に向かうのも止められた。
危険な場所ではあるが、ウーガのためにも行かなくてはと、寒さなのか恐怖なのか震える足を前に繰り出す。
馬は足場が悪いため、町の人に頼んで面倒を見てもらうことになっている。
「滑りやすいから気をつけて」
先導にヤンクルさん、私とカーティさんがそれに続き、ガインランクさんがしんがりを務める。
寒さで口を動かすのも億劫なため必然的に口数が減って行く。
町の人からの情報でだいたいのイグルーの場所が判明したため、その場所への最短ルートを通っている。
丸1日歩き続けるが、それらしき物体が見えてくることもなかった。
休憩を挟みながら進んでいるとはいえ、寒さで十分に体力が回復することなく疲労は蓄積されていく。
とはいえ、テントを用意して泊まるにしても、十分な暖を確保できない以上、凍死という結果になる。
「とりあえず、進むしかないな」
休憩の回数を増やし、少しづつ少しづつ進んで行く。
「あ、あれ」
カーティさんが進行方向右側の山を指差す。
遠目から雪の山が確認できたので、一同でそちらの方向へ進行する。
1時間ほどかけて到着すると、直径10mほどの大きなイグルーがあった。
「危険な気配は感じないな」
ヤンクルさんとガイランクさんが周りを見渡し、安全かどうかを確かめていた。
私は雪道で危ないからと召喚を解除していたウーガとマフィンを再度召喚した。
「周りは大丈夫そうだし、中入ってみるか」
今度はガイランクさんを先頭にイグルーの中へ突入する。
ウーガは雪に埋もれないよう抱っこして、マフィンはなぜか浮遊して動いていた。
入り口からトンネルのような通路を通り、布がかかった先に入ると大きな広い部屋にでる。
床には動物の毛皮を絨毯として敷いており、中央には作業台として机が設置されていた。
「なにもないな」
机の上にろうそく立てがある以外なにもない空間であった。
「部屋の中ってだけでだいぶ寒さが紛れるわね」
「もしかしたら他にもイグルーがあるのかもしれないし、今日はここで泊まって、明日また探してみようか」
疲労が限界で眠たいのもあり、みんな泊まるのには大賛成であった。
「机邪魔だし端によけるか」
ガイランクさんとヤンクルさんが机を退けている間に、私は寝袋を4人分召喚する。
「ん? ここ凹んでる」
机があった場所が他の部分より地面が凹んでいたため、気になったヤンクルさんが絨毯を剥いでいた。
「床下収納かな?」
木でできた扉が絨毯の下から現れ、気になったので扉を開けてみることにする。
するとそこには地下への道が続いており、梯子がかかっていた。
「おりれるみたいだけど、どうする?」
「そりゃ降りるだろ」
薄暗い中進まないといけないので、足元に注意しながら手始めにガイランクさんが降りていく。
手が使えて明かりも確保できるヘッドライトを渡しておいた。
「書庫みたいな感じだな」
下に降りたガイランクさんから安全の確認が出たので、全員で地下へと降りる。
かなりの広さがある地下で、一面本棚と本とに埋め尽くされていた。
「もしかしてこの中から魔術に関する情報を探せってことか?」
途方も無い量に全員の視線が泳いでしまう。
とりあえず、端からタイトルだけでも追っていくことになり、4隅に別れて作業することになった。
私は梯子から降りて右端から開始した。
天井まで届く本棚にびっちり本が詰まっているので、1つの棚を確認するのに結構な時間がかかる。
ようやく棚ひとつ見終わる頃には全員へとへとになっていた。
「とりあえず、残りは明日にしないかい?」
ヤンクルさんの提案に一度地上に戻り、睡眠をとる。
次の日の朝、別に記憶をなくして町に戻っていることもなく、イグルーの中で目が覚めた。
「さて、再開しますか」
朝食を素早く済ませ、足取りは重いが地下へと降りていく。
全員が昨日の続きの棚へ向かい、私も昨日の棚の反対側の面を確認していく。
上から確認し、下2段目あたりで、本棚がくっついている壁際にさらなる空洞があるように見えた。
「ガイランクさん、ここ隙間ある」
私は近くにいたガイランクさんを呼び、そのスペースを指差す。
「おー。奥まで続いてそうだな」
全員で本棚の本を退け、本棚自体を横へずらすと、そこにはさらなる道が続いていた。
「とりあえず、先見てくるわ」
ヘッドライトをつけたガイランクさんが安全の確認をしにいく。
数分経ったのち、ガイランクさんが戻ってきた。
「研究施設というか実験施設みたいな、そんな感じだった」
奥には試験官が並んだ机に、拘束具のついた椅子やベッド、ガラス張りの小部屋があった。
「実験隊がいなくてよかったわ」
随分と使われていないのか、すべてが埃をかぶっていた。
机の上に並べられた本を私は1冊手に取る。
『研究日誌No.38』
そう書かれた本には、実験体Dの日々の様子が書き綴られていた。
『○月○日
今日は試験薬Bの実験だ。前回は拒絶反応により3日間昏睡状態に陥ってしまったので、薬品の量を減らしてみた。
やはりまだ量が多かったのか、また昏睡してしまった。
あまり量を減らしすぎると効果がなくなる可能性もあるので、次の実験で失敗したら破棄処分にする。
○月○日
昏睡状態はまた3日続いた。
今日も試験薬Bを投与する。今回は昏睡しなかったが、発狂してしまった。
正常な精神でなければ意味がないので、破棄処分とする。
辺境の魔女が実験体を欲しがっていたので売ることにした。』
その日誌はそのページで終わっていた。
次の本には『研究日誌No.39』と書かれており、実験体Fの様子が書かれていた。
机の横にも高く積みげられている研究日誌を確認していくと、魔王のペットとなる魔力持ちの人間を作ろうとしていたことが読み取れた。
そしてその中に1冊、『魔術からの防衛方法』と書かれた本が紛れていた。




