第28話
「おお……」
俺は非常に戸惑っていた。というのも開店と同時に入店してきたお客様がオネエさん方だったからだ。
しかも10人、俺のボックス席に座ったよ。正確には4人席なのに6人が詰めて座り、少し若そうな4人が床に座ったので、慌ててロックスキルで背もたれのない小さな椅子を4脚出した。
「おお、ありがとさん」
「すまん」
「おう」
「気がきくな」
「い、いえ」
言葉遣いが普通に男性のままで驚いたけど、ここでもオネエさんがいるんだね。
カツラを被ってフリフリのワンピースを着ているけど、ヒゲの剃り跡が青々してて体格がゴツいから似合ってない……なんて言葉はもちろん呑み込んだ。
「おい」
「お前が……」
「お前こそ……」
小声で話しているからよく聞こえないけど、お前言えよ、というようなお互いがお互いに小突きあっていて仲は良さげ。ケガもしている様子がないし……
——彼と彼が……それともこっち……
彼らの仲良さげな様子を見て俺は分かってしまった。砦には男性しか滞在していない。
自然とその道に目覚めてしまう人がいても不思議ではないということに。
そして、仮設とはいえ男娼館ができれば興味が湧くし入ってみたくもなる。
——なるほどそういう事、だよね?
しかし、なんで俺のボックス席。イケメン男娼さんはいっぱいいるよ。
——ヘルプミー……
男娼館に勤めてからはじめて助けがほしいと思い他の男娼さんの方にアイコンタクトしたら、素早く視線を逸らされてしまった。
——のぉぉぉ……
英語は苦手だけどついそう叫んで(心の中で)しまうくらいすでにパニック状態よ。
そりゃあ他の男娼さんのお客様をとるのは御法度だけど相手の人数が多いんですよ……
「とりあえずエールを人数分くれ」
「は、はひぃ……喜んで」
ん? 言葉遣いも普通、態度も普通。これは好みの男娼さんがいなかったから仕方なく俺のボックス席に座ったって流れかな? そういえば俺も指名されてないよな?
そうだよ。このボックス席は端の方で衝立(シゲさんが立てた)もあり他のお客様からは見えにくいからね。お忍びにはちょうどいい。
——そうだ。きっとそう……あれ?
エールを人数分準備しながらオネエさん方をチラ見してたらちょっとした違和感に気づいちゃった。
たぶん少し冷静になれたからかな。
彼女? (彼)らの身体には薄黒い何か張り付いているのだ。
そしてクリンライトケアを使えば治せそうだともね。
——もしかして……
クリンライトケアといえはアイツら黒いモゾモゾに似た何かだ。
あれが悪さをして冷静な判断ができなくなっているとか?
いや、オネエさんが悪いとかじゃないけど、彼女? (彼ら)らは仕草もオネエさんらしくないから……
「はぁ……俺は何を」
「私もそう思っております」
「まあまあウソだったとしても飲んで楽しく過ごしましょうや」
10人のオネエさんが何やら深刻そうな表情で話し込んでいるようだけど、マナーだからなるべく聞かないように意識する。
——でもな……
チラチラこっちを見てるから正直ちょっと怖い。今も俺の足は産まれたての子鹿のように震えているからね。
お腹いっぱいになるまでサービスしたら帰ってくれるかな?
——よし。
俺は気合いを入れて両手にエールを持ち、持てなかった分はポーチスキル(俺のポーチには何故か入る)に入れて早速行動に移す。
おっと、サービス用(保険用)に準備した唐揚げもポーチスキルに入れておかないと……
「エール、お待たせしました」
「おう、きたきた」
「待ってました」
「お前らもっと静かにしないか」
「そうだぞ、ここをどこだと思ってる」
「他のテーブルも盛り上がっていますので、多少騒ぐくらいは大丈夫ですよ」
笑顔を貼り付けながらもタイミングを図り、意を決して行動に移す。
自分でも自分らしくなく強引かなって思ったけど、このタイミングしかないから、やるしかないのだ。
冷静になって心変わりしないかなという期待を込めて。
奥に座っている1番年齢が高そうな彼女? (彼)の前にエールを置き、ヨロける振りをしてから彼女? の肩に手を置き一言謝ってから一気にスキルを使う。
「どうぞ……おわっとと、つい肩を、すみません」
——クリンライトケア!
