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とうとうガイランクさんとのデートの日がやってきた。
朝からソワソワとしている私をレミさんは生暖かい眼差しで見送ってくれた。
待ち合わせを決めていなかったので、会えなければ仕事すればいいかと、ギルドで依頼書を物色していた。
「待ち合わせしてないとはいえ、仕事探すとはひでぇな」
「あっガイランクさん。おはようございます」
「はよ。いい仕事あったか?」
「いえ、特には」
結局数分後には、ガイランクさんが真後ろに立っていた。
私は気持ちを落ち着かせるために、これはデートだとは思わない事にした。
「アズサは金欠なんだろ?だったらいいとこ連れっててやるよ」
「いいとこ?」
どこかいやらしい表現ではあったが、ガイランクさんが連れてきてくれたのは、地下ダンジョンであった。
光の柱から地上に降りて、2人乗りで馬に乗り20分ほど走らせた場所にあった。
ドキドキイベントではあるが、馬に初めて乗る私には、別の意味でのドキドキイベントであった。
「ここ、そんな強い敵でないし、日帰りで来れるから。ドロップアイテムも売れるしちょうどいいだろ」
ガイランクさんのおかげで今日も稼げそうである。
地下1階には芋虫のような敵が出てきた。見た目がグロテクスなのと効率が悪いので飛ばさせてもらった。
地下2階にはウサギの魔物スノーラビットであった。この魔物は土曜祭の時に焼き鳥として食べて美味しかった記憶がある。
しかし食品系は買取業者が決まっているなどの大人の諸事情でここもパスする事となる。
地下3階に現れたのは、鳥型のモンスターであった。ヤークィルという名前で、羽やツノ、嘴などがドロップする(本当はお肉も)。
ヤークィルは孔雀のような見た目をしており、鳥型と言っても飛べない鳥のようだ。
「ヤークィルは羽を広げている状態の時は無敵だから、羽を広げる前に討伐すること」
ガイランクさんはそういいながら1匹のヤークィルを討伐した。
ダンジョンにヤークィルが吸収されるとその場には羽が数枚残った。
攻撃の仕方としては、ナイフでシュッとやっていた。……私には真似のできない芸当である。
一応、サバイバル大全集からサバイバルナイフを召喚しておく事とした。
「はっ? なんだそれ? アズサって鑑定士じゃねぇの?」
「あっ」
またやってしまった。
あれほど天使様やリュイくんに注意されたというのに、私の頭は学習しないらしい。
「いや、……召喚士です。はい」
「召喚士って、……まあいいか。他にどんなの召喚できるんだ?」
ガイランクさんはさして気にせず、いや興味津々ではあるのだが、悪意はなさそうである。
私はサバイバル大全集をガイランクさんに渡してみた。
「いや、ほいほい渡しちゃダメだろ」
……いや、本当である。警戒心がなさすぎる。
「へぇ、テントとかもあんのか。便利だな」
私が自己嫌悪に陥っているなか、ガイランクさんは興味深そうに大全集を読んでいる。
「これとか、便利そうだな」
そういってガイランクさんが指差したのは、なぜか載っているライフルであった。
すごくワクワクした顔でこちらをみていた。
私は、少年のようなガイランクさんの可愛さに負け、ライフルを召喚していた。
「どうぞ」
「おー。さんきゅー」
ガイランクさんは、嬉しそうにライフルを持つと、数発そこらへんを歩いていたヤークィルを撃つ。
「おー」
動かずしてヤークィルを倒せた事にガイランクさんは、ホクホクした顔で喜んでいた。
「……今更ですけど、デートでダンジョン来ます?普通」
「別にどこでもいいんじゃねぇの? 俺は一緒に過ごせれればいいし」
ドロップしたアイテムを拾いながら、当たり前のように言うガイランクさんのセリフに、私はひとり悶えていた。
「にしても、すげぇなこれ。めっちゃ狩れるし」
「お気に召したようでよかったです」
「他になんか召喚できんの?」
「いろいろありますよ。私、規格外みたいなんで」
そういいながら、私は所持している辞典を出してみた。
もうバレてるし、遠慮はいらないと10冊ドドンと出すと、ガイランクさんは引きつった顔をしていた。
「すげぇ出てくんじゃん」
「たくさんあるって言ったじゃないですか」
「料理本とかあんのか。飯困んねぇな。……おっ、かっけぇ」
ガイランクさんは私が出した図鑑をパラパラ捲りながら、流し読みして、恐竜図鑑に感激していた。
恐竜は男心をくすぐるのは、どの世界でも同じなんだな。私はしみじみと思った。
「まあ確信したが、アズサって異世界人なんだ」
「まぁ、そうですね」
「なんで隠してんの?」
「別に隠してる訳じゃないですよ。……言いふらしてないだけで」
「でもカーティナクルも知らねぇだろ?」
ガイランクさんは痛いところをついてくる。
わざわざ異世界人なんだと説明するのも憚られるので、言わないだけで聞かれれば普通に答えるのだが。
聞かれてないから知らないだけで、カーティさんに隠している訳ではない。
……訳ではないのだが、どこか気まずい。
「ま、カーティナクルも気づいてるだろうけどな」
そうだといいのだが。
私は、希望的願望を持ちつつ、ガイランクさんの言葉に曖昧に頷く。
「それより、これ食べてみてえ」
ガイランクさんは食べ物図鑑のなかから、リュイくんも選んだステーキを指差していた。
ザ・肉食の見た目通りのチョイスである。
私は、前回と同じようにステーキとご飯、コーンスープを召喚して振る舞った。
ガイランクさんはガツガツと食べ、なんならお代わりまでした。
午後からは、私の召喚ありきの階層にいくことになった。
「地下15階から大型のモンスターが出るんだけどな、ちょうど価格が高騰してるのが地下20階にいるんだよ」
遠慮したいのに引きずられるようにしてついた地下20階。
そこには、3つの頭と蛇の尾をもつケルベロスに激似のモンスターがいた。
「このケルベロスがドロップする、爪や牙なんかが今高値なんだよ」
いや本当にケルベロスなんかい!
私は事前にお願いされていた、ティラノサウルスを恐竜図鑑から召喚した。
「おー、やっぱかっけぇ」
ガイランクさんが感動していたが、私は脳内に響いた通知音と目の前にあらわれた案内画面にびっくりする。
これ、戦闘中に出ると邪魔なんだが?
『一気に100MPを消費した記念にスキルを獲得できます
1.採掘
2.絶対音感
3.魅了
4.バフ:攻撃力アップ
5.治癒魔法:病気(精神)
獲得したいスキルを1つ選んでください』