【現代編】たいげい型潜水艦なんげい1
司令と制服組の偉い人の部屋であった出来事については、厳重な緘口令が敷かれた。
誰にも言うな。
そう命じられた。
もっとも、言うつもりなど千尋にはなかった。
自称ミネアポリス技官は、実は西郷吉之助のひいひい孫で、存在しないはずの国から来た貴族で、結婚すればNASAに解剖されずに済むらしい。
そんな話を誰かにしたら、機密漏洩以前に、頭のおかしい人だと思われる。
喋るわけがなかった。
その代わり、千尋には新たな命令が下された。
数日間の出張準備を行うこと。
必要最小限の荷物をまとめること。
指宿市山川港に所在する、第三区域潜水隊群本部へ出頭すること。
表向きの理由は、こうだった。
「狩られる側の気分を体験してこい」
対潜哨戒機乗りとして、潜水艦側の感覚を知ることは有益である。
そういう研修扱いらしい。
なるほど。
理屈は通っている。
通っているが。
絶対に、あの部屋での会話と関係がある。
千尋はそう確信していた。
山川港に到着した千尋を待っていたのは、たいげい型潜水艦――なんげい、だった。
黒い船体を見上げながら、千尋は心の中でそっとつぶやいた。
わたし、この子、シミュレーター戦で四回沈めてるんだよな。
もちろん、黙っておくことにした。
潜水艦乗りは、だいたい執念深い。
これは偏見ではない。経験則である。
千尋は、そう心に誓った。
だが、ハッチを降り、艦内を案内され、食堂に入った瞬間、その誓いは無意味だったことを知る。
食堂の壁に、手書きの横断幕が貼られていた。
『歓迎 吉野千尋三佐』
その横には、斜線入りの潜水艦マークが四つ。
撃沈マークである。
千尋は、数秒ほど黙った。
食堂にいた潜水艦乗りたちも、にこにこと黙っていた。
歓迎されている。
間違いなく歓迎されている。
「……はは」
千尋は、乾いた笑いを漏らした。
「こりゃあ参ったわ」
「ようこそ、吉野三佐」
艦長らしき男が、にこやかに手を差し出した。
「シミュレーターでは、ずいぶん世話になりました」
「いえ、訓練ですので」
「四回沈められました」
「……訓練ですので」
「本日は、存分に狩られる側を味わっていただきます」
「お手柔らかにお願いします」
「潜水艦に、手柔らかという言葉はありません」
「ですよね」