そうしたら、ヤツ(黒いモゾモゾ)がヌルッと出てきて勝手に蒸発した。よしよし。
ついでに薄毛と持病(アレに元気が出ない)があったけど、なんなら一緒に治してしまったけど、今気にしたら次に進めないので気づかなかった事にしよう。
——ぷっ。
とはいえ、彼女?(彼)の髪の事なんて意識していなかったから、薄毛が治り不意にカツラがこんもり盛り上がった時には吹き出しそうになったよ。危ない。
苦情が出た時点で終わってしまうのだ。モタモタなんてしてられない、さっさと次の人の前にもエールを置き、同じようにしてクリンライトケアを使う。
お約束のようにヤツがヌルッと出てきてじゅわっと消えていく。ほほう。
ついでに薄毛と胃の調子が悪そうだったけど、そっちも一緒に治っていて結果オーライ。しかし薄毛多いな……不意打ち続きで気を抜くと笑いそう。
なんて事をみんな(10人)に繰り返ししていた失礼な俺なのに、オネエさん方は怒るどころか、何も言わずに黙ってエールを飲んでいたよ。いい人たちだ。
5人ほどが薄毛の人だったようで頭部のカツラが盛り上がっていて何とも言えない異様な雰囲気になっていたけどみんなはその事に触れずに飲んでいたね……俺はさっさと退散するけど。
「はじめてご来館でしたので、これは俺からのサービスです。どうぞ」
何事もなかったように唐揚げをテーブルに置いてから、逃げるようにカウンターに戻った。
「ゴローさんエールのおかわりいいですか?」
「ゴローさん唐揚げも追加ください」
意外と丁寧な言葉遣いのオネエさんたち。
注文をいっぱいくれるのは嬉しいけど、いつの間にか名前を覚えられていたから、内心ではこっちに来て話し相手になってくれっていつ言われるかビクビクしていた。
「ゴローさん、美味しかったです」
「ゴローさんありがとうございました」
「ゴローさんまた来ます」
「ありがとうございましたっ」
気持ちがいいくらい飲んで食べて、上機嫌に帰っていくオネエさま方に深々と頭を下げる俺。
結局は俺がサービスした数十倍は飲み食いしてくれる上客さんだった。
ここは仮設店舗だし、ひょっとしたら、今日の売り上げトップは俺かも、なんて事を考えたくらいに。
——え……
しかーし、他の男娼さんたちの方に目を向けて現実を思い知ったよ。
——うそ……
誰とは言わないけど、冒険者(女性)さん4人を連れて奥に向かう男娼さんを発見。
他にも3人の冒険者(女性)さんを連れて奥の部屋に入っていく男娼さん。
ボックス席には4、5人のお客様が普通にいて、多い人だと10人くらいの冒険者(女性)さんに囲まれている男娼さんまでいる。
仮設店舗なのにいつもの光景(本館)となんら変わりがない。彼らの指名の多さは相変わらずだった。
「……さてと、片付けでもしようかな」
「ゴロー」
「ゴローきたぞ」
現実を突きつけられて、今日も雑務を頑張ろうと気持ちを切り替えていたところに声がかかる。
——ん?
