第2話 転生そして始まり
あー、一体いつになったら完全没入型のゲームが発売されるんだろう?
会社帰り、俺はスーパーで半額弁当を買い、そんな事を考えながら手に持ったビニール袋をプラプラとさせながら1人バカな事を考えていた。
三十歳。
恋人なし。
友人、小学生以来存在しない
貯金そこそこ。
趣味はゲーム。
職業はプログラマー
子供の頃の夢は自分だけの世界を、自分の理想の世界を作って楽しむこと
子供の頃あった夢は馬鹿みたいに壮大だった事を覚えている。何でこんな夢を持ったのかというとおそらく祖父の影響だと思う。俺の祖父は作家だった。それも絵本作家。祖父の家に行くと祖父が描いた絵本がたくさんあった。小人の世界の絵本。ロボットの世界の絵本。騎士が出てくる絵本。本当に色々あった。まぁどの作品もそれほど売れてはいなかったがどの絵本もとても面白かったのを覚えている。
そんな祖父が子供の頃の俺にずっと言っていた。「ワシが絵本を描くのは自分の好きな世界を作れるから、それ以外にないぞー」とその話を聞いた時は意味がわからなかったが小学生になった時にようやくわかった。。自分で一から考え、育て、作り上げることの楽しさというものが、だからこそ俺は今の職業についたんだ。一からプログラミングして自分だけのコードを作る事ができるプログラマーという職業に。もちろん作家の道も考えたが……売れない、本当に売れない。本を出す事はできたのだがまぁ売れない。その時に担当編集さんに言われたがどうやら俺は設定を考えるのがものすごい上手いが話を進行するのが致命的に下手だという事。そんな訳で作家の道はすぐに諦めてしまった。売れない作家には生きていく術がない、食っていけないならどうすることもできない、今でも一応物語を書いてはいるがどこにも掲載せずデータの奥底に沈んでいる。(世界観設定だけはもの凄く作り込んだものが沢山ある)
そんな俺がずっと考えている事。それが完全没入型のVRMMOを作りたい、である。自分の思い描いた自分だけの世界を創り上げてみたい。そんな夢とも言えない馬鹿な絵空事。
「ま、今の技術力じゃあと100年くらいしないと出ないだろうけどね」
というか100年経っても発売されなさそうである。
「今世は無理だろうけど来世があるなら、ワンチャンねぇかな。」
そんな独り言を呟いた時だった。
「ニャ?」
短い鳴き声。顔を上げると、一匹の白猫がいた。とっても綺麗な猫だった。そんな綺麗な猫が道路の真ん中で呑気に立ち尽くしている。
そしてその向こうから、大型トラックが猛スピードで迫っている。
運転手も気付いていない。
「ちょっ!?」
考えるより先に身体が動いた。動いてしまった。猫を抱え込み、全力で飛ぶ。あぁくっそ、体の動きが悪い、ちくしょうもっと普段から運動しておくべきだった。コレじゃ避けきれない
そんな後悔をしていると一瞬だけ、猫と目が合った。とても綺麗な紅い眼をしていた。
次の瞬間。
激しい衝撃。さらに何かがひしゃげる音。身体が宙を舞い、アスファルトへ叩きつけられた。
それを認識した瞬間音が消える。痛みも消える。
視界だけがゆっくり暗くなっていく。
(あー……終わったか)
最後に見えたのは、腕の中から逃げていく白猫の後ろ姿だった。
「ーーーせめて助かったならいいか」
その言葉を最後に、意識は闇へ溶けた。
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目を開く。そして慌てたように顔を上げるとそこには全てが真っ白な空間が広がっていた。床も天井も壁も何もかもが真っ白、ヤバい遠近感がおかしくなりそうだ。
「な…んだここ…?」
俺はそう言って呆然と立ち尽くす。待て待て待て待ってくれ。何だこれは夢か?いやそれにしては五感がしっかりしている。思考もはっきりしている。昨日食べたご飯も思い出せるくらいには記憶もしっかりしている。あきらかに夢の中ではない。
「あ、おきた?」
声が聞こえた。随分と軽い何の感情もこもっていない単調な声。俺はすぐに声のした方に顔を向けた。
するとそこに一人の青年が足を組んで座っていた。年齢は二十代にも老人にも見える。さらに性別も不明、ある時は女性に見えるのに瞬きをした次の瞬間男性の姿に見える。何コレきもちわりぃ……
髪は銀色。コレはわかる。性別だとか外見とかみたいに変化していない。それにもう一つ変わらないものは瞳だ。彼?彼女?の瞳は星空のように輝いていた。
「やほーー」
軽い。あまりにも軽い。マジで軽い。しかも抑揚がない。さらに聞こえる声も意味がわからない。男性の声にも子供の声にも女性の声にも聞こえる。頭がおかしくなりそうだ。というかもうすでにおかしくなってる気がする。
待て、取り敢えず状況を整理しなきゃいけない。まず初めにわかる事は、ここは
「……病院じゃない?」
「うん、神界。」
……は?
