小学生の頃に石蹴りしてたら、ベンツにそれをぶつけかけた思い出
登りはよいよい下りが怖い。
これなーんだ。
答え、足への負担。
いや、まじでさ。中学生くらいの頃は、親父が『下りの方がしんどいんだよね……』って言っていた意味が分からなかったんだよ。今は、それが登りで疲弊したところに、下り坂で強制的にダメージを与えられ続けられることを指してんだな、と分かるようになってしまった。
やっぱ、あの頃よりは老いてるよねえ。
「どう思う?」
「鍛え方が悪い」
実にバッサリだった。
ただ、まあ確かに佐伯は見たところ元気だ。一応、俺は大学でも運動部に所属してるから同年代では動ける方なんだけど、佐伯を気遣って足を止めるなんてことは一度もない。というか、俺の方が置いていかれそう。
「そんなこと言う佐伯は、鍛えてるの?」
佐伯の目の光がスンッと消える。ケモ耳は、後ろの方に向かってピーンと伸びた。
えーと、イカ耳だっけ。警戒するときの耳。
因みに、腕の中で未だにすよすよ寝てるケモ耳はあっちこっち自由に向いてる。リラックスしてるときの耳。
「山籠りすれば、一瞬でな……………また今度、連れていってやるさ…………」
「え、いらない」
どこに行くかは知らないけど、そんな地獄の底から響く重低音みたいな声(勿論、聞いたことはない)でお誘いされる場所なんて、ろくでもないとこでしょ。
というか、山籠りってそんな修験者みたいなこと、俺はやりたくないよ。
「バイト代だけは、素晴らしいぞ…………?」
「だけは、っていう点でいやなんだよ」
というか、バイトなのかよ。
そんな冗談も交えつつ、俺達は順調に参道を下っていっていた。
「そういえば、全然参りしてないな」
「ほんとだ」
ここの神社は、スタート地点というか社務所も置かれている大きな拝殿がひとつと、この千本鳥居のエリアに数ヶ所のお社がある。
なんでお参りしてなかったかというと、佐伯の耳騒動でそれどころじゃなかったからだ。
折よく、お社があったのでこれまた階段を昇って、二礼二拍一礼。
「ただ、ひとつ思うんだ」
「なに?」
「お前の腕の中に、既に眷属はいらっしゃるんだから、これ以上の御利益はないんじゃないか?」
『kon!』
ほんとだ。
そして、やっと起きたんだね狐さん。
◆
お狐さんともお別れを済まして、無事に帰路につく。
「ねえ、佐伯」
佐伯のケモ耳も、なくなった。どうやら、あの狐さんと離れたからのようだ。
「どうした」
「なんで、俺達ハイヤーで送ってもらうことになったの……?」
本革製の座席に、ゆったりとした空間。
うん。
まごうことなく、高級車だ。
「それは私が、断りきれなかったからだな」
神主さん、目が血走ってたもんね……。というか、そんなことより。
(巫女か……)
佐伯の巫女。
それを知った神主さんは、慌てて社務所から飛び出してきて、なんなら土下座までしていた。
尋常な反応ではない。
多分、佐伯が実家と上手くいっていないのも、そこら辺に理由があるのだろう。
ふう、と短く息を吐く。いつか佐伯から、俺に話してくれたときに、ちょっとでも何かができるように色々頑張らないとな、何ができるか分からないけど。
何はともあれ。
佐伯。
「楽しかった?」
「ああ」
何よりだ。
初詣でーとおしまい