レイラさんとアンナさんだった。大怪我を負うほどの任務を引き受けていると知ってから心配でたまらない彼女たちが来店してくれたのだ。
「レイラさん、アンナさん」
一瞬で彼女たちの体調を確認する俺。よかった今日は大丈夫そうだ。
「いらっしゃい。よかった、本当によかった。心配していたんですよ」
「ゴロー……泣いてるのか、すまなかった」
「そんなに心配したのか、ってこら泣くヤツがあるか、その、なんか悪かったな」
オネエさん方の恐怖とレイラさんとアンナさんの無事がしれた事で涙腺が緩んでいた俺。慌てて涙を拭う。
「これは違うんです。違いますから、見ないでください。それよりも、ささどうぞ……」
——あ。
俺のボックス席に案内したのはいいけど片付けていなかった事に気づき慌てて頭を下げる。
「すみません、すぐに片付けますのでちょっとだけ時間をもらっていいですか?」
「ああ、構わないぞ」
「気にしてない、ゆっくりでいいからな」
彼女たちから許可をもらいすぐに片付けを始める。
まずはロックスキルで作った小さな椅子をサクッと消してから、テーブルの上の食器類にクリーンスキルを使う。
あとはポーチスキルに食器類を仕舞えば準備はオッケー。
「レイラさん、アンナさん、お待たせしてすみませんでした。どうぞ」
「ゴローは手際がいいな」
「あはは、ゴローなんだよ今の、全然待ったうちに入んねぇじゃねぇか」
アンナさんから肩をバシバシ叩かれながら注文を聞き、エールとおつまみをテーブルに運んだ時には真剣な表情で何やら話し合っていた。
「えっと、飲み物とおつまみ、ここに置いておきますね」
仕事の話だったら俺がいない方がいいだろうと思い気を効かせたつもりだったけど、余計なお世話だったらしい。
「ゴロー、一緒に飲まないか? もちろん私たちの奢りだ」
「そうだぜゴロー。一緒に飲もうぜ」
「えっと……いいんですか?」
とてもそんな雰囲気じゃなかったような気がしたけど……いいんだ。
「今日はゴローから貰った水に助けられた。ちょっとしたお礼だと思ってくれ」
「そうそう、ゴローの水がなかったら尻尾巻いて逃げ帰ってくるところだったからな、遠慮なく飲んでくれよ」
「そうなんですか? そういう事なら遠慮なくいただきます」
ここで俺に指名してくれる人なんて、オネエさんたちが異例だったくらいでレイラさんかアンナさんくらいのもの。
それから一緒になって飲んだり食べたりで、ふわふわのいい気分。
多少飲み過ぎたとしてもケアスキルでどうにでもなると思っていたからちょっと飲み過ぎてしまった。
「ほら、ゴロー食べろ」
「それレイナさんの箸ですよ〜いいんですか? もぐもぐ、あれ? 食べちゃいましたね。あはは、うまい」
「ゴロー飲め飲め」
「あはは、それ、アンナさんのジョッキで……ゴクゴク。ぷふぁ。うまいですね」
気づけばレイナさんとアンナさんと肩を組んで飲んでいたよ。
——幸せだ……
今の俺は彼女たちと肩を組んでいて両手が使えない状態。
だからまるでひな鳥のように彼女たちからエールやらおつまみやらを口まで運んでもらったよ。
「ゴロー、そろそろ奥に行こうか」
「おお、いいね、行こうぜ」
「あい。いきましょう」
飲みすぎてて足元がふらつくからうまく案内できているのかも定かではないけど、でも何故かいつも以上に上機嫌な彼女たち。
そんな彼女たちとの行為は昨日以上に激しくて気づいた時には、どことは言えないけど、もげるかと思った。
それでも彼女たちの肌のケアは忘れずにしっかりとさせてもらったので、はりはりのツヤツヤで大変素晴らしい。来店前よりも美しく。美人さんがもっと美人さんになったね。
「レイラさん、アンナさん。これを」
もちろん帰り際にはスキルの水が入った水筒を4本渡した。
お水のおかげで助かったと言われればいくらでもあげますとも。
4本しか渡さなかったのは水筒がなかったからだ。
「いいのかゴロー? 私としてはかなり助かるが」
「ゴロー、お前はいい男だよ。愛してるぜ」
「あはは。俺もですよ。本当はもっと渡したいんですけど水筒がなくて」
ロックスキルで容器をうまく作れればいいんだけど強度の確認が必要だし、あとはキャップの問題もあって、うまく噛み合ったとしてもゴムパッキンがないから倒した時に水漏れしそうなんだよな。
「明日もまた来る」
「また明日な」
お見送りをしていたら、彼女たちから不意打ちのハグをされた。
「へぁ?」
彼女たちの、まさかの行動に卒倒しそうになったけど、女性からハグをされるっていいもんだね。
「ふふ、ゴローいい顔だな」
「ゴロー、顔が真っ赤になってるぞ」
「そ、そりゃあ、嬉しいですから」
「ふふ、そうか」
「へへへ」
彼女たちの事をもっと好きになった俺はたぶんチョロい男なんだろうけど、俺は気にしないよ。
それからはいつもの雑務に追われることになったけど彼女たちの余韻に浸りながらの仕事はあっという間に終わる。とてもいい一日だったよ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




