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「はい」

私は震える声で返事を返した。

マイクを通さない小さな声だったのに、静かになっていた会場では私の声はしっかりとガイランクさんに届いていた。

ガイランクさんはステージの上でガッツポーズをする。会場からも拍手が鳴り響く。


ガイランクさんはステージから降りて、私の方へ向かってくる。

ステージでは次の人が登壇していた。

「アズサさん」

手を振りながらやってくるガイランクさんに私は顔を真っ赤にしながら、手を振り返す。

この人、演技が上手だな。随分と嬉しそうな顔をするガイランクさんを見て、そんな感想が思い浮かぶ。


横にいるカーティさんは衝撃のあまり、口をあんぐり開けている。

ガイランクさんの反対側からはヤンクルさんがやって来ていた。

「ガイランク!お前どういうつもりだい」

「どういうことも、こういう事だよ」

ガイランクさんはヤンクルさんの言葉に、私の手を恋人繋ぎで握り、持ち上げる。

「アズサさんは、人間だよね?」


「精霊族以外と付き合うなんて、正気なのかい?」

荒々しいヤンクルさんの言葉に、横にいるカーティさんが傷ついた顔をしている。

「種族なんての気にして、好きな相手を他に取られるなんてバカだろ」

ガイランクさんはバカにした顔と声でヤンクルさんに返答する。

ガイランクさんとヤンクルさんの間にバチバチという音が聞こえそうなくらい、殺伐としている。


「好きだから付き合いたい。それで十分だろ」

そのガイランクさんの一言に、今まで言い募っていたヤンクルさんが目をパチクリとさせる。

憑き物が落ちた様子で、ガイランクさんの言葉を繰り返した。

「そうだよ。掟なんかに自分の人生台無しにされたくねぇだろ」

とどめの一言にヤンクルさんの戦闘力は0となった。


「カーティはどう思う?」

「私はもともと種族違ってもいい派の人間よ」

迷子になった目をしたヤンクルさんは隣にいたカーティさんに助けを求めるが、バッサリと切り捨てられていた。

凝り固まった固定概念がほぐれるといいんだけど。

ヤンクルさんは随分とやつれた顔をして、その場を離れて行った。

ガイランクさんは、一応友達だからさ。とヤンクルさんを追いかけていく。


カーティさんと2人きりになったところで、ジトッとした目でカーティさんに見られる。

「いつのまにガイランクと仲良くなったのよ。ていうか先越しやがって」

私は、えへへと笑うしかなかった。



その日の夜、アークシィ家でも問い詰められてしまった。

主にレミさんに。

ちょうど広間に戻ってきたタイミングだったらしく、ばっちり聞かれていたみたいだ。


カーティさん以外を騙すつもりは一切ないので、ヤンクルさんとカーティさんの話をし、偽装だと伝える。

レミさんは安心した顔で私の顔を見た。

「そうなの。よかった、よかった」

と、そう呟いた。

なにが良いのかと問い詰めたい。



さて、土曜祭から一夜明けて、今日も今日とて依頼を探しにギルドへいる。

アークシィ家にいつまでもお世話になるわけにもいかないので、荒稼ぎが必要である。

「大丈夫よ。自分家と思って長居してくれたら」

とレミさんは言うが、真に受けるわけにもいかない。

まあ、もうしばらくお世話になる予定ではあるのだが……。



土曜祭の仕事のおかげでギルドランクがEランクに上がった。

次のDランクまでさらに100ポイントが必要だそうだ。

まだまだ初級依頼ボードのお世話になる。

依頼ボードには代り映えしない依頼しかない。

私は初級依頼ボードの前でうーうー唸ることとなる。


「牛みてぇな声だしてんな」

「ガイランクさん!」

「暇してるならと思ったが、モノマネで忙しそうだな」

突然後ろから声をかけられたと思うと、ガイランクさんがいた。

揶揄われるので言い返していると、さらにカーティさんが合流した。


「あんた仕事はどうしたのよ」

「今日は休み。……ヤンクルは当番だぞ」

「き、聞いてないし! それよりアズサ、今日はこの仕事がオススメなのよ」

カーティさんもガイランクさんに揶揄われ、真っ赤な顔で1枚の依頼書を指差す。

「へぇ、いいじゃん。俺も一緒に行く」


かくして3人での『月下水宝玉の採取』が始まった。

光の柱は遠慮したかったが、ガイランクさんに手を引かれて、留まることができなかった。

月下水宝玉とは『タマユラ池』の水辺に落ちている宝石で、満月の次の日にしか採取できない代物らしい。

どういった原理でそこに落ちているのかが解明されておらず、不思議という付加価値がついてかなりの金額で取引されているらしい。


タマユラ池にはすでに大勢の人がいた。

みんなこぞって水辺に屈み込み、草むらを物色していた。

「あそこらへん空いてるな」

人の隙間を縫って、私たちも月下水宝玉の採取を行う。


米粒サイズの雫型をしたラピスラズリのようなものであった。

ものは試しと、その月下水宝玉を解析してみた。

『月下水宝玉:満月の夜にだけタマユラ池に生息する幻のユラガエルの排泄物である』

「ぎゃー!」

私は思わずその宝玉を放り投げてしまった。


いきなり大声を出したために、周りからの突き刺さるような視線を感じ、顔をうつむかせ、再度採取を始めた。

これは、宝石。これは、宝石。うんちじゃない。そう言い聞かせて。

「いきなりどうしたのよ」

心配してカーティさんが話しかけてくれる。


私はカーティさんに涙声で、コソコソとこれがうんちであると伝える。

「きゃー!」

カーティさんも同じように、手に持っていた宝玉を放り投げた。

……やっぱりそういう反応になるよね。


周りの目が冷たくなって来たので、私とカーティさんは、水辺から離れた。

木陰で2人座って、1人作業を続けるガイランクさんを眺める。

「アズサ、鑑定士だったの?」

「ううん。解析のスキル使ったの」

カーティさんはびっくりした顔をしながらも、歴史を揺るがす発見ではないかと伝えてくる。


しかし、この話を本当と信じる人が何人いるのだろうか。

最高ランクの鑑定士たちがこぞって鑑定しても不明でしかなかった宝玉が、ペーペーの鑑定士ですらないDランクの解析スキルで解き明かされるとは。

絶対誰も信じないであろう。

ならば、あれはうんちではなく、やはり宝玉ではないのか。


1粒で500ネルという破格の価格を思うと、やはり私は暗示をかけてでも採取を行うべきだ。

そう思い、1人カーティさんを残し、ガイランクさんと混じって作業を行なった。

……カーティさんは絶対に参加しないと言い張った。



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