「……夢?」
「違うよ。それは君がすぐさま否定していたじゃないか」
何でそれを知っている?まさか心を読んだ?ってことは…俺
「死んだ…のか…?」
「うん。」
あまりにもあっさりだった。本当にただ世間話をしているようにすらっと俺が死んだ事を宣告してくる。そして青年はどこからともなく紙を取り出す。
そこには大きくこう書いてあった。
【転生キャンペーン 抽選当選者】
「……何これ。」
「君、当たり。」
何が?というか
「宝くじみたいに言うなよ……」
よくわからない目の前の人物は俺のそんな渾身のツッコミにもほとんど反応を示さず淡々と説明を始める。クソ何だコイツ…マイペースすぎるだろ…
「猫助けて死ぬ人って結構いるけど、その中からランダム抽選。」
「なんて?」
猫を助けて死んだ人専用の抽選?何だよその限定的すぎる抽選は
「2度は言わない」
「……」
そうかよ……何となく読めてきた。というかコイツにとってこの作業はただの流れ作業なんだろう、昔バイトしていた時に見たいつもの流れ作業に飽きた人達とおんなじ匂いがする。要するに俺と会話するつもりは欠片も無いんだ。だって何度も繰り返してきた事だから会話をするだけ時間を消費してしまうことがめんどくさいから
「じゃあ転生先決めようか。」
奴、いや神でいいか……。明らかに上位存在だし…神がそう言うとどこからともなく巨大なルーレットが現れた。
異世界
未来世界
宇宙に進出した世界
江戸時代
恐竜時代
魔法世界
近未来
そして
【現代日本】
「え、異世界行きたい」
「運だから。」
嘘だろ。この期に及んで現代日本に行くことあんの?俺があまりにも予想していなかったルーレット内容に驚いていると。神が問答無用といった感じにルーレットを回した。
ガラガラガラガラ……とかなり安っぽい音を鳴らしながらルーレットが周り数秒後針が止まった。
カチッ
【現代日本】
「……。」
Oh……
「おめでとう」
「いや…えぇ……」
神は肩をすくめた。今回ばかりは神の感情が読めた気がする。多分「コイツ運ねぇな」とか考えてるだろ…どうすんだよ現代日本とか…別に特別なスキルもない俺が言ったところで死ぬ前と同じような生活するだけだぞ…幼少期は神童ムーブとかできるかもしれないが…
「じゃあ次は転生特典をあげる」
おっと話が変わってきたぞ?いやそれはだいぶ変わってくるぞ!?いや待て落ち着け冷静になれ俺
「それもルーレットですか?」
「いや、君の好きなものをあげるよ、まぁ世界を壊すようなものはダメだけどね」
マジか…そう来たか…そうなると現代日本に転生は俺にとって大当たりってことになるぞ!特典がもらえなかったらガチで終わってる転生先だったけど
兼ねてよりあった夢のため俺は、迷わず口にした。
「一人で完全没入型VRMMOを作れる才能が欲しい。」
神は一瞬だけ目を丸くした。
「そんなのでいいの?」
いやこの願いはそんなものレベルじゃ無いと思うんだけど…
「もちろんです」
「ふーん、才能ね、珍しいね多少とはいえ努力しないと成就しない特典を選ぶ人は」
パチン。神が変なものを見るような視線を俺に向けながら指を鳴らした。
「はい終了」
「え?」
「付与したよ。」
神がそう言うと同時に俺の頭のあまりにも膨大な情報が流れ込む。というか頭が痛い!?
量子演算。
神経接続。
人工知能。
脳波同期。
超伝導。
未知の数学。
知らないプログラム言語。
そんなあまりにも未来にある知識がーーー理解できる。
全部理解できる。
「…………」
やっべ、これ…
「じゃ、いってらっしゃい。」
「ちょっーー」
その瞬間、身体が光へ包まれた。
ピッ――――。
ピッ――――。
一定のリズムで鳴り響く電子音が聞こえてくる。それと周囲からガヤガヤとした声も聞こえる。重たい瞼をゆっくりと開くと、真っ白な天井が視界いっぱいに広がっていた。周囲を見ようと首を動かそうとするが全く動いてくれない?固定されている?
「……ここは」
それと喉がひどく乾いている。声を出そうとしても、かすれた音しか出なかった。ただ口から出た声は明らかに普段の自分の声ではない?。声変わりしている中年のおっさんの声ではなくかなり高音の声だ。
というか身体が全く動いてくれない。背中が痒いんですが……ツーンとする鼻をつく消毒液の匂い。天井のこの風景、そして視界の隅に映る沢山の器具……ここもしかして病室か?
