月下水宝玉
「カーティナクルとの話はいいのか?」
ガイランクさんの隣で採取を始めると、ガイランクさんが作業を続けながら聞いてくる。
私は先程カーティさんと話した内容をまた話した。
「だからあの状況か。アズサは持ってて平気なのか?」
ガイランクさんは一人納得しながら作業を続けていた。やっぱり男の人は平気なものなのだろう。
「嫌だけど、1粒500ネルだから」
「さすがだな」
私のセリフにガイランクさんは大爆笑した。
そりゃ万年金欠には本当の意味で宝だよ。
「ガイランクさんはカーティさんと仲良いんだね」
「そりゃヤンクルと3人で幼なじみだからな」
ガイランクさんは10歳やそこらから、2人のドギマギ恋愛劇を見せられていたらしい。
美少女カーティさんを想像しながら物思いにふける私に、ガイランクさんはゲンナリした顔をみせる。
「あれが10数年続いたんだぜ。からかう気力も残ってねぇよ。アズサに協力して貰えて助かった」
「あのあと、ヤンクルさんはどんなでした?」
ガイランクさんは、作業の手を一切止めず、憔悴したヤンクルさんのその後を語ってくれた。
凝り固まった固定概念はやはり一筋縄ではいかないらしい。
それでも以前よりは、異種族に対する恋愛観が変わってきている……かもとのことだ。
カーティさんの恋はまだまだ前途多難なようです。
「いつまで続けるんですか?」
「なにがだ?」
手を止めずに尋ねる私に、ガイランクさんも作業を続けながら返す。
絶対にわかっているのに聞き返すのは、私に対する嫌がらせだろう。
「偽装関係」
「……俺は別に偽装と思ってないけど?」
ほら、そうやって私の心をかき乱す事を言うんだから。
私は作業を続けたままのガイランクさんを見られていないとわかりながらも睨みつける。
「俺はお膳立てとは言ったが、偽装とは言ってないけど?」
いつの間にかガイランクさんも作業を止めて私を見ていた。
「私に本気で告白した訳じゃないでしょ?」
「……本気じゃなきゃするかよ」
「はい?」
ボソッと呟くように喋るガイランクさんに思わず私は聞き返してしまった。
「なんとも思ってない女に告白なんてするかよ」
目線をそらし、そっぽを向くガイランクさん。その耳は真っ赤になっていた。
は?本気の本気な訳?
私は混乱して、真っ赤になりながらガイランクさんを見つめる。
「あんま見んなし。というか、適当に返事されていたわけだ」
ガイランクさんの大きな手が、私の目を塞ぐ。
そしてボソッと悲しそうに呟いた。
「だって、あんな言い方じゃ嘘だと思うじゃん」
私はガイランクさんの手を外そうと腕を掴むが、ビクともしない。
「本気だよ。本気でアズサが好きなんだ。……告白、ちゃんと受け取ってくれる?」
ガイランクさんは目を塞いだまま、私の耳元で囁いた。
ちょっちょっ、タイム!
私、前の世界でも恋愛なんてした事ないのに、こんな色気放出されてどう対処したらいいのかわからないんだけど。
囁かれた耳を抑えながら、私の思考は停止してしまった。
「ガイ、ランクさん」
「まっ、自分でもあの言い方はセコかったかなって思ってるから、保留でもいいよ」
なんて返そうかとあたふたしているうちに、ガイランクさんはパッと手を離した。
「でも、デートはするぞ」
見上げた先のガイランクさんは顔色は元に戻っており、ニヤリと笑っていた。
「ほら、はやく集めないと、帰宅の時間になるぞ」
言い返そうとする私の言葉を遮り、ガイランクさんは何事もなかったかのように作業を再開した。
私は蒸し返すのも嫌で、同じく作業に戻った。
カーティさんが呼びにくるまで黙々と作業し、今日の成果は50粒となった。
ちなみにガイランクさんは私の3倍以上の量があった。
ギルドで換金してもらい、私の懐は着々と潤いつつあった。
「4日後、俺休みだから、空けとけよ。デート、するから」
帰り際にガイランクさんから宣告を受けた。
わざわざデートという言葉を強調するのは、確信犯であろう。
私は顔を真っ赤にしながら帰宅する羽目になった。
「おかえりなさい」
アークシィ家では、レミさんが迎え入れてくれた。
昨日は屋台での購入品が晩御飯だったが、今日はレミさんの手作りである。
ジョブ:コックの料理なので、朝からとても楽しみだったのだ。
用意してくれていたのは、レアカツだった。
カットされた肉の断面がジュアっとしており、肉の赤みがはっきり残るレアで食欲をそそる。
私はいつものロイくんのように待ちきれないと、椅子に座る。
ちなみにロイくんは既に座っていた。
レミさんとお手伝いをしていたリュイくんも席に着いたところで、レアカツをいただく。
衣はサクサク、お肉はジュワッと口に旨味が広がる。味付けはシンプルに塩である。
これが一番うまい!
レミさんの料理に舌鼓を打ちつつ、ロイくんの今日のお話を聞く。
優雅な晩御飯の風景である。
みんなが寝静まった頃、私はダイニングテーブルに座っていた。レミさんと一緒に。
元気になったので、せっかくだからとお酒を2人で飲む事にしたのだ。
ちなみに、レミさんは明日から仕事探しらしく、張り切っていた。
……レミさんの働く店には絶対遊びに行こう。そう強く思う。
レミさんの作ったツマミの美味しさもあり、酒も進み私は恋愛相談なるものをしていた。
ガイランクさんが偽装じゃないと言ったこと、デートに誘われたこと、恋愛なんかした事ないから自分の気持ちが一切わからないこと、レミさんになんでも話してしまっていた。
「アズサさんは、自分の気持ちがわからないのね」
レミさんは困ったように笑っていた。
「私はアズサさんの気持ちが分かるわけではないけど、ドキドキしてるって事は意識してるって事よ。お互いに知っていけば、結論もでるでしょうし。今は現状維持でいいんじゃない?」
相手もそれで納得してる訳だし。とありがたいお言葉を頂いた。
そんなものなのかと納得をする。
私が深く考えすぎていたのかもしれない、そんな気までしてきた。
「他の男の人も視野に入れておく事も大切よ」
レミさんいわく、比べるのは悪いことではないらしい。
あの人のここがいい。あの人のここは嫌だ。でも、ここは妥協できる。
恋愛感情も大切だけど、相手と一緒にいて苦じゃない事も大切だと教わった。
「まあ、私は失敗しちゃった訳だけどね」
なんとレミさんの旦那さんは失踪してしまったらしい。
レミさんが病に倒れて暫くすると、家に帰ってこなくなったそうだ。
……なんて悪どい男なのだ。
未だ見たことない旦那さんに怒りを感じた。