その考えに至った瞬間、大量の記憶が頭へ流れ込んできた。
幼稚園の卒園式。
ランドセルを買ってもらった日。
父とキャッチボールをした公園。
母と作ったカレー。
そして――
雨の日の高速道路。
横転するトラック。
悲鳴。
ガラスが砕ける音。
赤く染まる車内。
そこで記憶は途切れていた。俺はいまだに重たい瞼を静かに閉じる。
「……そっか」
自分は転生した。しかも、よくある赤ん坊からのスタートではなく事故で脳死状態になっていた少年に憑依する形で。
榊裕一の身体を借りる形で転生した。くっそ、神様よぉ……転生するとは聞いたけどこんな形はおかしいだろ…俺みたいなおっさんを転生させるくらいなら脳死したこの子を復活させるとか出来なかったのかよ…
会ったこともない少年なのに、その記憶は鮮明で温かいんだ。真っ当に両親に愛されて育った、普通の男の子。将来の夢にサッカー選手になる事を挙げるくらいスポーツが好きな少年。
「……ごめんな、それとーーーありがとう」
誰にも聞こえないほど小さな、それでいて掠れた声で呟く。
「君の身体、無駄にはしない」
その言葉と同時に、不思議と胸の奥が軽くなった気がした。まるで裕一君自身が納得してくれたようだった。
数日後。医者たちは大騒ぎになっていた。まぁそれもそうである。普通に脳死判定を受けた子供の意識が戻ったのだ。初めに俺の意識が戻った事を確認した看護師さんなんか驚きすぎてヤバいことになってたぞ、点滴の袋を床に落として慌てながら俺の意識を確認した瞬間大声を出して他の看護師さんを呼び、全力でナースコールを押していた。正直かなり面白かった。
おっと、誰か来た?うーんここ最近俺の病室を訪ねてくる人多いなぁ…いやまぁ理由は明白なんだけどね?脳死から復活してる訳だし…
「信じられない……脳死判定だったはずだぞ」
「奇跡だ……」
「後遺症は?」
「ありません。むしろ正常です」
うーん、ここ最近ずっとこの調子だなぁ…流石に疲れてきた…見せもの小屋にいる動物みたいな気持ちになってくる。うーん、取り敢えず脳内で小説のアイデアでも考えておこうかな…昔からの俺の習慣、暇になったり、嫌なことがあったり、嫌な気分になった時はいつもこうして気持ちを紛らわせている。
そう考えた瞬間。脳内で声が聞こえた。
【思考分割システム、起動可能】
「……?」
直後。世界が変わった。
一つだった思考が二つに。二つが三つに。三つが四つに。そして五つへ。まるで頭の中に五人の自分が存在しているようだった。え、なにこれ!?マジで何これ!?びっくりしすぎて声が出そうになったぞ!?何とか我慢したけど!
待てちょっと待て、これもしかしてこんなこともできるんじゃ…そう考えた俺は取り敢えずとある事を試してみた。
一人は周囲を観察し、
一人は裕一の記憶を整理し、
一人は神から授かった知識を確認し、
一人は今後の生活を考え、
最後の一人今の現状を考えている俺
「すご……」
あまりの性能に思わず口が開く。というか気持ち悪りぃ!?今この瞬間も脳内に何人もの俺がいる!?挨拶したら挨拶が返ってくる!?
というか俺こんなチート要求していないんだけど!?俺のお願いしたら特典は『1人で完全没入型のゲーム』を作れ……る…ように……
おい
おい、これまさか!文字通りの意味で捉えたのか!?1人で!俺1人で開発も、シナリオもその他全てを俺1人で完成させられるように思考を分割できるってことか!?そうだよな!?そりゃそうだ!『1人』でゲームを作るんだ。そうでもしないと手が、思考が足りねぇよな!?
めちゃくちゃ力技だけど…これなら……本当に一人でゲームが作れる!!今別の俺が漁っている神様から貰った情報をしっかり用いて自分の糧にすることができれば…できる!!ずっと考えていた理想の世界が!!
そう確信した瞬間だった。病室の外から騒がしい声が聞こえてきた。あーまた始まった……
「遺産はどうなるんだ!」
「あの家はうちが管理した方がいい!」
「子供一人で生きられるわけない!」
「親族会議を開くべきだ!」
俺はゆっくりと窓の外を見る。まぁうん、そりゃそうなる…俺が乗り移ったこの子、榊裕一くんのご両親はどうやらかなりの高給取りだったようで遺産としてかなりの額の貯金された額に大きめな庭付きの一軒家、さらに事故にあった時に乗っていた車は壊れてしまったらしいがもう一台裕一くんのパパさんが趣味として持っていた高級車があり、さらに幾つかの投資信託があるのだ。全部諸々合わせて……前世うだつの上がらない一般人をしていた俺からは想像できない金額である。超怖い。
そうなるとまぁ…こうなる…親戚一同俺を引き取るもしくは財産管理人にさえなれればと考える人もそりゃ出てくる。もちろん日本の司法で親族が遺産を好き勝手させられないように法整備をしているだろうが俺こと榊裕一くんは現在小学一年生の6歳である。何とか言いくるめれると考えるクソみたいな大人は大勢いるだろう。
俺は世知辛いというかクソッタレな世界と直面しながらぼーっと空を見る。そこには青空が広がっていた。わぁ…いい天気…ドアの向こうはドロドロに濁っているけどそんな状況とは真逆のように澄み渡ってるぜ!あ、なんかドカッという音が聞こえた…
あーーこれ殴り合ってるな……はは…終わってるぜ…取り敢えず味方になりそうな大人はいなさそうですね…
俺が転生していなかったら裕一君ご両親亡くした上に親族のドロドロしたやり合いに巻き込まれてたのか…最悪だなぁ…




